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森を抜けると、ちいさな家が一軒、静かに立っていた。
夕日は沈みかけ、木々の影が長く伸びている。
「ここが…僕の家」
少年は振り返り、少女に小さく微笑みかえる。
扉を開けると、木の香りがふわりと漂った。そこに混じるように、乾いた薬草の匂いが微かに鼻をくすぐる。
「中に、入って」
少女は無言のまま室内に足を踏み入れる。
家は質素で、小さな机といす、
棚にはわずかな本と薬草らしき束が並んでいた。
「そこに、座っていいよ」
少女は椅子に腰を下ろす。
少年は慣れた手つきで火を起こし、鉄の小鍋に水を注ぐ。
湯気が立ちのぼる頃、少年はふいに咳き込んだ。
「……っ、はっ…」
席は短く、けれど深く胸を揺らす音だった。
少女は反応しない。
少年はすぐに息を整え、何事もなかったように笑う。
「ごめんね。
…..ちょっと、弱くてさ」
湯をカップに注ぎ少女の前へそっと置く。
「飲める?」
少女はしばらく湯気をみつめた。
それから、ゆっくりつなずく。
少年は自分の椅子を引いて座り、ほっと息をつく。
「きみは、どこから来たの?」
少女は視線を下げる。
手は、静かに膝の上。
しばらく沈黙が続いた。
少年は、自分で問いの答えをゆるく諦めるように笑った。
「しゃべれないんだよね」
少女のまばたきが。ゆっくり一度。
「大丈夫。
話させなくても、ここにいていいから」
夕暮れの光が窓から差し込み、
少女の影だけが
静かに床に伸びていた。