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「FORSAKEN」の最高層、空間そのものが歪んだ漆黒の謁見の間。
赤いシルクハットを深くかぶった男――スペクターは、肘掛けに頬杖をつき、優雅に脚を組んでいた。
彼が指先を軽く振ると、目前にモニターが現れ、下層の試練場「廃工場エリア」の映像を映し出す。
画面の中で繰り広げられていたのは、神たる彼すら予期せぬ、狂気と混沌の喜劇だった。
「ひぃッ!? やめてください! 私の羽毛をむしらないでッ!」
「待ちなさいMowlくん! 翼の結合部と胸筋の収縮パターンのデータがまだ不足しているんだ!」
フクロウの姿で必死に羽ばたくMowlの足を、粘着ワイヤーで強引に引きずり下ろすRat。
バタバタと暴れるMowlの背上に飛び乗ると、Ratは右手の黒手袋で羽毛をかき分け、怪しい手つきで骨格のジョイント部分を触診し始める。
「てめぇドブネズミ! Mowlから離れやがれッ!」
そこへ救出に飛び込んできたGatitoが、大きな緑の爪を振り下ろす。
だが、Ratは待ち構えていたかのようにその腕を巧みに絡め取り、体重を利用して足払いをかけた。
「うわっ!?」
「ナイスタイミングだGatito! 君のその美しい透明な肋骨の脈動も、同時に観察したかったところなんだ!」
ドサッと音を立てて床に倒れ込むGatito。
その上に乗っかる格好となったRatは、完全に2匹のキラーを物理的に押し倒し、馬乗りになっていた。
サングラスをずらしたRatの赤い眼が、検体を目の前にしてらんらんと輝いている。
下で「触んなバカ!」「紳士の尊厳がーっ!」と顔を真っ赤にして叫びもがく2匹の姿は、どう見ても「襲われる哀れな被害者」そのものだった。
「……くくっ、ふははははッ!」
スペクターの薄い唇から、低く突発的な笑い声が漏れ出した。
本来、この場は絶望と苦悶、奪い合う血肉の惨劇を鑑賞するための惨劇の舞台。
命を乞う人間と、それを無慈悲に刈り取る使用人(キラー)たちの美しい対立構造――それが「FORSAKEN」の理だ。
しかし、目の前で起きているのは、ただのサバイバーが牙を剥くどころか、殺人鬼を物理的に組み伏せ、検体として愛でるという前代未聞の暴挙。
道徳や正義といった概念を完璧に理解しつつも、それらに対して一切の感情を抱かないスペクターにとって、この光景は退屈な永遠の中で久々に訪れた最高の「娯楽」だった。
「素晴らしい……『喰う者』と『喰われる者』の概念が、あのように滑稽に逆転するとはね。あのネズミの狂気、実に愛おしい」
スペクターは愛用の赤いシルクハットの鍔を指先で軽く傾けると、空中に怪しい漆黒の羊皮紙を召喚した。
血のように赤いインクで、彼は素早く新たな「ルール」を書き加えていく。
『特例権限:サバイバー「Rat」に対し、キラー「Gatito」および「Mowl」の観察・捕獲・および非致死的な生体実験の実施を恒久的に許可する。また、試練場内における特製薬品および捕獲用罠の作成権限を与える』
本来ならばルール違反として即座に抹殺されるべき行為に、最高支配者みずからがお墨付きを与えた瞬間だった。
「さあ、狂った科学者よ。私のかわいいペットたちを存分に追い回し、その歪んだ情熱でこの箱庭をさらなるカオスで満たしておくれ」
スペクターが指を鳴らすと、特例権限の刻印が紫色の光となって試練場へと降り注ぎ、Ratの白衣のポケットへと吸い込まれていく。
理由もわからず「なんだか実験器具の作成効率が上がったぞ!?」と歓喜して目を輝かせるRatと、理不尽な神の気まぐれによって、公式に「獲物」へと格下げされた2匹の黒猫。
絶望のデスゲームは、支配者の退屈しのぎによって、より一層怪しくイチャつくコメディへと変貌を遂げていくのだった。
ゆ♨️
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