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その後ろからぴょこんと現れた女性。
なんで来るかなぁ。確かにたった半年で社長秘書に躍り出た強者であることに間違いないだろうけど、会議にまで出る必要あるのかな。
えっ? という雰囲気をもろともせず颯爽と副社長の後ろをついてくる。
「今日は見学がてら美濃さんにも同席してもらうので、頼むな」
「突然申し訳ありません、よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げた彼女。きれいにまとめた髪の毛はさすが秘書。立ち振る舞いは完璧だ。
司会進行のため登壇している伊吹に、燎子はニコリと微笑みかける。そのあとこれ見よがしに私を見てニコッと笑った。きっと私に当てつけているのだろう。
一番後ろの席に彼女は座り、会議が始まった。
伊吹が順調に司会進行をしていく。一通り話しが終わると、補足を話し始めた。
「今回のキッチンはハイクラスマンションを想定して企画しています。そこで、ここにいる美濃さんのご友人にモニター協力を依頼しました」
な、も、モニター!? 確かに伊吹のつてでモニターをしてもらえる人を見つけたとは言っていたけれど、まさか燎子の友人だとは思わなかった。
目配せしあう二人。あー!!! なんなのこれ!? もうあなたたちが幸せなのは十分に分かりました! とにかくここから早く退出させてほしい!!
燎子の友人に、ハイクラスマンションに住んでいる人が何人かいるらしく、その方々にモニターを頼み、アンケートを実施するとのこと。
社長の反応は上々で、少し変更点を指摘された程度で、ほぼこのまま進めるように言われて会議は終了した。
社長と副社長が会議室をあとにしても、燎子はまだ残って資料に目を通している。部長と話し終えた伊吹に近づいて、そっと声をかけていた。
「風見さん、お疲れさまでした。企画うまくいきそうですね」
「ありがとうございます、美濃さんに事前にお聞きしておいてよかったです」
なになに? 燎子に事前にいろいろ話していたのだろうか。商品開発はモニターの意見も重視している。燎子とも話す機会が増えるだろう。
その事実を突きつけられて、ガクッと肩を落とした。 何とか表情に出さないように必死だったけれど、気持ちの落ち方は半端ない。
同じ部署に伊吹がいるだけでも辛いのに、燎子とふたりで話し合うところまで見なくてはいけないとなると、もう目も当てられない。
「藤原さん。今後とも、よろしくお願いします」
先に会議室を出ようと急いで資料をまとめていると、燎子に唐突に声をかけられる。にこにこと嬉しそうな顔の奥に、何かわからないけれど、燃えるようなものを感じる。
「あ、はい。よろしくおねがいします」
これ以上惨めな気分になりたくない。最低限の挨拶だけして、ペコリと頭を下げる。足早に入り口へ向かうと、ドアの近くで誰かにぶつかりそうになって足を止めた。
「藤原さん?」
ぱっと顔を上げれば、それは永井くんだった。心配そうに私の顔を覗きこんでいる。一部始終を見られていたと思うと
、胸がぎゅっと締めつけられた。
私は下唇を噛んで目を床に落としてすぐ、精一杯の笑顔を作って顔を上げた。
「今日はありがとう! なにか気になることがあれば教えてね」
無理やり作った笑顔は完璧だったと思う。逃げるように会議室を出ると息を切らしてデスクに戻ってきた。
あと30分もすれば定時になる。もう今日は残業をする気になれない。
いつでも帰れるようにやりかけの仕事を片付けて、逃げるように退社した。