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前回の🇸🇦🇮🇷とは別世界線の為前回は見ても見なくても大丈夫です。
「よーうセンセーーー、今日も忙しそうだな?」
前を歩く人物の肩を突き飛ばすような形で押す。
奴はすぐにこちらを振り返る。だが顔は笑っていた。
「こんにちはイランさん。ちゃんと先生には敬語を使いましょうね」
「うるせえな」
お前なんかにそんなの使わなくたって別にいいだろ。
こっそりと付け足した言葉はどうやら聞こえていたようで、奴は更に笑みを深くした。
「イランさん」
俺に圧をかけているつもりなのだろうか。
声のトーンが少しだけ低くなった気がする。
「……ちっ」
俺はそれに舌打ちだけ返すと、面倒な事になる前にとっとと退散することにした。
そう、こんな会話が毎日毎日続いているのだ。
別の日。
「おはようございます、イランさん」
今日は朝から涼しく、いい気分で鼻歌を歌っていたところをアイツに見つかった。
「……」
ただ、その気分を害したくは無かった為そのまま無視を貫く。
「あれ?聞こえてませんか?
おはようございます」
奴は微笑み俺を足止めしてきそうな勢いで迫ってくる。
「げ、あーもーうるさいな、ハイハイおはよおはよ」
俺はそれに思い切り顔を顰めてやり奴の横を通り抜けた。
「敬語はちゃんと使いましょうね」
俺に奴の注意が飛んできたがウザかったので無視しておいた。
そんな俺を奴がずっとにこにこと見つめていたのは知らない。
またまた別の日。
奴とは朝、珍しく会わなかった。
そのお陰で清々しい気分で過ごしていた昼休み。
「あら こんにちは」
なんと奴が自分の教室前に立っているのを発見した。
「うげー…何でいんだよ」
奴の挨拶を無視する。
奴を追い抜かして教室に入ろうとしたその瞬間、彼は俺の名を呼んだ。しかも面倒事付きで、だ。
「イランさん。
放課後 3Aの隣にある倉庫にまで来てくれませんか?」
非常に面倒なことになった。
はぁあ、と大きな溜息をわざとついてやり
「無理」
とだけ返す。
そのまま教室に入るつもりが、奴はなぜか食い下がってきた。
「何故です?貴方は部活にも入っていないようですが」
「なんでそこまで知ってんだよ、気持ち悪」
反射でつい食い気味にそう返せば、彼は考えるような、でも少し怪訝そうな素振りを見せた。
「なんで、って……そこが気になるんですか?
とにかく、再度言いますが私は貴方に頼みたいことがあって」
「うるさい。だから無理だって言ってんだろ」
彼の言葉を早々に断ち切れば、俺はとっとと教室に入ることにした。
心のなかで、盛大な悪態をつきながら。
「……げ」
長かった授業も終わりようやく六時間目。
今日は金曜日のため、皆少し浮かれているようにも感じる。
だから俺も早く帰りたいのに……のに。
「あら、イランさん
また会いましたね」
六時間目の授業がこいつなのを完っ全に忘れていたようだ。
「んだよ、俺はあんたに用も何もないんだからどっか行けよ」
しっしっ、と追い払うような仕草を見せるも奴はただにっこりと笑うだけで。
「放課後。来てくれますか?
貴方にしか頼めないことなんです」
その笑みが非常に気持ち悪く見え、顔を顰めてやる。
だが彼の言う〝俺にしか頼めないこと〟というのも気になった。
興味と好奇心が頭の中でいっぱいになり、俺は思わず「仕方ねぇな」とそれを了承してしまったのだ。
それを聞いた奴はとても嬉しそうに「ありがとうございます」と笑い授業に戻っていった。
「……キッショ」
奴に向けて思わずボソリと呟いたその言葉は、誰にも聞こえなかったようだ。
授業が終わり放課後。
先程約束してしまったことをもう後悔し始めている俺は、もう約束なんて果たさずに帰ってしまおうかと考え始めているところだった。
どうせアイツなんてキレても怖くないだろ。
そんな考えが頭に浮かび、帰る準備を始める。
だが俺はどうしても〝俺にしか頼めないこと〟が気になり、倉庫へと足を運ぶことにした。
9割が後悔、1割が興味。
その1割の為だけに歩を進める。
倉庫の前に奴は立っていた。
「本当に来てくれたんですね!」
「そりゃあ、俺は約束は果たす男だからな」
先程まで約束を反故にしようとしていたことを隠し胸を張る。
それに満足そうに奴は頷いた。
「流石です、では中へ…」
奴が鍵を使用し扉を開く。
倉庫の中なんて見たことがなくて、俺は吸い込まれるようにしてその中へ入っていった。
その後ろで奴は扉を閉めたのが分かった。
壁も分厚そうだし、マットやらスポンジやらがたくさんある。
前に、ここで説教されている同級生を見たことがある。
何故ここなんだ?とも思ったが、理由はそれか。
音が漏れにくいし、なんなら音がマットなどに吸収されるからか。
先生達はやはり随分と賢いんだな、なんて関心している俺の耳に、〝ガチャリ〟と重い音が聞こえてきた。
鍵でも閉めたのだろうか。
_____ん?
「は?…鍵、閉めたの?」
「そうですが?」
当然のように答える奴に俺の頭は「???」で埋め尽くされる。
その疑問を消し去る為に俺は取り敢えず真っ先に頭に浮かんだ事を聞いてみる。
「俺にしかできないことなんだよな?
ならなんで鍵を閉める必要が……」
途中で俺の言葉は途切れた。
にこにことこちらに近付いてくる奴を見たからだ。
その瞬間、俺は何かを察した。
「あー……何?
俺を説教でもするつもりか?」
面倒くさいことになったなあ。
「……いえ。正確に言えば少し違いますが…」
奴はそう笑えば、俺の耳元でこう囁いた。
「私、毎日毎日貴方に〝敬語を使え〟と言っていますよね?
それなのに貴方は直すつもりがなさそうだ」
これはマズイやつだ。
本能がそう俺に囁く。
じりじりと後退するもその分近付かれ、ついには壁まで到達してしまった。
「……だからなんだよ
俺はお前なんかに敬語は使わないって言ってんだろ」
まだ認めないのか?
自分の中にいる冷静な俺がそう冷笑する。
だが俺だって御免なんだ、アイツなんかに従うのは……
流れる冷や汗、湧き上がる恐怖心。
奴は「ほう」と呟けばにっこりと笑った。
「最後まで認めませんか。
これはこれは……非常に面白い」
奴の手がこちらに伸びてきて俺の太腿をする、と撫でる。
俺は思わず肩を跳ねさせた。
「…は?何してんだよ、セクハラだrぅっ、ん」
気付けば俺の両腕は奴の手によって一つにまとめあげられており、俺は完全に抵抗できない状態にさせられていた。
足で蹴り上げようにも、力が入らない。
「んん、やめっ、ぁ」
ふしだらな手は俺の太腿を撫で続けている。
俺が抵抗出来ずに睨みつければ、奴はにやにやと笑った。
「先生と一緒に敬語を使えるようになりましょうね?」
「……先生…おはよう………ございます」
「あら、偉いですね。ちゃんと自分から挨拶が出来るようになっている」
「……そうです、か…」
彼はそのまま俺に耳打ちした。
「自分でするより良かったでしょう?」