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キャスリンがハンクの執務室から自室に下がった後ハンクは考え込んでいた。ソーマがキャスリンを自室に送り届け執務室に戻り二人は向かいあったまま黙り込む。カイランとリリアン。ハンクはまず半年ほど前のアンダルの騒動の時のカイランのキャスリンにした行動を確認するため裏をとるようにソーマに命じた。あのときの御者が知っているはず、そして御者の報告がなかったのなら問題だからだ。あいつが口を封じさせたか、アルノ騎士団長とも面識はあるがここ最近は会ってはいない。こちらも自らがそれとなく聞いてみるのもいいだろう。カイランが産まれて産後のひだちが悪く寝込みがちだった妻。数年後そのまま儚くなった。忙しく後妻など娶らなかった弊害がここにきて現れ出した。あいつに兄弟がいたらそのままあの娘の相手にできたものを。今さら後悔しても遅い。ならば領地の仕事を自分の分も奴に回し、あの娘との時間を捻出しなければならない。確実に子を孕ませるために。
「ソーマ、あの娘が医師に孕みやすい日を算出してもらうと言っていたが、ライアン・アルノを呼んでこい」
ソーマは頷いた。そしてハンクに問う。気になっていることがあったからだ。
「旦那様、亡くなられた奥さまとの閨は苦痛だとあの当時仰ってましたが…」
ハンクはああと頷き答えた
「セシリスは閨の間、ずっと痛い痛いと泣くんだ。それがたまらず嫌でね。さっさと孕めと当時は思っていた」
ソーマは今年39歳の主に意見を言ってみた。主が同じことを繰り返さないように。
「旦那様は結婚する前に閨の授業をサボりましたね。 きちんと女性の肉体を学びませんと、また同じことの繰り返しになりますよ。実践は年齢的に難しいので、そういうことが詳しくかいてある書物を今度お持ちします。キャスリン様に泣かれないように」
あけすけに意見を述べる執事にたいし、ハンクも聞きたいことを言ってみた。
「ソーマ、あれが願ったこと、了承してしまったが間違っているか?」
ハンクもこんなことはおかしいとわかっている。息子の嫁を抱くのだ。1度で孕むわけはないだろう、おそらく何度も抱かなくてはならない。親子ほど離れた少女を。先ほどまで目の前にいた、この提案を嬉しそうに話し愛らしい空色の瞳を潤ませてこちらをみつめるキャスリン。ハンクは息子の嫁にそれほど関心はなかった。だからこんなに長く顔を合わせ会話をしたのははじめてだった。妙齢の女などではなくこの前まで少女でしたと言わんばかりのキャスリン。18歳のはずだがそれより幼く見えた。薄い茶の絹のようなまっすぐな長い髪はよくよくみていると触れてみたくなるほど美しかった。空気の澄んだ空の色を持つ瞳。大きすぎない切れ長の少しつり上がった目が笑顔になると途端柔らかくなった。あれを抱くのか…ハンクは少し高揚していた。
「旦那様、キャスリン様の意思は固そうです。メイドからも初夜の日から夫婦の寝室の使用は皆無と聞いております。カイラン様を説得するのもよいでしょうが、それでことを成そうとしてもキャスリン様が拒絶するやもしれません」
老齢の執事はキャスリンの様子をみていた。ここ数日、庭を散歩するも物憂げにしていたり、専属メイドもただ黙って後を付いていくという、今まででは見られない2人の姿だった。ソーマは未来のゾルダーク夫人となるキャスリンを婚約者時代から観察をしていたのだ。カイランに会いにゾルダーク邸を訪れた時など、細心の注意をはらい観察した。でも粗は見つからなかった。メイドや従者にきつく当たる事や料理人がだす食事に文句をつけることもない。キャスリン専属メイドのジュノとは、人目のないところでは楽しそうに談笑などして気心を見せていた。しかもジュノは孤児院出身の平民だという。孤児院をだされる年に慰問にきていたキャスリンのメイドとしてディーター邸に雇われた。普通の貴族令嬢は孤児の平民を雇っても近くには置かない。ましてや専属など。性根が良くそして潔いのだろう。カイランに期待を持つことを早々に手放した。学園で何を見たのか、あの騒動で2人の気持ちに何が起こったのか自分にはわからないがそういうことだ。キャスリンは時間を無駄にしない選択をしたのだろうとソーマは考えた。キャスリンはハンクの執務室に行くまで不安そうだった。ソーマにはそう見えたのだ。話を聞いた後ならばわかる、自分の提案をハンクが拒絶したならばと考えていたのだろう。しかし、ハンクへ提案し諾を得ると肩のちからが抜け、カイランにはみせていないだろう笑顔でハンクにうなずいていた。ソーマはキャスリンを部屋へ送った時の彼女の表情を思い出す。彼女は傷ついていた。カイランと歩み寄る未来など捨て、それでもゾルダークとディーターのため生きる決意をソーマは見た。 ソーマはハンクの後押しをすることにしたのだ。ゾルダークのために
「世間から見たなら異常やもしれませんが、カイラン様が成せないとおっしゃるのなら、残るは旦那様しかおりませんし、旦那様はまだお若い。この事は秘密裏に成しキャスリン様に子を授けましょう」
ソーマの答えに少々驚きつつもハンクは頷く。止められるのではと思ってもいたからだ。自身の決断の早さに少し心が揺れていたのは事実だが、長年の部下で自分より常識人であろうソーマがそう言う。 ソーマから見ても奴とあの娘の修繕は難しいということか。奴を切り捨てるのは早い気もするが、あのスノー男爵令嬢に恋慕とは…アンダルがいて良かったとハンクは思う。奴がアンダルと同じ行動をするとは思わないがもし、もししていたら…奴を切り捨てていた。しかし、今はスノー男爵令嬢はアンダルと婚姻してスノー男爵夫人となっている。それでもあの女を想うと…理解できん。
「決まりだな。しかしソーマ、俺は閨が下手ということか?この年で指南書とは…」
「キャスリン様のお体とお心のためです。一番大切なのはお子を成すことですが、それまでキャスリン様につらい思いは…」
「セシリスがおかしかったのではなく俺か?情けなくなるぞ。面倒くさがらず娼館などで学べばよかったのか…」
セシリス様は少し心と体が弱いこともあり体の大きな旦那様を怖がっていたのは事実。そして旦那様は面倒をきらいセシリス様の潤い不足ゆえの痛み。若くして王の側近、領地の管理を任せられたのだから当時の旦那様の忙しさでは余計な時間がとれなかったのもよくなかった。経験不足もある。しかし今回はカイラン様がいらっしゃるのだから旦那様が担っている領地の管理はカイラン様に任せればかなりのゆとりが生まれる。ならば閨指南書をお渡しして熟読してもらう。私が口頭で説明するのはさすがに…
「奴に領地の管理を俺の分まで回せ、理由は体調不良だな。奴が領地へ行けばやりやすくもなる」
ハンクは今後の予定を組み始めた。