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そう言うとアルメリアに向き直った。


「アルメリア……」


アドニスの呼びかけに振り返ると、アドニスはアルメリアに近づき目の前に跪いた。


「貴女に会えなかった一ヶ月が、とても長く感じました」


そう言うと手を取り、手の甲にキスをしてじっとアルメリアを見つめた。アルメリアは微笑んで返す。


「アドニス、私も親友たちと会えないのは寂しかったですわ」


こんなふうに、自分を迎えてくれる仲間がいるのは本当に有り難いことだとしみじみした。アドニスは苦笑して答える。


「いつかは親友としてではなく、一人の男性としてそう言ってもらいたいものです」


アルメリアは、相変わらずアドニスは女性の扱いがうまいと思いながら、そこで不意になぜアドニスが城下へ戻ってきたのか不思議に思う。


「ところでアドニス。仕事で城下を離れていると聞いていましたけれど、解決しましたの?」


そう質問され、アドニスは一瞬困惑した顔でムスカリをちらりと見るとアルメリアに視線を戻して言った。


「まだ、解決したわけではありませんが……、一度状況報告と物資の補充で戻ってくる必要がありましたから。それと、セントローズ感謝祭で一緒に演劇をすると約束しましたよね? 貴女との約束は絶対に守りたいと思ったのです」


「そうなんですのね、ありがとうアドニス」


そう言って微笑むと、アドニスは目を細めた。


「その笑顔を見ることができただけでも、帰ってきた意味がありました」


そう言うと立ち上がり、いつも自分が座っている場所に腰掛けた。ムスカリがそんなアドニスに吐き捨てるように言う。


「アルメリアの顔を見て満足したなら、もう屋敷に戻ってもらってもいいんだが?」


それを受けて、アドニスは答える。


「いないはずの人間が随分主張をなさいますね」


そんな二人のいつものやり取りを見て、アルメリアは思わず笑ってしまった。


「ふたりともお変わりなくて、安心いたしましたわ」


と、そこへリアムとスパルタカスがやってくる。


「アルメリア、昨日戻ったと聞いて早速訪ねて来てしまいました」


「閣下、お久しぶりです。みなさんもお揃いで」


「リアム、スパルタカスお久しぶりね」


アルメリアは立って出迎えたかったが、先ほどアドニスを出迎えようとしてムスカリに手を掴まれたときから、ずっと手を掴まれたままだったのでそれができずにいた。

いつもなら立って出迎えるアルメリアが、ムスカリの隣りに座ったままだったのを不思議に思ったのか、リアムは怪訝な顔をしてじっとアルメリアを見つめた。そして、アルメリアを掴むムスカリの手に目を止める。


「殿下、アルメリアをあまり困らせないようにしてください」


「なんだ、リアム。嫉妬か?」


リアムは少し困ったような顔をした。


「そういうわけでは……。いや、そうですね、嫉妬していると思ってくださってかまいません。それに殿下、まだアルメリアと殿下は婚約した訳ではないでしょう。婚姻前のご令嬢にそのように振る舞うのもどうかと」


それを聞いて、アドニスが笑いながら答える。


「リアム、たまにはいいことを言うね。私もその通りだと思うよ。と、言うわけで、殿下その手をお離し下さい」


ムスカリは満面の笑みで答える。


「私が君たちの指示に従う必要はないね」


そこで置き去りにされていたアルメリアが口を挟む。


「殿下、腕をずっと掴まれていなくても、私ご指示通りこちらにずっと座っております。ずっと掴んでいては殿下もお疲れになるでしょう?」


すると、ムスカリは寂しそうな顔でアルメリアを見つめる。


「君までそんなことを言うのか?」


ムスカリのその一言で、その場にいた全員が笑った。アルメリアはこのいつものアブセンティーでの雰囲気に、懐かしさを感じほっとしたような気持ちになった。

全員がいつもの位置に座ると、アルメリアは劇の配役の話を切り出した。


「来月のセントローズ感謝祭の劇のことですけれど」


と、そこにペルシックが横から無言で台本を差出した。と、いうことは、もう改稿が済んだということだろう。アルメリアはそれを受け取った。


「これが台本ですわ。とりあえず一通り読み上げますわね」


そう言ってアルメリアが読み始めると、その場にいた全員がその声に耳を傾ける。それを聞き終わると、一番最初にムスカリが口を開いた。


「なるほど、子どもたちが喜びそうな内容だね。で、主人公のシンデレラの役はもちろん君がやるのだろう?」


「いいえ、殿下。それだとなんの面白味もありませんわ。私は意地悪な義理の姉の役か、魔法使いのお婆さんの役をやろうと思ってますの」


その場にいた全員が明らかにがっかりした顔になった。スパルタカスが苦笑しながら言う。


「報われぬことがわかっている身としては、せめて芝居の中でだけでも……と、邪なことを考えていたのですが。それも叶わないのですね」


「あら、劇の中ではお姫様でも、王太子殿下にでも、なんでも好きなものになれますわよ?」


アルメリアは、スパルタカスは出世をして城内統括をしている身の上だが、それでも貴族と自分では立場が大きく違うということをいつも肌で実感していて、芝居の中でだけでも身分を忘れたいのだろうと思った。


リアムは苦笑しながら言った。


「アルメリア、そういうことではありません。ですが、確かにシンデレラの役をアルメリアがやってしまうと面白味にかけます」


するとアドニスが口を開いた。


「それに、大勢の前でアルメリアが王太子殿下の役をやる人間とハッピーエンドだなんて、考えるだけでもぞっとしますしね」


ムスカリは、楽しそうに微笑みながら会話に入る。


「アルメリアがなんの役をやろうと関係ない。私はこの劇を面白くするために精一杯演じようと思う。みんなもそうだろう?」


リアムとアドニスは一瞬怪訝な顔をし、お互いなにかもの言いたげな顔で見つめあったが、こちらに向き直ると納得したように頷いた。


スパルタカスが突然深々と頭を下げた。


「私が孤児院のためにやり始めたことに、殿下まで巻き込んでしまい申し訳ありません。本当に有難う御座います」


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