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少年は深い森の中を手慣れた足取りで進んでいく。
少女はその一歩うしろ、静かに続いた。
「……森の奥で人を見るなんて、滅多にないんだ」
返事はない。
「迷った、ってわけでもなさそうなのに…..
どうしてこんなところに?」
少女は視線だけを彼に向ける。
少年は小さく笑った。
「あ、答えなくていいよ。
しゃべれないんだよね」
彼女は瞬きを一度。
それが返事として
成り立っているのかどうかーー
少年には、なぜか‘’伝わる‘’気がした。
「….寒くない?」
少女は足元を見る。
自分の身体の状態を確かめるように。
それから、ゆっくり首を左右に振った。
「そっか。
…..なんか、不思議だな」
森の中を歩きながら、少年はぽつりと語る
「この辺り、獣も出るし、
人が入っちゃいけないって言われてるんだ」
そう言いながら、草を払い、細い道を切り開く。
「でも……君。怖くないんだ?」
少女は表情を動かさず、少年は‘’そうなんだ‘’と受け取り、苦笑した。
「僕はさ……もう怖くて仕方ないけどね」
その言葉に少女は反応を見せなかった。
木漏れ日が揺れ、ふたりの影が遠く伸びる。
「君、どこから来たの?」
少女は歩みを止めない。
ただ、胸に手を当てた。
そこにある小さな脈動を確かめるように。
少年はその動きを見てひとつ頷く。
「…….いろいろ大変だったのかな」
その声は、子供のひとりごとをいうみたいにどこか頼りなく柔らかかった。
「安心して。家はもうすぐ」
少女は何も答えない。
それでも、少年の言葉にはどこかあたたかいものがあった。