「デ、デートって、何でそうなるのよ?」
カーラの言葉にミルキィは狼狽える。
「だって、今日は朝からお休みなんですよね?それならどこかにお出かけしますよね?」
冒険者ではないカーラは、休みといえば遊ぶ日のことだ。
貯めたお給金で服を買ったり、美味しいモノ、話題のモノを食べに行ったりと。
それを男女で行えば、デートという言葉しか浮かばない。
「僕は街に出ても平気だけど…ミルキィは疲れてるよね?」
「だ、大丈夫よっ!行きましょうっ!」
冒険者の休日は人によるとしか言えないが、基本は身体を休める日である。
リフレッシュの仕方は人それぞれ。
酒を飲んで過ごす人。
寝て過ごす人。
ぶらぶらする人。
二人はいつも一緒であった。
その行動にデートという名前を付けられただけなのである。
その事にミルキィもレビンも気付かないまま、二人は宿を後にした。
「それで……デートって、なにするの?」
言葉は知っている。しかし、正確な意味も行動もわからないレビンは、ミルキィに聞いた。
わからない事はわからないと言えるレビンなのである。
「…それって、聞く事なのかしら?」
耳年増のミルキィは妄想の中ではしっかりと予習していた。
レビンの事はよく知っていた為、ため息混じりに話に応じた。
「綺麗な景色を見に行ったり、買い物をしたりして食事をした後、お洒落なや、や、や、や、宿で…ごにょごにょ」
「えっ?なに?最後の方が聞き取れなかったんだけど?」
ミルキィの情報はかなり偏っていたようだ。
「な、なんでもないわよっ!!それよりレビンは欲しいものや見たいものはないの?!」
無理矢理話を変えたミルキィは、レビンへと問う。
「うーーん」
何やら立ち止まり考え込んだレビンを見て、ミルキィは『これは長くなる奴だ…』と思ったが……
レビンは辺りをキョロキョロと見渡した後、ミルキィの予想に反しすぐに答えを出す。
「あっちに行こう」
「えっ!?ちょっ!?」
ミルキィの手を握り、急に歩き出したレビン。
ミルキィはいきなりの男らしい行動に、ドキがムネムネ……
「ここは…」
「店員さん。この子に合う可愛い服をお願いします」
レビン達がやってきたのは、この街にある数少ない普通の服が売ってある店だった。
この街はダンジョンのために存在している。
その為、お洒落な服は需要が少ない。少ないだけで全くないわけではないので、このような店も少ないながら存在していた。
「えっ?!いいわよ。今あるので…勿体無いわ」
ミルキィの生い立ちはエルフの王族であるが、育ちはただの村人である。なので、ミルキィの金銭感覚は貧乏性…倹約家であった。
夢は見るが、日常では現実的なのである。
乙女心とは、かくも難儀なものなのであった。
「今の服も似合ってるけど、ここの服装って僕達の持っているものとちょっと違うよね?
ミルキィの新しい姿が見たいなぁ」
レビンはこの面倒な幼馴染の扱いにかけては世界一である。
「そ、そう?そこまでいうなら見るだけね?」
「うん!気に入らなければやめたらいいよ」
レビンはミルキィの事しか視界にないので、ミルキィの機嫌を良くする事しか考えていない発言だったが……
ここでとある人物の魂に火をつけてしまった。
「…聞き捨てなりませんね。いいでしょう。こちらの麗しき乙女に似合う服を、必ずご用意いたします」
「えっ!?」
レビンの横から急に現れた女性に、レビンは知らないうちに喧嘩を売っていたようだ。
「申し遅れました。私この店の店主のキャシーと申します。
冒険者様のお眼鏡に叶う服をご用意致しますので、暫くお連れ様をお借りします」
「えっ?は、はぁ…?」
レビンがあっけに取られている内に、キャシーと名乗った30歳くらいの女性は、ミルキィを連れて店の奥へと消えてしまった。
「…なんかよくわかんないけど。まぁいいかっ!」
レビンはどこまでも楽天的であった。
人生なるようにしかならない時もある。このマインドがレビンの根幹を成しているのかもしれない。
小一時間後。
「お待たせしました。どうぞご覧ください」
店主キャシーの後ろからおずおずと姿を見せたのは……
「ミルキィ…?凄い…綺麗…」
ミルキィの装いは、ふんだんにレースがあしらわれた真っ白なワンピースドレスに黒い踵が高いロングブーツ。首に黒のチョーカー。腰には黒色のリボン。
美しく長い赤髪も、黒のリボンで纏められていた。
レースが使われている服は高級品の為、レビンもミルキィも見た事がない。
そして、真っ白な服。白の服といえば若干肌色がかったものしか知らないレビンは、真っ白の服も初めて目にした。
(凄い…新築の家の漆喰の壁みたいに白いや…)
まさかの家である。
綺麗な家と評したレビンだったが、ミルキィにはもちろん別の意味で伝わった事は言うまでもない。
「そ、そう?私も中々だと思うわ。ちなみにだけど、これはおいくらかしら?」
元々買う気のないミルキィだったが、レビンにこうも誉められては気になってしまう。
「金貨48枚です。ですがお客様ほどお似合いの方はいないので、45枚にまけさせてもらいます」
「よ、45…」
ミルキィは無駄遣いの範疇を超えた金額に絶句し、赤かった顔を青くして寂しそうに俯いてしまう。
そんなミルキィを見て、黙っている幼馴染ではない。
「買います。このまま着て行ってもいいですか?」
「はい!先程の服は袋に入れておきますね。少々お待ちを」
店主は売上にニコニコしながら奥へと向かった。そして、呆気に取られていたもう一人の幼馴染が、漸く現実へと戻ってくる。
「ば、馬鹿!?何を考えているのよ!」
「だって、ミルキィに似合うんだから仕方ないよ。それにこれまでのお礼でもあるんだから、受け取って欲しいな」
レビン。お金は半分はミルキィの物だよ?
しかし、ミルキィはそんな事を気にしてはいない。
そもそもここまで稼げたのは、レビンについてきたお陰とすら思っている。
そしてお金の管理はレビンに任せているので、単純にこの服が大金としか感じていなかった。
「……わかったわ。でもお金に困っても知らないんだからねっ!」
あまりの大金の使い道、そしてレビンに褒められた(謎)事によりテンションがおかしくなり、久しぶりのツンが出てしまったミルキィであった。
(ホントはミルキィの剣を買うお金だったけど……喜ぶモノを買う方がいいに決まってるよね?)
レビンに金銭管理はまだ早かったようだ。
「確かに景色は凄いわね…綺麗かどうかはわからないけど」
「そう?僕もよくわかんないけど、ここしかなかったんだ」
買い物の後は景色を観に行った。
レビンにデートのイロハはわからない。その為、ミルキィ情報に照らし合わせ、買い物→景色→食事となったのだ。
ここは冒険者ギルドがある円形要塞の屋上。
砂嵐がない時は解放されていて、食事やお酒を楽しむ事が出来る。
この街で高い建物と言えばここである。高い建物であれば景色が見える。
安易にそう考えたレビンは、ここに来る事を決断したのだ。
「でもホントに砂しかないね。不思議な場所だなぁ」
「そうね。でも、食べ物は色々な所から集まるから飽きないのは良いことよね」
二人は端のテーブル席に腰を掛け、砂に囲まれた街を眺めながら、国中から集められた様々な料理に舌鼓を打っていた。
「ミルキィの服も王都の有名な職人さんの作品らしいね」
「えぇ…私の着ている服が作品なんて…少し畏れ多いわ」
「ミルキィは美人だからそんな事はないんじゃない?」
(僕がそんなの着たら笑われるだろうけど)
「び、美人!?レビン!揶揄わないでよ!」
レビンに揶揄ったつもりは無かった。
これまでは村の中しか知らなかったので美人の尺度を持たなかったが、色々な所を見て回った結果、ミルキィより整った顔立ちをしている人を見た事がなかったのだ。
簡単にいうと消去法……
例外はミルキィの母親だけである。
そして、その母親を知っているからこそ、ミルキィが美人なのもレビンは納得している。
(僕の親は普通だからなぁ。まぁ、見た目なんてどうでもいいけど)
揶揄ったつもりはなく本心であるが、ここで反論したらなんだか恥ずかしいと思い、よくわからない自分のその気持ちに蓋をして、話題を変える。
「話は変わるけどさ。冒険に役立つ魔導具って何が思いつく?」
「全く脈絡がない話ね……はぁ。そうね。どの旅でもここでの活動でも感じるのは、水の不便さね。水を生み出す小型の魔導具があれば嬉しいわね。料理も捗るわ」
話の急な転換は慣れている。
レビンはいつもこうだからだ。
今回のデート(仮)ではドキドキさせられたけど幼馴染は相変わらずね、と思うミルキィであった。
レベル
レビン:12(98)
ミルキィ:87
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