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タクシーの中がしんっと静かになる。
「永井くん、あのっ……」
「いいから」
手は繋いだままで、永井くんは窓の外を見ている。後ろ姿もなんだか素敵だなぁ。そう思ってじっと家に着くまで、背中を見つめていた。
十分ほどで自宅のアパートの前に着く。
「あの……ありがとう」
「はい。じゃあまた明日」
走り去るタクシーを見送って、アパートのエントランスを通り、エレベーターに乗る。小さな胸のときめきを抑え込むことに必死で、メイクだけ落としてベッドにぼすんと飛び込んだ。
頭の中がドクドクと脈打ってなかなか眠れない。
金曜夜から来てって言ってたな。週末サブスク……って、土日は泊まるってこと!? これからしばらくは抱かれる週末になるのだろうか。
そう考えただけで、お腹の奥がきゅんとする。とにかく煩悩を振り払い、羊を数えまくってなんとか眠りについた。
3.体力勝負の週末「藤原さーん、気にすることないわよー。あなたかわいいし、またいい人見つかるってー!!」
リフレッシュルームでばしばしと人間スピーカーのおばさまに肩を叩かれて、私はあははと乾いた笑いを繰り出していた。
「そ、そうですよね!! 仕事が恋人だと思ってがんばります!!」
いい人紹介するわよー! と言われたけれど、それは丁重にお断りした。
「今日は金曜日だし、ぱーっと飲みにでも行ったらいいじゃない!」
「あはは……」
|金曜日《・・・》。そのキーワードにどきんと胸がひとつ鳴る。週末サブスクは今夜から始まる。
仕事が終わったら、荷物を持って家にくるよう永井くんから前もって連絡が来ていた。ほんとにお泊まりなんだと、妙なドキドキが止まらない。
周りからの視線を痛いほど感じながらの赤裸々トーク。ランチタイムのリフレッシュルームは人も多い。人間スピーカーの名に恥じない素晴らしい声量で、おばさまは話をすすめる。
「あたしでよければ、いつでも話し聞くから!!」
はーいと、首をすくめて無理矢理笑顔を作る。元気もなにも、とにかくこの場はこうするしかない。
復讐のためとはいえ、ボディブローのように地味に心に効いている。別れた悲しみなのか、憐れみの視線のせいなのか。
これで私と|伊吹《元カレ》が別れたことは、同じフロアの人たちにはだいたい知れ渡っただろう。
こんなんで本当に復讐遂行できるのかな。疑問は消えないけれど、とにかくやってみるしかない。 いまは仕事が恋人。それは本当のことだ。そうは思っても昨日の会議は地獄に近かった。あれは一体なんだったのだろう。
***
社長はじめ、重役揃っての会議はいつも胃がおかしくなりそうになる。
商品企画部からは私と|伊吹《元カレ》と、部長の3人。
営業部からは永井くんに、営業部長と人間スピーカーのおばさまの3人が参加した。
あとは社長と副社長がくるのを待つのみ。しんと静かな会議室。そこへ社長と副社長が現れて、全員立ち上がる。