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みたらしの瞳は、キラキラ輝きながらお月様を捉えています。狩猟の目つきではございません。
恋文をしたため、想いにふける歌人か文士か。
雑種猫なのに品がある。そんな猫でもありまして。
「ほら、見てごらんよ、お月様のおめかし、今日は誰かと会うのかなあ」
いちいち言うセリフも、世間様とは毛色が違うようで、周りはあっけにとられる事もしばしば。
しかし、雪之丞はその扱いに慣れています。
いつも一緒ですから、トリセツはちゃんと頭に叩き込んであるわけです。
「いつもと変わらないわよ」
「そうかなあ、だけどほら、今日のお餅はとびきり美味しいやつ。あんこいっぱいだよ」
「うさぎの餅つきね。だけどあれはただの影」
「そうかなあ」
みたらしはまたもや、カリカリカリカリ窓を引っ掻き興奮状態。
対する雪之丞は。
「そうよ」
とだけ言うと、ぷいっと踵を返して、再び愛する男の胸元へ潜り込んだのでありました。
餅つきぺったん、ぺったんこ。
どうにもいけません。
月面で餅をつくうさぎが気になり始めたみたらしは、神ねこ主様に聞いてみたくなりました。
矢も盾もたまらず、出窓のデッキからひょいと飛び降りると、ベッドを見上げながら雪之丞に猫パンチ。
無論、爪は引っ込めてあります。
「ねえねえ」
「なによ」
「集会行こうよ」
「イヤよ」
「お餅についてさ、みんなで語ろうよ」
「イヤ、月にあるのはクレーターと、星条旗と足跡だけよ。それ以上でも以下でもないわ」
雪之丞、これまたクールにニャンモナイト。
みたらしは諦め切れずに猫パンチ。
「行こうよ、雪之丞ったら」
「イヤ、外は暑いもん。クーラーで快適なのに、わざわざ外に飛び出すなんて、結構毛だらけねこ灰だらけ」
「ねえねえ」
「イヤイヤ」
「ねえねえ」
「イヤイヤ」
「ねえってばあ」
折れぬ乙女にすがる若人。
連れて逃げてよ、着いておいでよ。
誰かに取られるくらいなら、あなたを殺して良いですか?
猫の世界も人様と同じでございます。
千差万別悲喜交交に。
業を煮やしたみたらしは、思わず爪立て猫パンチ。
これには雪之丞、怒り狂うがあまりにシャアシャアと、これまた猫パンチの応酬であります。
想像してください。
草木も眠る丑三時。
寝ている側で、猫同士がシャアのシャアと殴りあい。ついでに鈴もちりんちりん。
流石の翔也も起き上がる・・・素振りもなく、軽く手のひらで、雪之丞を追い払うだけの度量でもって夢うつつ。
よ、御曹司。
すってんころりん恋する乙女、哀れな姿で訴えますが。
「!ッ◯☆!!□〜!ギャ!*♫!ー!?」
もう訳がわからない。
そら逃げろ!
と、尻尾を丸めたみたらしは、流星の如く猫扉を潜り抜け、部屋を飛び出し大脱出でございます。
逃げるみたらし。追う雪之丞。
銭形平次も顔負けの、捕り物劇のはじまりはじまり。
ここは東京下町・柳ねこ町3丁目。