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心地よい風が頬を撫でた。今日は部活が無かったので、裕太は恋人の湊とサイクリングに出かけていた。「風、気持ちい〜な〜」そんな、他愛もない事を話しながら、川沿いの道を走っていた。
家に帰り、まずはスマートフォンを開いた。目的は、もちろん湊に連絡することだ。
「湊、帰った?」「もうとっくに帰ってるw」「そーかw」
こんな風に、毎日連絡が出来ている事が嬉しくて、嬉しくて、堪らなかった。
「明日もサイクリング行かない?」
あぁ、またそうやって湊は自分を喜ばせる。
「うんいいよ!w行こ行こ!」明日、雨降らないといいな……
翌日、朝。重たい瞼を擦って、裕太は家を出た。また今日も、湊と会えると思うと、嬉しくて、早く学校に行きたくなった。きっと、湊が居なかったらそんなことは思わなかっただろう。つくづく、幸せだな、と思った。
「裕太、おは〜!」そう聞こえて、裕太は驚いて振り向いた。愛しくて堪らない、自分の恋人。そこには、湊の姿があった。「湊、おはよ!」ほんとに今日は学校に来れてよかった。そんなことを思いながら階段を登った時だった。
「裕太、湊、おは〜!!」
涼真の声だ。涼真はいい友達……だが、少し心配なところがある奴。(こいつ、湊のこと狙ってそうなんだよな……)まぁ、そんなことは気にせず、また階段を登っていった。
授業中。残念ながら裕太は湊と席が近くなかった。後ろから眺めるしかないのか……早く授業終わらないかな……先生が黒板に何かを書く音と、教科書の内容を念仏のように唱える先生の声は、ほとんど耳に入らなかった。
チャイムの音がした。あれから20分くらい経っただろうか。20分にしては大分長かったような気がするが。「裕太〜!!」湊の声がした。湊が自分の名前を呼んでくれる瞬間が、凄く嬉しくて、思わずにやけてしまいそうだった。「裕太?大丈夫そ?」「あーごめんごめん!ぼーっとしてたわww」「もーしっかりしろよw」そんな他愛ない話をしていたら、とっくに10分経っていた。「あ!!やべ!!授業の準備しねーと!」そう言って裕太はロッカーに駆け出した。
放課後。今日も部活が無かったので、また湊とサイクリングに出かけた。今日は少し風が強かった。「ねぇ、本当に俺の事好き?」ふと、湊にそう聞いた。「っ……あったりまえじゃん!w今更何聞いてんのw」
今の間、なんだろう。ちょっと、違和感があった気がする。気の所為……かな心に浮かんだその小さな不安は、風が吹き飛ばした。
翌日。裕太は熱を出した。学校に行けないことがこんなにも悔しい事があっただろうか。もし……もし湊が不倫なんかしてたら……自分はどうなってしまうのだろう。そう思いながら、裕太は眠りについた。
ハッと目を覚ました。とてつもない焦燥が、まだ胸に残っている。「湊が……!湊が……!!」夢の中で……涼真と……抱き合って……!いや、落ち着くんだ、そんなはずは無い、あの湊が、そんなことをする訳がない。自分の事が好きって、言ってくれたじゃあないか。何とか自分を落ち着かせようとしたが、どうも落ち着かなかった。
辺りはもうすっかり暗くなっていた。「裕太〜夜ご飯食べる?」そう言う母の声が聞こえた。「今日は要らない。具合悪い」そう言って裕太は部屋にこもった。本当は、具合なんてとっくに良くなっていた。明日は、湊の誕生日だ。湊の為に、手紙と、何かを渡そうと思った。でも、中学生のほんの少しの小遣いでは、まともなものを買うことが出来ない。だから、昔から貯めておいた貯金をはたいてプレゼントを買った。もうとっくに貯金はゼロだ。湊、喜んでくれるといいな。
翌日。今日は休みだったので、都合がよかった。少し遠い湊の家まで、自転車で出向いた。
「湊、今何してるかな〜、ゲームでもしてるのかなw」
そんなことを考えている間に、湊の家についた。プレゼントを渡すついでに、湊と一緒にゲームでも……と思いながら玄関のドアを開けた。いつもは玄関のドアの音がすると急いで玄関まで来て挨拶をしてくれる湊が、今日は来なかった。少し不審に思いつつ、廊下を歩いていく。一階にはいなかったので、二階に上がることにした。恐る恐る湊の部屋のドアを開ける。そこで、裕太は見たくないものを見てしまった。自分の恋人の、世界で1番好きな、湊が、
涼真と抱き合っていた。
意味が分からなかった。一瞬、世界の全てが止まって見えた。「うそ……だ……そんな訳……ないだろ……?」そう言うと、涼真が
「なんでお前いるんだよwww」と、裕太に向けて言い放った。
もう、何も見えない、見たくない。裕太は、プレゼントだけ置いて、湊の部屋のドアを思い切り閉めた。
家まで、全力で自転車を漕いだ。溢れ出す涙で、前が見えない。嘘ばっかりじゃないか!!どうして……どうしてあんなこと……!!
家に着いて、家族の言葉も聞かないまま、部屋にこもった。もう、全部どうでもいいや……そして、裕太は1つ思いついた。思いついてしまった。
「もう……こうしてしまえば……」曇りきった頭には、まともな考えが浮かばなかった。
翌日。今日は日曜日だ。裕太の曇った心とは裏腹に、空は非常に晴れ渡っていた。「あはは……これでやっと……」裕太はまた、自転車を漕いで湊の家に向かっていた。
玄関のドアを開ける。そうすると湊が、「ちょっ……なんでまだ来たの?」と焦った様子で言った。「もういいじゃん。どうせ今日で全部終わりなんだからさ」「え?」裕太はポケットに入れておいたマッチの箱を取り出した。「待って!何してんの?!まさか……ねぇ!お願い!ほんとに、気の迷いだったんだ!もうやらないからごめんって!」湊はそう必死に言う。
「俺がその程度で許すと思った?」そう言って、裕太はマッチを擦って火をつけて、床に落とした。一瞬で、床に火が広がっていく。「どうして……?」湊がそう言うから、裕太は最後に答えた。「全部、湊が悪いんだよ」そして湊を抱きしめた。
「ばいばい」
燃え盛る火の中で、2人の意識は途切れた。
お わ り
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