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参謀部の解析室は、静まり返っていた。
モニターの光だけが、室内を照らしている。
トントンは椅子に深く腰掛け、
いくつものデータを並べていた。
血液成分。
ホルモン値。
神経反射ログ。
嘔吐時の自律反応。
「……」
無言のまま、指だけが動く。
トントンは、感情で判断しない。
まして、噂や印象では動かない。
数字だけを見る。
「まず、感染症は否定」
熱反応がない。
免疫応答も通常範囲。
「薬物反応も違う」
代謝が早すぎる。
分解経路が、自然じゃない。
「精神誘因……も、弱いな」
恐怖やパニックに紐づくホルモン上昇が、
決定的に足りない。
トントンは、
嘔吐時の自律神経ログを拡大した。
「……反射が、早すぎる」
命令が出る前に、身体が動いている。
人間の反応速度ではない。
「まるで」
独り言が、低く落ちる。
「事前に組まれた処理だ」
彼は、別のデータを重ねる。
筋繊維の回復速度。
内臓組織の再構成率。
「……改変痕」
はっきりとは言わない。
だが、もう疑いではなかった。
「自然発生じゃない」
進化でも、突然変異でもない。
設計された形跡。
トントンは、椅子から立ち上がる。
解析室の扉を開ける前に、
一度だけ、画面を見返した。
「……男でも妊娠する体、か」
言葉は、ほとんど吐息だった。
生殖の話ではない。
**“人の構造を拡張した結果”**の話だ。
誰かが、
目的をもって、
身体を作り替えた。
「倫理、研究、兵器……」
どれもあり得る。
どれも、最悪だ。
医務室前。
トントンは、しんぺい神とすれ違う。
「……解析、進んだか?」
「まあ」
短く答える。
「異常は、異常だな」
しんぺい神は、少し眉を寄せた。
「だが、命に関わるか?」
「今は、関わらない」
トントンは、はっきり言う。
「けど――」
一拍置く。
「人為的な改変がなければ、成立しない数値」
しんぺい神は、言葉を失う。
「……断定は?」
「しない」
トントンは首を振った。
「本人の意思、研究目的、
どれも不明」
そして、静かに付け加える。
「だが、“普通の人間”として扱うのは、
もう無理だな」
それは、差別ではない。
保護の意味でも、管理の意味でも。
「……エーミールには?」
「まだ」
トントンは、扉の方を見る。
「ロボロを、
“人として扱うこと”を優先する」
だからこそ、
今は、知らせない。
「情報部には?」
「鬱先生以外伏せる」
その判断は、
トントンなりの防波堤だった。
解析室に戻り、
トントンはデータを一つのフォルダにまとめる。
ラベルは付けない。
名前も、分類も、付けない。
ただ一行だけ、メモを残す。
『これは、自然に生まれた数値ではない』
保存。
画面を落とす。
「……この国が」
トントンは、誰にも聞こえない声で呟く。
「“それ”をどう扱うかで、
試されるな」
ロボロ本人よりも。
wrwrd国そのものに