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鬼殺隊の射手

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鬼殺隊の射手

25 - 第25話 初めてのデート

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2025年10月01日

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初めてのデート

・・・・・・・・・・



無一郎と出掛ける約束の日になった。

椿彩は白地に青い花模様の着物と、裾に小さな刺繍の入った藍色の袴を身に纏う。

髪は普段のポニーテールではなく、ハーフアップに結び、そこにしのぶからもらった蝶の飾りを着ける。


『…よし、これでいいかな』


鏡に映る自分の姿を確認し、玄関へと向かう。


「つばさちゃん。もう出掛ける時間?」

『あ、カナヲちゃん。うん、少し早めに外に出とこうかなって 』

「そう。霞柱様が2人で出掛けようって誘ってきたんだよね。楽しんでね 」

『うん。ありがとう。おみやげ楽しみにしててね。…あ、変なとこない?』


カナヲの前でくるりと回転して服装をチェックしてもらう。


「どこもおかしいとこないよ。可愛い」

『えへへ。よかった』

「お化粧はしないの?」

『うーん。やってみたいとは思うけど普段してないから違和感ありそうだし、上手くいかないかもしれないから……』

「私がしてあげる」

『え!?』


無一郎が迎えに来る時間までまだ余裕があったので、カナヲに言われるがままに縁側に腰を下ろす。


「つばさちゃんは肌が白いからおしろいは要らなさそうだね。頬紅と口紅だけつければいいかも」


カナヲがいそいそと自室から化粧道具を持ってきて用意する。


「あら、椿彩にお化粧するんですか?私も混ぜてくださいな」

「師範」『しのぶさん』


しのぶもいくつかの化粧道具を持ってくる。


「今日は時透くんと出掛ける日でしたね」

『はい。11時に迎えに来てくれるみたいです』



時透くんったら、柱全員に椿彩のことが好きだと話したみたいね。

……不死川さんを除いて。

告白…するのかしら。もしそうなら私たちも応援してあげなくちゃ。

椿彩をとびきり可愛くして、時透くんをびっくりさせましょう。



「師範。つばさちゃんにはどの色が似合うでしょうか?」

「そうですね……。コーラル系もピンク系も、明るい色であればどちらも椿彩の肌に合いそうですね。カナヲのその口紅を貸してください」

「はい」

「頬紅はカナヲのそれと、私のこれを重ねてつけましょう」


本人を置いてけぼりにして、姉と妹が楽しそうに椿彩に化粧を施す。


「アイシャドウも少しだけつけましょうか」

「いいわね。色はカナヲが選んでちょうだい」


ふわふわのブラシで頬をくすぐられ、小さなチップで瞼をなぞられ、細い筆が唇の上を滑っていく。



「はい、完成ですよ」

「つばさちゃん…すごく可愛い…!」

『わ…ありがとうございます!』


すごーい!、と言いながら、鏡の中の自分をまじまじと見つめる。


「今日はあまり時間がなかったので少し色を加えただけですが、それでもこの仕上がりですからね。今度ゆっくりお化粧の仕方を教えてあげます。椿彩、とっても可愛いですよ」

『ありがとうございます!しのぶさん、カナヲちゃん』

「つばさちゃん。今度一緒にお化粧道具買いに行こうね」

『ほんと?嬉しい!』



そろそろ待ち合わせの時間なので、満面の笑みで2人にお礼を言って玄関の外へと出る。


「つばさ!」


明るい声と共に、無一郎がパタパタと駆け寄ってきた。


『無一郎くん!おはよう』

「おはよ。……!?…つばさ、お化粧したの?」


椿彩のいつもと違う様子にすぐに気付いた無一郎が、頬を少し赤く染めてたずねてくる。


『うん。しのぶさんとカナヲちゃんがしてくれたの。瞼とほっぺたと唇だけだけど。どうかな?』

「…す…すごく可愛い……」

『えへへへ。ありがとう』


青を基調とした服装に、柔らかなコーラルピンクの頬と唇がよく映える。瞼には微細なラメが散りばめられ、そのおかげで椿彩の大きな瞳の輝きが一層増して見える。


無一郎の胸が大きく速く脈打つ。

そして、少し前に音柱から受けた助言を思い出した。


“いいか?まずは会ったらすぐに女の容姿を褒める!これが大事だ。服を選んだり化粧したり髪を結ったり、女は男と出掛ける為に身仕度に時間を掛けてきてくれるんだから、その努力を認めてしっかり褒めるんだ!”


「…今日のつばさ、いつもと雰囲気が違うね。服装も可愛いし、髪を下ろしてるのも新鮮……」

『ありがとう。せっかくのデートだからね。隣を歩く無一郎くんに恥ずかしい思いさせたらいけないから頑張って服選んだの』

「でっ…デート!?」


自分は全く意識していなかった言葉を耳にして、一気に全身が熱くなる無一郎。


『あれ?デートじゃなかった?』

「…う、ううん!……嬉しい。…デート、しよ……」

『うん! 』


恥ずかしそうに言う無一郎に椿彩が笑いかける。


「無一郎くんも隊服じゃない服装、新鮮だね。格好いい」


特に意識する様子もなく自然に褒め言葉を口にする椿彩。


「あ、ありがとう。…じゃ、行こっか」

『うん』



“道を歩く時は絶対に女を内側にするんだぞ!”


これは宇髄に言われなくても普段からやっていたことだ。


「甘露寺さんが勧めてくれた定食屋さんに行こう。すごく美味しいんだって」

『そうなんだ!行こう行こう!』



“食事代とかお茶代とか、絶対に女に出させるなよ?男がご馳走してやるんだぞ!”


宇髄さんに言われなくてもそのつもりでいますよ。



「ここだよ」

『わあ!広いお店だね』


店内に入ると美味しい匂いが漂っている。


『メニューもいっぱいあるね。どれを食べるか迷っちゃう』

「つばさが食べたいものを食べたらいいよ」

『んー。じゃあ、私これにする』

「僕はこっちかな」


食べるのが大好きな恋柱のおすすめなだけあって、料理はとても美味しかった。



『ごちそうさまでした』

「ごちそうさまでした」


会計札を持って勘定場に向かう。


「お支払いはいかがしますか?」

「一緒でお願いします 」

『え!?無一郎くん、私も出すよ!』

「だめ。僕に出させて。僕が誘ったんだから」


2人のやり取りを、店員が微笑ましそうに見ている。


椿彩は一旦、会計を無一郎に任せて、店を出た後に自分の分を返すことにした。


『無一郎くん、私、自分のはちゃんと払うよ。なんなら無一郎くんの分まで私が出そうと思ってたのに』

「だめ。今日はつばさは一銭も出しちゃだめ。僕に格好つけさせてよ」

『うう…でも……』

「僕、柱だよ。いっぱい稼いでるのに使い道もないし今まで何かに使おうって思えるものもなかったんだ。でも今日は違う。つばさとのデートに使いたい」


ここまで言われてはこちらもあまり食い下がるわけにはいかない。


『うーん…分かった。……じゃあ、お言葉に甘えて。無一郎くん、ごちそうさまでした』

「うん、それでいいの」


椿彩が根負けしてお礼を伝えると、無一郎は満足そうに笑った。




「つばさ、何か見たいお店とかある?」

『えっとね、あそこの雑貨屋さん、少し前から気になってたの。行ってみていい?』

「もちろんいいよ」


椿彩が指をさした店に入ると、着物や文具やちょっとした駄菓子、食器、アクセサリーなど、たくさんの商品が並んでいた。


『わーあ!可愛い〜!』


珍しく子どものようにはしゃぐ椿彩を見て、無一郎の鼓動がまた速くなる。


「…つばさ、気に入ったのあったら言ってね。買ってあげる」

『え〜。悪いよ』

「悪くない。言ったでしょ?今日はつばさは一銭も出しちゃだめだって。僕がつばさに買ってあげたいの」

『うーん……』


無一郎は今日のデートにかかる費用は全部自分が負担したいらしい。

何か椿彩に買ってあげたくて堪らない無一郎は目を輝かせて、彼女が手に取るもの、視線を向けているものをじっくり観察している。


こんなに見つめられては何も選ばないわけにはいかない……。


『ん〜…。…あ、これにしようかな』


椿彩が手に取ったのは、小さな櫛とコンパクトミラーのセットだった。


「え、櫛でいいの?」

『うん。最近壊れちゃったから新しいのが欲しかったの。この櫛をコンパクトの中に入れられるようになってるから持ち運びにもいいなあって』

「そっか。つばさがいいならこれ買ってあげるけど……」


本音を言うと、高いものをねだるのは気が引ける。でもあまりにも安価だと無一郎のプライドを傷つけてしまうかもしれないので、安すぎず高価すぎないものを選んだ。


『うん、これがいいの。椿の花の絵も描いてあって可愛いでしょ?』

「あ、ほんとだ。じゃあこれ買ってくるね」

『ありがとう、無一郎くん』


無一郎が会計してくれている間、椿彩は他の雑貨を眺める。


「お待たせ。はい、これ」

『ありがとう。大事にするね』

「どういたしまして」


プレゼントしてもらった櫛付きのコンパクトミラーを、そっと鞄の中に入れる。


次に椿彩の案内で向かったのは、無一郎が先日、柱の2人と入った喫茶店だった。

甘露寺が椿彩にも勧めてくれたらしい。


無一郎は先日来た時に食べて気に入ったクリームソーダを、椿彩はアフォガードを注文した。



なんか…こうやって喫茶店で向かい合って甘いもの食べてるなんて、まるで恋人同士みたい……。



胸がいっぱいになり、無一郎の顔に自然と笑みがこぼれる。


この店での会計も、無一郎は椿彩に出させるまいと、さっさと済ませてしまったのだった。




「つばさ、今度は僕が行きたいところに連れてっていい?」

『うん!どこだろう?』

「着いてからのお楽しみだよ」


無一郎と並んで歩く。



辿り着いた場所は、一面のコスモス畑だった。


『うわあ~!すごく綺麗!!』

「いいところでしょ?見廻り中に見つけて。つばさと一緒に来たかったんだ」


無一郎が見つめる先には、ピンク色の花畑に佇む椿彩。青い着物と、翡翠色から淡い浅葱色に段階的に変わる色の蝶の髪飾りが、周りの景色とは対照的な色彩の美しさで椿彩を縁取っていた。

そんな彼女の髪に、無一郎は一輪だけ摘み取ったコスモスを、簪のようにそっと挿す。


わ…可愛い……。


自分でしておいて、思わず見惚れてしまう無一郎だった。



「つばさ」『無一郎くん』


2人が同時に口を開いた。


『あっ、ごめんね。無一郎くんお先にどうぞ』

「いや、つばさが先にいいよ」


譲られたので椿彩が先に話すことにした。


『…あのね、ずっと無一郎くんに話したかったことがあるの』


どくん。


椿彩の澄んだ瞳で真っ直ぐに見つめられ、無一郎の心臓が大きく脈打つ。


『お兄さんの、有一郎くんのこと』

「…え……?」


記憶が戻って、双子の兄がいたという話はしたけれど。

あの時は途中で別の人が話しかけてきたから名前まではつばさには教えていない筈。

なんでつばさが兄さんの名前を知ってるの?


『実は、無一郎くんのお誕生日の日に、有一郎くんが夢に出てきたの』

「夢?」

『うん。無一郎くんに瓜二つな、でも少し幼い男の子。黒地に淡い水色の霞みたいな模様の着物を着てた』


生前の兄の容姿を完璧に口にする椿彩に、無一郎は彼女が本当のことを言っているのだと理解する。もちろん疑ってもいないけれど。


「そう……。兄さんは何か言ってた…?」

『うん。無一郎くんに伝言預かってるよ。…今から言うのは有一郎くんの言葉ね。“無一郎、優しくしてやれなくてごめんな。でも俺はお前のことが大好きで大切だった。俺も父さんも母さんも、無一郎のことをずっと傍で見守っているから、どうか幸せに生きてほしい”…って』


聞きながら、無一郎の目から涙が零れ落ちる。


「…つばさ、ありがとう。不思議と今、兄さんの声で聞こえた気がしたよ」

『どういたしまして。伝えられてよかった』


椿彩が微笑みながら、ハンカチを無一郎に差し出す。

ありがと、と言いながら濡れた頬を拭う無一郎。


「ところで、なんで兄さんはつばさの夢に出てきたんだろう?」

『あの時は無一郎くんの記憶が戻ってなかったし、そんなところに出ていったらきっと混乱させるだろうからって言ってたよ』

「そっか。他の人じゃだめだったのかな?」

『有一郎くん曰く、私には霊感があるって。“視える”わけじゃないし自覚してなかったけどね。あと、2人のお誕生日っていうのと、私が無一郎くんたちみたいに双子っていうので“繋がり”やすかったのかも』

「そうなんだ。ありがとう。嬉しかったよ」


無一郎がにっこり笑う。


「…僕もつばさに言いたいことがあるんだ」

『うん。なあに?』


心臓が早鐘を打つ。

無一郎は椿彩と向かい合い、深呼吸をひとつして、口を開く。


「僕ね。つばさのことが好き。記憶がなかった頃は、なかなかつばさのこと覚えられなかったけど、ちょっとずつ覚えていられるようになって、気付いたらつばさのことが大好きになってた 」

『無一郎くん……』

「今まででも好きな人はいっぱいいるよ。お館様とかあまね様とか悲鳴嶼さんとか伊黒さんとか甘露寺さんとか。…でもね、他の人に対しては感じたことのない気持ちがつばさにはあって。それが何か分からなくて戸惑ってたんだけど……、僕、つばさのことが1人の女の子として好きなんだ」


告白するというのは、こんなにも緊張するものなのだろうか。

恐怖や怒りや憎しみを感じた時のそれとは違う、手足が震える感覚。


「別の世界から来たつばさに、僕の恋人になって、なんて言わない。でも、つばさは初めて好きになった人だから。ちゃんと気持ちを伝えたかったんだ 」


全身が熱い。指の先まで拍動を感じる。

真っ直ぐにこちらを見つめてくる椿彩の瞳に、真っ赤な顔の自分が映っている。


『…無一郎くん』


椿彩が口を開いた。


『私、無一郎くんのこと、大好きな仲間って、弟みたいって思ってた。そんなふうに考えてくれてたの…全然気付かなくて。ごめんね……』

「ううん、謝らないで。弟みたいに思われてるんだろうな、って、つばさが言ってくれる“大好き”はきっと僕の好きとは違うんだろうな、って分かってたよ。……でもそっちのほうがいい。もしも僕たちが恋仲になったら、つばさが元の世界に帰っちゃう時にお別れが余計につらくなるから」


無一郎が一歩、椿彩に近付きそっと手を握る。


サァーーーーッ


風が吹き抜け、コスモスたちが縦に横に前後に揺れる。


「弟みたいな存在のままでいいから、仲間の1人でいいから。これからもつばさの傍にいさせて。つばさが元の世界に戻るその日まで、できるだけたくさんの思い出を作りたい」


格好いい愛の告白の言葉なんて知らないし思い浮かばない。

でも今の椿彩への気持ちを素直に口にしようと思った。


『無一郎くん、ありがとう』


椿彩が無一郎の手をきゅっ、と握り返す。


『勇気を出して伝えてくれて、すごく嬉しかった。私、無一郎くんといる時間がとっても好きだよ。こちらこそ、これからも仲良くしてください。いっぱい思い出を作ろう』

「…っ…うん!」


椿彩が柔らかく微笑んだ。


「つばさ、大好き!」

『わっ!?』


無一郎が堪らず椿彩に抱きつくと、勢い余ってバランスを崩し、2人一緒に地面に倒れる。


ドサッ


「あっ、ごめん!つばさ大丈夫!?」

『ふふ。びっくりした。大丈夫だよ』


先に立ち上がった無一郎が椿彩の手を引いて身体を起こす。そのまま自分のほうに引き寄せて、今度こそ彼女を抱き締めた。


「…つばさ。いつも支えてくれてありがとう。美味しいごはんも作ってくれてありがとう。大好きだよ」


椿彩から石鹸の優しい香りがする。

柔らかな黒髪が風に靡く。


『ありがとう。私も無一郎くん大好きだよ。これからもよろしくね』


そう言って椿彩も無一郎の身体に腕を回してぎゅっと力を込める。


幼くして柱まで上り詰めるだけあって、密着すれば大きめの隊服越しでも分かる、鍛え抜かれ、がっしりとした身体つき。


しばらく抱擁を交わして、ゆっくりと身体を離す。


「そろそろ日が暮れ始めるね。帰ろっか」

『うん』

「つばさ、手繋いでいい?」

『いいよ』


手を繋いで帰路につく。


の、前に。


『ちょっとだけ、あそこのお饅頭屋さんに寄ってもいい?蝶屋敷のみんなにおみやげ買いたいの』

「いいよ。僕が買ってあげる」

『いい!いいの!それだけは自分で買わせて!』


無一郎の申し出に、椿彩が慌てて断りを入れる。


「…分かったよ」


ここは素直に引き下がった。



『無一郎くん、お待たせ』

「うん。じゃあ、帰ろう」


再び手を繋いで歩き出す。


やっと想いを伝えられたからか、とても心が軽くなった無一郎。

もう告白したので、これからは意味に配慮する必要なく堂々と椿彩に好きだと言える。

これできっと後悔しない。自分の気持ちに正直になって、それを素直に伝えてよかったと心から思う。




やがて蝶屋敷の門の前に到着した。


『無一郎くん、今日は誘ってくれてありがとう。楽しかったよ』

「僕のほうこそありがとう。つばさとデートできて嬉しかった」


向かい合い、お互いに微笑みかける。


『…じゃあ、また柱稽古でね。今日はゆっくり休んでね』

「うん」


無一郎の頭の中に、宇髄の言葉が蘇る。


“いいか?相手が気に入ったものを買ってやる分とは別で、こっそりプレゼントを用意して、それを渡せ。女ってのは、さぷらいずが好きなんだ。ド派手に驚かしてやれ!”


………ド派手には無理だけど……。


「……つばさ、待って」

『?』


門を開けようとした椿彩を呼び止める無一郎。

不思議そうに振り返る椿彩。


「…これ、つばさにあげる」

『え?』


無一郎が椿彩の左手首に何かを通した。


それは組紐のブレスレットだった。

蜻蛉玉のビーズが規則正しく編み込まれている。


『わあ…綺麗!』


光にかざしながらうっとりと眺める椿彩。

それを見て、無一郎が優しい笑顔を浮かべる。


「つばさ、似合ってるよ。気に入ってくれた?」

『うん!すごく!いつの間に用意してくれたの?』

「よかった。鏡と櫛を買う時にね。お勘定場のすぐ近くにあるのを見つけて、綺麗だったから。蜻蛉玉には魔除けの効果があるんだって。きっとつばさを守ってくれると思う」

『そうなんだ…嬉しい。無一郎くん、ありがとう。大事にするね』


頬を淡い桃色に染め、花が咲いたように笑う椿彩に、無一郎の胸がふわりと温かくなる。


「つばさにはいつもたくさんのものを貰ってるから。何か形に残るものを贈りたくて」

『私、なんにもしてないよ?』

「そんなことない。つばさは自覚してないだろうけど、僕は君にいっぱい支えられてるんだよ。いつもありがとう」

『…そうなのかな?少しでも無一郎くんの力になれてるのならよかった』

「うん。いつもありがとう。……じゃあ、またね」

『うん。気をつけて帰ってね』


無一郎に手を振り、屋敷の中に入る椿彩。


『ただいま帰りました』

「つばささん、おかえりなさい!」

『アオイちゃん、ただいま。これ、みんなにおみやげね』

「わ!ありがとうございます!先にお仏壇にお供えして、それからみんなでいただきましょう」


アオイが椿彩から受け取ったおみやげを手に、パタパタと廊下を駆けていく。


「椿彩、おかえり」

『あ、しのぶさん。ただいま帰りました』


すぐに椿彩の髪に目をやるしのぶ。


「椿彩。その髪に着けられたコスモスは?」

『あ、これですね。無一郎くんが着けてくれて。本人の前で外すのも悪いなと思ってそのままにしてました』


あらあら…、としのぶは笑みを浮かべる。


『しのぶさん?』

「椿彩。コスモスの花言葉を知っていますか?」

『え?知らないです。何ていうんですか?』


しのぶは小さく咳払いし、改めて口を開く。


「コスモスには色によって花言葉が異なりますが、椿彩の髪に着けられたその赤いコスモスは、“愛情”という意味を持ちます」

『そうなんですね!知識が1つ増えました!』



…時透くんったら、なかなかやりますね。

ピンク色や白ではなく、あえて赤いコスモスを着けたってことは、意味を知ってたのかしら?

今度会った時に恋のお話を聞いてみましょうか。


「椿彩。今日のお出掛けはどうでしたか?」

『すごく楽しかったですよ』

「それはよかった。おみやげのお饅頭もありがとう。温かいうちにみんなで食べましょう」

『はい!』


椿彩はしのぶと一緒に妹たちの元に向かうのだった。






つづく





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