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「…!?」
こさめが目を覚ますと、知らない部屋にいた。寝起きのせいか、頭の回転が遅い。しばらくして状況を理解する。昨日体調不良で黒羽の家に泊まったのだ。
「…え、先輩…!?」
こさめに抱きついている人の名前を呼ぶ。真っ黒な女子のような髪の毛と、大きなパーカー。目の下が腫れていて、泣いたのがわかった。部屋を見回す。ギターが一つ、他には本棚と譜面台、小さな椅子。本棚の上に置いてある写真立て。写真立てにはこさめにそっくりな男子がいて、幼い頃の黒羽らしき人影が見える。ギターには「-HiSaMe-」という青い刺繍と、「*Kuroha*」という黄緑色の刺繍が施されていた。
「ひさめ……?」
そう呟いた途端、黒羽が飛び起きた。突然の行動に驚く。今ので目が覚めた気がする。
「おはよ!朝ごはんにしよか!」
いつもの黒羽だ。ホッとすると同時に、何か悲しいものが見えた気がした。
黒羽は明るく振る舞おうと努めていたが、こさめにはその裏にある悲しみが垣間見えてしまった。黒羽が泣いていた理由が、少しだけ理解できた気がした。彼の中にある過去の痛みが、こさめに重くのしかかる。
「先輩、大丈夫ですか?」
こさめは心配そうに尋ねたが、黒羽は笑顔を崩さずに答えた。
「え?大丈夫やで。さ、朝ごはん作るで!」
黒羽の声にはどこか無理をしているような響きがあったが、こさめはそれ以上何も言えなかった。彼の背中を見送りながら、こさめは静かに自分の思いを整理し始めた。黒羽の過去、兄との思い出、そして今の彼の姿。こさめにとってはすべてが新しい情報だったが、それでも彼は黒羽を支えたいと思った。
「先輩、こさめも手伝います!」
こさめはベッドから飛び起きて、黒羽の後を追った。朝の光が窓から差し込む中、二人は一緒に朝食を作り始めた。黒羽の涙の跡を忘れさせるように、笑顔と温かい朝の空気が部屋を満たしていった。
黒羽はバターロールパンをこさめに渡す。今日は日曜日で学校も休み。今日は何をしてすごそうか。そう考えていると、黒羽が言った。
「こさめちゃん、写真立て見たやろ?」
こさめはパンを口に入れながら頷いた。黒羽は続けた。
「あれ、うちの兄さん。高三の時に癌で亡くなっててん。ひさめっていうんやけど。兄さんこさめちゃんにめっちゃ似ててな。つい懐かしくなって抱っこして寝ちゃったんよ。ごめんね。」
黒羽は申し訳なさそうに笑った。こさめは首を横にぶんぶんと振った。
「いや!全然だいじょーぶです!っていうか、そんなことがあったんですね…」
こさめは黒羽の気持ちを思い、心が痛んだ。彼が抱える悲しみや過去の重さを感じながらも、何も言えずにいた。
「ありがとう、こさめちゃん。話してすっきりしたわ。」
黒羽は感謝の気持ちを込めて微笑んだ。その笑顔には少しだけ安心感が漂っていた。
豁サ縺セ縺ァ谿九j__________一年と9か月。
黒羽の家から帰る。黒羽は愛想のいい笑顔でこさめを見送ってくれた。
空は真っ青で、何かいいことがありそう。そう思わせる空だった。
「お そ ら く 、 癌 で す ね 。黒 羽 さ ん の 場 合 、ス テ ー ジ Ⅳ で す ね 」
「…そうですか。」
「二年、保つか保たないか…」
「どうしますか?入院して少しでも寿命を伸ばすか。それとも精一杯人生を楽しむか。」
「……精一杯、人生を___」
黒羽は病院の待合室で、心の奥底から込み上げる感情を抑えつつ、医者の言葉に耳を傾けていた。白く明るい診察室が、突然重
く、暗く感じられる。その瞬間、頭の中で様々な思いが駆け巡った。
「二年…か。」
黒羽は呟くように言った。二年という限られた時間が、今まで当たり前に感じていた日常をどれだけ貴重なものに変えるのか、理
解し始めていた。
「黒羽さん、どちらを選びますか?」
医者の問いかけに、黒羽は深呼吸をした。目の前には、自分の人生の選択肢が広がっている。そして、ふと、兄・霈(ひさめ)の
言葉を思い出した。
「黒羽もいつか、アイドルになれるよ。兄さん応援する」
その言葉が、黒羽の心に強く響いた。兄の夢を引き継ぎ、自分の夢を追いかけることが、今この瞬間の選択に繋がると感じた。
「……精一杯、人生を楽しむことにします。」
黒羽は、意を決して答えた。医者は静かに頷き、黒羽の決意を尊重するかのように言葉を紡いだ。
「わかりました。サポートはしっかりさせていただきます。何か困ったことがあれば、いつでも相談してください。」
診察室を出た黒羽は、青い空を見上げた。これからの時間を、どれだけ大切に過ごすことができるか、自分次第だと感じた。
「兄さん、俺は負けないよ。」
黒羽は心の中で誓い、再び歩き始めた。限られた時間の中で、精一杯の笑顔と努力を重ねる決意を胸に抱いて。