ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)はシアン(擬人化したメスドラゴン)に抱きつかれている。
「あのー、シアンさん。そろそろ離れてほしいのですがー」
「やだ。今日はずっとこのままがいい」
いや、ずっとは無理なんですけど。
「あのなー、お前一人を贔屓《ひいき》するわけにはいかないんだよ。だからさ、そろそろ離れてくれよー」
「いーやーだー」
彼が彼女を引き剥がそうとすると、彼女は彼をきつく抱きしめた。
「痛い! 痛い! 痛い! 潰《つぶ》れる! 潰《つぶ》れる!」
「あっ、ごめん。きつくしすぎた」
彼女が力を緩《ゆる》めると彼はほっと胸を撫でおろした。
好《す》いてくれるのは嬉しいけど、俺はお前だけのおもちゃじゃないんだよな……。
「いや、いいよ。というか、あんまりくっついてると俺の中にいるやつらがお前を食べちゃうかもしれないぞー」
まあ、冗談なんだけど。
「私は大丈夫。けど、気になる。ナオト、私の目を見て」
「え? いや、普通に恥ずかしいから無理」
彼女は彼の弱点である左耳を甘噛みしたのち、こう言った。
「骨抜きにされたいの?」
「いえ、あの、はい、分かりました」
彼が彼女と目を合わせると彼女は彼の体の中を見始めた。
まあ、数秒後に彼から離れたのだが。
「……い、今のは何? ナオトの心臓から嫌な気配がする」
彼女は怯《おび》えている。平静を装《よそお》ってはいるが、足が震えている。
「あー、まあ、訳あって俺の心臓は蛇神《じゃしん》の心臓なんだよ」
彼が彼女を安心させようと彼女に手を伸ばすと、彼女は彼の手を振り払った。
「ち、近づかないで! 化け物!!」
「さっきまで抱きついてたくせに……。まあ、いいや。とにかくこれからはあんまり俺にくっつくな。分かったか?」
彼女は威嚇《いかく》し始める。
ナオトは深いため息を吐《つ》きながら、外に出た。
「屋根の上にでも上がろうかな」
彼がアパートの屋根に上がると、そこにはミノリ(吸血鬼)がいた。
「あら、ナオト。どうしたの?」
「うん、まあ、ちょっとな」
シアンと何かあったのね。
「となり、いいか?」
「ええ、いいわよ」
彼が彼女のとなりに座ると、彼女は彼の肩に寄りかかった。
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