テラーノベル
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葛葉視点
付き合う、って言葉にした実感は、正直あんまなかった。
でも――
(これ、完全に彼氏ムーブだろ)
朝、昇降口でローレン探すのが日課になってる時点でアウトだと思う。
「くっさん、おはよ」
「おー……はよ」
人前だと、いつも通り。
後輩と先輩。
距離も、ちゃんと守る。
なのに、すれ違いざまに指先が軽く触れただけで、心臓が跳ねる。
(……努力しない主義なんだけどなぁ、俺)
昼休み、ローレンが他のやつに囲まれて笑ってるのを見て、
また胸がざわついた。
(何で俺がムカついてんだよ)
放課後、誰もいない教室に呼び出す。
「ローレン」
「なに、」
ドア閉めた瞬間、空気が変わる。
「……なぁ」
机に腰掛けながら、目を逸らす。
「お前さ、距離感バグってね?」
「くっさんが許してるから」
即答。
しかも、真顔。
「……調子乗んな」
「先輩が甘いんだよ」
そう言って近づいてくるの、ずるい。
「学校では触んなって言っただろ」
「分かってる」
でも、声が近い。
「でも今は」
ローレンは小さく笑う。
「誰もいないよ」
結局、俺が負けた。
額に軽く触れるだけ。
それだけで満足してしまう自分が、ちょっと悔しい。
「……ほんと、可愛くねぇ後輩」
「知ってる」
可愛いくせに。
⸻
ローレン視点
秘密にするのは、簡単だと思っていた。
理性的に考えれば、先輩の立場的にもその方がいい。
……でも。
女子に話しかけられてる葛葉先輩を見た瞬間、
胸の奥がぎゅっと縮んだ。
(合理的じゃない)
分かってる。
分かってるのに、視線が逸らせない。
放課後、先輩が俺を呼んだ。
「距離感バグってね?」
その言葉に、少しだけ安心する。
同じ気持ちだって分かったから。
「学校では触んな」
そう言いながら、拒まないのもずるい。
「くっさん」
「ん?」
一瞬、迷ってから言う。
「あの、……他の人と、あんまり仲良くしないでほしぃ、……」
先輩は目を丸くした。
「……それ、独占欲?」
「……はい、」
沈黙。
怒られるかと思った。
でも。
「はは」
葛葉先輩は笑って、頭を軽く撫でる。
「可愛いこと言うじゃん」
「先輩」
「安心しろ」
少し低い声。
「俺が選んだのは、お前だ」
その一言で、全部報われた。
(ずるいのは、どっちだ)
帰り道、少し距離を空けて歩く。
それでも、同じ速度で、同じ方向。
秘密だけど、確かに繋がっている。
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