全身をムキムキの筋肉に覆われたイーチの意外と言えば意外な股間に女性陣の目が好機を帯びて注がれている中、コユキは恥ずかしそうに顔を手で覆い、指の隙間から目を見開いてじっくりと観察をし、善悪は消失した高級おりんに肩を落としつつも脇に置いてあった先代のおりんを設置するのであった。
その哀愁に満ちた姿を眺めながら、秋沢明が何かを呟いて、隣で聞いていた辻井道夫が通訳する様にバアルに言うのであった。
「あのー、この馬鹿がですねー、悪魔が憑いたから動いただけで無機物に命がある事の証明になってないんじゃないか、とかなんとか空気も読まずに難癖付けてるんですが…… 言われてみると、それもそうかな? なんて思ってしまったんですがね? バアルさんでしたっけ、どうですか?」
なるほど、悪魔が取り憑いて無理やり動かしてたんじゃ無いのかよ、そう疑っている、と言うかポルターガイストとかそんな感じだから、当然と言えば当然の疑問だと言えるだろうな。
私、観察者がそんな風に思っていると、バアルも同じように考えたのか、大きく頷いてから返事をした。
「そっかそっか、そう思うんだね、実の所、炭素や有機樹脂とか含んでいないと依り代には出来ないんだけどね…… じゃあ、こうして見せようか! アスタ! 今、善悪兄様が取り換えたおりんに常温の魔力を注いでくれるかい? どう? 出来るかな?」
挑発気味に告げたバアルの言葉に、容易(たやす)く煽(あお)られてしまったのだろう、ちょろいアスタロトが答える。
「む! 出来るに決まっているでは無いか! ほれ! これで良いのであろう!」
言いながら片手をおりんに向けて差し出して、常人にもはっきり見て取れる程の濃密な奔流、紫の魔力を放出するアスタロトであった。
魔力のビームを受けたおりんは煌々(きらきら)と輝きを放ちつつ、不規則にキンキンというハウリング音を鳴らし続けている。
その様子を確認したバアルは、満足そうな表情を浮かべて一同を見渡しながら説明を始める。
「この状態なら分かり易いよね? あの仏具は別に生きている訳じゃあ無いでしょ? 意思も持たず自らを成長させる事も繁殖すらも不可能だしね、でも、魔力、所謂(いわゆる)、生命力が満ち溢れて固体内を激しく流動中でしょ? 無機物のままでもその身に生命力を保持した状態、こんな場合を妾達悪魔は『命が残った状態』って呼んでいるんだよ、カルラが言った言葉はそういう意味って事だよ」
この説明を聞いた丹波晃は感心し捲って言うのであった。
「へー凄い物だね魔法ってのは…… 魔力、いや生命力を無機物に溜め置けるなんて、まるでバッテリーに充電するみたいだねー、ん? これ救急時の延命救助なんかに使えたらそれこそ画期的な発明品じゃないか? 救命医療の世界が一新されちゃうよ?」
ラマシュトゥが笑顔を向けて答える。
「それでしたら私の回復魔法のスクロールで代用可能でしてよ、後で作り方を教えて差し上げますわ」
「へ? 僕? 僕は只の人間ですよ? 魔力なんか無いし、それでも作れるんですか?」
「ええ、生きてる方でしたら大丈夫ですよ、うふふ」
「マジで? やったーコユキさん! 僕魔法使いになれるみたいですっ!」
コユキは答えることなく、無言のままで丹波晃に向けてサムズアップで返していた。
一方の幸福光影は、光り輝き続けるおりんに近付きながら、自らのスマホを取り出してなにやら画面を見つめていたのだが、突如大声で叫ぶのであった。
「お、おい! 皆、今すぐここから離れるんだっ! とんでもない放射線量だ! 肉体が崩壊するぞ! 急いで逃げるんだっ!」
『っ!』
「大丈夫だよ! 善悪兄様、エスディージーズで吸い上げてあげてよ」
「りょっ! 『持続可能魔力(エスディージーズ)』…… これ位でござるかな? どう?」
「良いんじゃないかな? 光影さん空間線量はどう?」
息子ナガチカを抱き上げて境内に逃げ始めていた光影だったが、バアルの言葉に足を止めるとその場に息子を降ろした後、そろりそろりと再びおりんに向かって足を進めたのである。
問題のおりんが光を弱めて、如何にも弱々しい見た目に変わっていた事に、科学者として興味を惹かれたのかも知れなかった。
慎重にスマホの画面を何度も確認していた光影は緊張し続けていた表情を緩めて言った。
「大丈夫だ、自然放射線並みに下がっている…… ふぅ~」
この言葉に様子を覗っていた全員が、ホッとした顔で元々いた席へと戻って行くのであった。
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