テラーノベル
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ぎょっとする葵様を見る。私の前世のせいで、皆に迷惑をかける訳にはいかないのだ。真意を言えなくて、ごめんなさいと心の中で葵様に謝る。
そして──離れた場所にいた姉を見る。
姉は言った。
『私にどれだけ、期待がかかったか知らないくせに』姉の苦悩を垣間見た気がした。
でも私だって苦悩してきた。それをここでぶつけても仕方ない。今は緊急事態だ。
それでも心に浮かんだ言葉を、姉さんに言いたかった。
「円姉さん! 姉さんの力は私なんかと違って本物よ。私、ずっと羨ましかった。雪華家は姉さんがいれば大丈夫。私は私にしか出来ないことをします」
私の声に姉さんは顔を辛そうにゆがめた。
その様子にもっと声をかけたくなったけど、葵様が「環様、何を言っているんですかっ!?」と大きな声をあげたので気持ちを切り替えた。
「土蜘蛛はたぶん、私を狙っていると思います。私は──杜若鷹夜の妻! だから私だって戦います。さぁ、土蜘蛛、来いっ!」
震える手を広げて虚勢丸出しでも胸を張ると、土くれから生まれた土蜘蛛が一斉に金色の瞳を向けた。
ゾッとする暇もなく、土蜘蛛達はギチギチと音を立てながら私に向かって走り出して来た!
やっぱり、私を狙っている!
私の前世が九尾だから?
それとも、もっと他に何かある?
なぜだと思う前に、迫り来る土蜘蛛の群れの前に私は思考するよりも無我夢中で庭の出口へと走り出したのだった。
※※※
私は必死で公会堂の庭を裏口から抜け出し、背後に土蜘蛛の群れを引き連れ外へと飛び出した。
幸いにもここは人通りが少ない、閑静な地区。私は大通りを避けて、ビルとビルの細い裏路地を駆け抜けていた。
それでも土蜘蛛を見た人たちが腰を抜かしたり、叫んでいたりしたが、土蜘蛛はまっしぐらに私を目指すのが不幸中の幸いだった。
ちらりと背後を見れば草叢を無理矢理掻き分けるようなザワザワとした音。
ギチギチと蟲が蠢く身の毛もよだつ音がずっと背後から迫っていた。
金色の無数の瞳は昼間でも、ギラギラと光っていて不気味だ。
「はっ、はっ、はっ……!」
怖い。
足が痛い。
助けて。
怖い。
それでも、じゃりっと道を強く踏み締めて前へ、前へと体を走らせた。
土蜘蛛達は私を追ってくるが、その速度は庭を出てから遅くなっていた。
まるで水の中でもがいているみたい。
これは帝都の至るところに、妖封じの結界や札が建物や土地そのものに掛けられているためだ。
だから、私でもなんとか土蜘蛛に追いつかれずに済んでいた。
それも見越して土蜘蛛を引き付けたが、怖いものは怖かった。
「はぁっ、はぁっ。だ、大丈夫。こうやっている間に、杜若様がきっと、来てくれるんだからっ」
言わばそれまでの時間稼ぎだ。
だから頑張れと足を動かすが、正直限界が近いと思った。
苦し紛れに路地裏に置かれていたごみ箱や、自転車などを倒したりもするけど土蜘蛛達は重なり合い、もつれ合いながらも道や壁を伝い、真っ直ぐに私を目指すだけだった。
体力の底が見え始めると、不安が襲ってくる。この先行き止まりだったらどうしよう。
私、このまま土蜘蛛に捕まったら食べられちゃうのかなとか不安に呑まれそうになる。
「私、土蜘蛛に食べられるようなこと、してないのにっ……!」
ドクドク高鳴る心臓に活を入れて、熱い息を吐き出せば肺が燃え上がりそう。
あと少し頑張れば、きっと杜若様が来てくれると信じて走り続ける。
細い路地裏を抜けて倒れ込むように辿り着いた場所は──広い空き地。
その隅に建築資材や土嚢が積まれていたので、土地の開発途中だと思った。
視界が広くて、誰も居ないのはいいけれども。これでは私が袋の鼠になってしまう。
「はぁっ、ん……っ! ど、どうしようっ」
それでも立ち止まる訳にも行かず。
広場の真ん中までどうにか走り続け、視界の先に私が越えられない高さの壁を見てしまい、逃げ場がないと分かった途端。
脚がもつれてしまい、勢いよく地面に転けてしまった。
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