テラーノベル
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屋敷に戻った頃には、もう夜も深かった。
勝利は大きく息を吐く。
「疲れた……」
今日は色々ありすぎた。
襲われて。
助けられて。
しかも
(……近かった)
さっきのことを思い出して、勝利はぶんぶん頭を振る。
いやいや。
変な意味じゃない。
ただ、距離が近かっただけ。
それだけ。
「勝利様」
後ろから静かな声。
振り向くと、聡がいつも通りの顔で立っていた。
「傷を確認します」
「え、これ?」
勝利は頬を軽く指さす。
「浅いし平気」
その瞬間。
聡の指先が頬に触れた。
ひやり、と冷たい。
「っ」
「……動かないでください」
いつもより少し低い声。
勝利が目を瞬く。
聡の表情は変わらない。
でも。
少しだけ。
眉が寄った気がした。
「……勝利様」
「な、なに」
短い沈黙。
そして。
「思ったより深いです」
「……え?」
勝利が固まる。
聡は静かに頬を見ていた。
指先に、赤。
乾いていたはずの血が、また少し滲んでいる。
「嘘」
「嘘は言いません」
静かな即答。
勝利は慌ててスマホの画面を見る。
確かに。
薄く切れただけだと思ってた。
でも、よく見れば。
頬の横に、思ったより赤い線。
「……うわ」
思わず顔をしかめる。
聡が小さく息を吐いた。
怒ってる?
違う。
何か、少し焦ってるような。
そんな空気。
「消毒します」
「え、今!?」
「今です」
「心の準備」
「ありません」
即答。
いつものだ。
なのに。
どこか急いでる。
数分後。
勝利はソファに座らされていた。
目の前には救急箱。
その前に、聡。
距離が近い。
いや、近すぎる。
「動かないでください」
「……近い」
「処置です」
「顔が」
「頬ですので」
「いやそうだけど!」
聡は気にしていないらしい。
近い。
本当に近い。
前髪が少し揺れる距離。
静かな香り。
落ち着いた声。
なんか、変に意識する。
「沁みます」
「え?」
次の瞬間。
ひりっ。
「いっっ……!!」
勝利が肩を跳ねさせる。
「痛っ、痛い!!」
「我慢してください」
「冷た!!」
聡は淡々としている。
でも。
どこか手つきが丁寧だった。
傷を触る指先が妙に優しい。
「……」
勝利がちらりと顔を見る。
相変わらず無表情。
だけど。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
いつもより真剣な顔。
「聡?」
呼ぶと。
聡の手が止まった。
「どうしました」
「……怒ってる?」
沈黙。
少しだけ。
本当に少しだけ。
聡の視線が下がる。
そして。
低い声でぽつりと言う。
「……怖かったです」
勝利が固まる。
「え」
「もう少し遅れていたらと思うと」
静かな声。
なのに。
妙に重かった。
いつも余裕な人。
絶対焦らない人。
そんな人が。
初めて、“怖かった”と言った。
勝利の胸が少しざわつく。
「……ごめん」
自然に出た言葉。
聡は小さく首を振る。
「謝らなくていいです」
そして。
ほんの少しだけ。
口元が緩む。
「無事でよかった」
その声が。
思っていたよりずっと優しくて。
勝利はなんだか落ち着かなくなる。
「……なんか調子狂う」
「何がですか」
「優しいの」
聡が少し止まる。
数秒後。
「普段も優しいつもりですが」
「え?」
「気づいてなかったんですか」
真顔。
勝利は目を見開く。
「……自覚あったんだ」
ほんの少し。
聡の口元が上がった。
勝利の心臓が、また変な音を立てた。
コメント
1件
聡さんが「怖かった」って言ったところ、心臓ぎゅってなりました…!あの無表情な人が初めて見せる動揺、すごく印象的です。距離が近くて変に意識しちゃう勝利くんの心情も可愛くて、2人の距離がちょっと縮まった気がして嬉しかったです🫶
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いちごみるく
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いちごみるく
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