ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)はしばらくシアン(擬人化したメスドラゴン)の『人形』になることが決定したため彼は彼女が満足するまで動けない。
「とりあえず左耳、舐めるよ」
いきなりか。
もう責める気満々だな。
「はむっ……」
彼女は彼の弱点である左耳に甘噛みすると、舌でゆっくりと舐め回した。
「……うん、おいしい。ずっと舐めていられる」
それは非常に困るのだが。
床に横になっているナオトはずっと天井しか見ていない。
「うーん、なんかつまらないな。あっ、そうだ」
彼女は彼の口をこじ開けると、彼の舌を親指と人差し指で挟《はさ》んだ。
「ナオト、私の唾液、飲んで」
それ、俺がヒバリ(『四聖獣《しせいじゅう》』の一体である『朱雀《すざく》』の本体)にしたやつだ。
「ちょっと待っててね。もう少し溜《た》めるから」
いや、まだ飲むなんて一言も言ってないんだけど。
「……よし、じゃあ、もっと口開けて」
も、もっと? あんまり開けても辛いだけなんだが。
「あっ、そうだ。口移ししよう」
え? それはちょっと困るな。
いや、ちょっとどころじゃない。かなり困るぞ。
彼は少しだけ右手の人差し指を動かした。
「ナオト、動いちゃダメだよ。今、ナオトは『お人形さん』なんだから」
彼女の顔が近づいてくる。
雛《ひな》に餌《えさ》を与える親鳥のように口に含んだ唾液を飲ませようとしている。
「ナオトー、どこにいるのー? ……って、ね、ねえ、シアン。これはいったいどういうこと?」
「吸血鬼に教えることは何もない」
ミノリ(吸血鬼)は苦笑しつつ彼女をナオトから引き剥がした。
「ナオトはお人好しだから、あんまり嫌だって言わないけど、あんたの欲を満たすための道具にするのは許さない。だから、もうやめて」
「なるほど。理解した。ナオト、もう動いていいよ」
「お、おう」
彼が上体を起こすと、彼女は彼をギュッと抱きしめた。
「ど、どうしたんだ? シアン。ミノリに何か言われたのか?」
「別に何も言われてない。あと、しばらくこのままでいたい。いい、かな?」
「ああ、いいぞ」
こいつ、瞬時にナオトが喜びそうなことをやり始めたわね。
まあ、ナオトに危害を加えそうな雰囲気じゃないから別にいいけど。
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