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敷かれたレールを走る人生。私の人生は一言で言うとそんな人生だ。親が決めた高校に通って、親の理想の人生を送ってきた。きっとこれからも。
「愛佳おはよう」
「おはようお母さん」
「今日も5時には帰ってきなさいよ」
「わかってるよ」
5時なんて何もできない。
「まあ愛佳はいい子だからそんな心配いらないわね」
私が何考えてるか何も知らないくせに。そんな言葉を飲み込んで笑顔をむけた。髪をむすんで朝ごはんをたべて。
「いってきます」
「行ってらっしゃい」
学校には友達はいない。当たり前だ。誘われても放課後遊べないのだから当然だ。仕方ない。
けど、その日は何故か帰りたくなくて数少ないお小遣いで電車に乗って海へきた。胸いっぱいにしょっぱい空気を吸い込むとなんだか泣きたくなった。
「はぁ、、、」
この時だけは何にも縛られていない気がした。
まあそんな瞬間も少しだけで20分ほどで電車に飛び乗った。
「ただいま」
「おかえり。早く座ってご飯たべなさい」
「うん。ありがとう」
正直言って私はこの時間が1日の中で1番嫌いだ。
「いただきます」
「今日学校はどうだった??」
来た。いつもと同じ質問。
「いつも通りだったよ。」
「そう。休み時間は??」
「数学の勉強かな」
「ならよかった」
今日は比較的穏やかなようだ。
「あ、そう言えばあと3週間でテストだけど勉強どう??」
これが1番答えにくい。
「今回は範囲も狭いし、結構前から初めてるから大丈夫だと思う…」
当たり障り無い答えだったはずだ。
「え?思うってなに??自信ないってこと?」
やば。机を叩いたお母さんはそう乱暴に言う。
「ちがうよ!!今回も完璧に終わらせるから!!安心して」
そう言って微笑みかけるとお母さんも安心したように笑っていた。それをみて私は間違えた訳ではないと思い、安心した。
「ちょっと取り乱しちゃったわね。まあ愛佳なら大丈夫よね」
「うん」
今回は尚更いい点数を取らなくては行けなくなってしまった。
「はあ、、」
また来ちゃった。潮風を吸いながら海を見ていると不意に白いワンピースを着た女の子が目に入って来た。その瞬間目が離せなくなった。関わりたい。視界に入ってみたい。浅い所とはいえ、海に座り込んでいる人に話しかけたいなんておかしいだろうか。迷った末私は話しかけることにした。
「あの、ワンピース、濡れちゃいますよ?」
そう言うとその女の子は私の目をみてふわっと笑った。
「優しいんだね。でも大丈夫、もう帰るだけだから」
久しぶりにお母さん以外の人と話せた気がして、会話を終わらせたくなかった。
「あの、!お名前聞いてもいいですか、、?」
「うん。私は清水百合。」
名前も綺麗なんだな。
「百合さんってお呼びしてもいいですか」
「いいよ。貴方の名前もおしえてよ」
「私は如月愛佳です。」
「愛佳ちゃん、、いい名前だね」
「ありがとうございます」
百合さんは何だか安心する声をしていた。
「制服って事は同じ高校生かな??」
「あ、はい。百合さんも高校生だったんですね」
すごく大人っぽくて、てっきり4個は上だと思っていた。
「うん。もう高三だけどね」
「じゃあ1つ上だ…」
そこで私はふと時計をみると電車に乗る時間ギリギリになっていた。
「あの、今日はありがとうございました。もう帰ります」
「うん。またね愛佳ちゃん」
駅まで走って電車にはギリギリ間に合うことが出来た。また会いたいなと思いながらぼーっと座っていた。
それから私はほぼ毎日海へ行った。塾の時間も増えて、短い時は5分の時もあった。でも不思議な事に百合さんは毎日いた。私の自惚れじゃなければだけれど、私を待ってくれている気がしていてとても心地よかった。私にとって何にも縛られず唯一の息ができる場所だった。
それから約3週間が過ぎ、私の運命の瞬間がやってきた。なんて、ちょっと大袈裟かもしれない。
テストの結果を見た瞬間手が冷たくなって吐き気に襲われた。急いでトイレに駆け込む。幸い休み時間だったため、誰も不審がる人はいなかった。個室に入って制服のまま便座に座り込んだ。
「どうしよう、」
どうしよう。どうしよう。国語だけとはいえ、90点以下なんて初めてとった。いつもの倍の時間塾にも入れてもらったのに。なんで。勉強が出来なければ私に価値なんてないのに。思考はグルグル回るだけで何の解決にも鳴らなかった。
「はあ、、授業はじまる」
そのあとはしっかり授業を受けて帰ってきたはずだが、何も頭に入っていない。
いつもと同じ電車に乗りながら考える。お母さんになんて言えばいいのだろうか。怒られる?いや最悪殴られるかもしれない。そんな事を考えるとまた吐き気が襲ってきた。ちょうど電車が止まったのでそこで降りてしまった。
またもトイレに駆け込む。
「きもちわる」
どれだけ気持ち悪くても吐けない。くるしい。どれだけそこに居たかは分からない。ただぼーっとして、気持ちわるくて何も考えたくなかった。そんな意識はトイレの外から話しかけてきた駅員さんの声で引き戻される。
「あのー!大丈夫ですか!!」
「え…、、あ、はい!!ごめんなさい!でます!」
トイレを出てからもできる限りの謝罪をして、時計をみた。
「本当にすみませんでした!体調は大丈夫なのでもういきます!」
そう言って電車に飛び乗った。もう4時30分になっていた。ギリギリ間に合うか間に合わないかの瀬戸際だ。冷や汗が頬を伝う。電車から急いで降りて家まで走る。
「はぁっ、はっ、」
久しぶりにこんな全力疾走したかもしれない。
「ただいま!」
時計を見ると、4時59分。ギリギリだった。
「なにやってたの??」
「あ、えっと、電車で気持ち悪くな」
「言い訳はいいから!!!」
自分が聞いてきたくせに。
「ごめんなさい」
「5分前行動!小学生でもやるけど?本当にがっかり。どうせ下らない友達と会ってきたんでしょ。ママにかくれて」
違うと否定したかった。でも出来なかった。殴られるかもしれない恐怖とこの人が紡ぐ一言一言が私を愛していないと証明してくるようで。これ以上がっかりさせるのが怖くなった。だからこれ以上怒らせないように、がっかりさせないようにと、もう慣れた言葉を口にした。
「ごめんなさい」
「はあ。まあいいよ。テスト。今日だったよね??みせて」
「はい」
思わず手が震える。上手く取り出せない。
「はやく」
本当にこの人の情緒はジェットコースター並だなと、どこか冷静な私がそう言った。私は諦めて大人しく結果の紙をわたした。
「ごめんなさい。国語だけ上手くいかなくて。でも!次はもっとちゃんとやるから!!」
そう言った私の必死な声はお母さんの心に届くはずもなく、パンと言う音と共に私の頬に血が滲んでいた。
「ふざけてるの??こんな点数とって。私がどれだけ貴方にお金かけてるとおもってるの?」
勝手にお金かけて勝手に期待してただけのくせに。
「ごめんなさい」
「これも全部愛佳の為にやってるのに。愛佳の為だけにやって来たのに!こんな酷い点数で、、」
そう言うとお母さんは私を床に思いっきり突き飛ばしてお父さんに電話しにいった。
「いった、、、」
流石に今回は酷かった。自分で自分の手当てをしながら、電話のないようを盗みぎく。
「愛佳の今日の点数!本当にありえない!!!」
「まあまあ、落ち着けって。あいつもあいつなりに頑張ってるんだろ」
「はあ??あの子の味方するわけ?!」
「いや、、そんなつもりじゃ」
「なによ?!!!1番頑張ってるのは私なのに!!塾に通わせてあげてるのも私なのよ!!!」
「はあ、、お前の頑張りは知ってるよ。ただとりあえずおちつけ」
そう言うと電話が切れたのか、声は聞こえなくなった。
「お母さん。いってきます」
「はぁ」
やはり帰ってくるのはため息だけだった。
学校に着くといつもより視線を感じたがいつも通り、話しかけてくる人は誰もいなかった。顔に怪我をしていたらきっといつもの5倍話しかけにくいだろう。面倒事には巻き込まれたくない、きっとそんな気持ちだろう。
授業が終わると急いでバックを持って走り出す。昨日は海、行けなかったから今日はできる限り長くいたい。
もう降り慣れた人気の少ない駅が今日は久しぶりに感じた。海へ行くと、見覚えのある背中がみえた。
「百合さん!!!」
「愛佳ちゃん。やっと来たね」
百合さんはいつも通りの笑顔で話しかけてくれて唯一の変わらない物を見つけた様な気がしてうれしくなった。
「昨日は色々あって。来れませんでした」
「約束してる訳じゃないから大丈夫だよ。それより傷はみ出してるよ」
「え!ほんとですか??」
朝、鏡をしっかり見て確認したつもりではあったんだけどな。
「ちょうど絆創膏持ってるから動かないでね」
百合さんは私の顎を指さしてそう言った。私と百合さんはほぼ毎日会っているにも関わらずお互いの事をあまり深く知らない。今もなにも聞いてこない。それが私にとって心地よかった。
「はい!貼り終わったよ」
「ありがとうございます、あの。なんで聞かないんですか??怪我のこと」
「んー、聞いて欲しくなさそうだったから」
「バレてましたか、、」
「うん。それくらい一緒にいたら分かるよ」
そう言って笑ってくれる百合さんをみて私も思わず笑ってしまっていた。