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ローレン視点
最初は、気のせいだと思った。
廊下で、葛葉先輩が一年の女子に囲まれている。
笑ってる。
あの、誰にでも向ける軽い笑顔。
(……別に、普通だ)
そう言い聞かせる。
先輩は昔から人に好かれるし、今に始まったことじゃない。
でも。
放課後、校門前。
その女子がまだ先輩と話しているのを見た瞬間、
胸の奥が、はっきりと痛んだ。
(……長くないか)
気づいた時には、視線が逸らせなくなっていた。
「くっさん」
声をかけると、先輩が振り向く。
「あ、ローレン」
いつも通りの声。
「ちょっと待っててな」
——待ってて。
その一言で、何かが切れた。
「……分かりました」
そう言ったはずなのに、
足は勝手に動いて、先輩の腕を掴んでいた。
「ローレン?」
低い声が出る。
「帰ろ」
空気が、凍る。
女子が気まずそうに去っていくのが見えた。
歩きながら、手を離せない。
「ローレン!、どうしたの」
「……嫌だっ、た」
「何が」
「先輩が、他の人と楽しそうなの」
自分でも驚くくらい、素直な言葉だった。
「独占欲、だよね」
「……ああ」
しばらく黙ってから、葛葉先輩が言った。
「ローレン」
「なに」
「そんな顔されたら、他見る余裕なくなる」
その言葉に、胸がきゅっと縮む。
(……俺、重いのに)
⸻
葛葉視点
正直、ローレンがあんな顔するとは思ってなかった。
普段は冷静で、余裕あって、
俺より大人っぽいくらいなのに。
(完全に嫉妬してんじゃん)
腕を掴まれた時、
嫌どころか、変に嬉しかった自分がいる。
「独占欲、だよね」
そう言われて、否定できなかった。
「ローレン」
立ち止まって、向き合う。
「俺さ」
「ん」
「お前が思ってるより、軽くねぇから」
真剣な目で、ちゃんと伝える。
「誰でもいいなら」
「最初から選んでねぇ」
ローレンは少し目を見開いてから、視線を落とした。
「……先輩」
「ん?」
「俺、嫌われるかと思ってた」
「は?」
「嫉妬とか、面倒だって」
はー……ほんと、可愛くねぇ。
「努力嫌いだし、面倒も嫌い」
頭を軽く撫でる。
「でもな」
「お前が独占してくるのは、嫌じゃねぇ」
ローレンが、ゆっくり顔を上げた。
「……ずるい」
「今さら?」
帰り道、肩が触れる距離。
言葉は少ないけど、さっきより近い。
(こいつが本気で俺を見てる)
それを知れたのが、
今日一番の収穫だった。
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