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はぁ、兄さん……。俺の愛しの兄さん…。
ラファエルは養子としてアンドリュー伯爵家にやって来た。母はアンドリュー伯爵と愛人関係になり、その間に生まれた子供がラファエルである。
「ラファエル!!」
日頃から正妻への劣等感を感じていた母は、ラファエルを使ってストレスを発散していた。
「お母さんっ!痛い!!」
ラファエルの髪を強引に引っ張る母親は、ラファエルからは獣のように見えていた。
「アンタは私の美貌を受け継いでいるのよ。だからしっかりとその顔を利用しなさい。」
かつては輝き、街で1番という程の美女であった母親の面影はなくなり、嫉妬の塊である獣になってしまった。
(こんなお母さんなんて、知らない…。)
ラファエルはだんだん、人に対して恐怖感を抱き、心を閉ざしていった。
ある雷の日、性病により日々衰弱していった母は、ラファエルに言った。
「アンタが幸せになっても、私はずっと傍にいるわ。アンタがこの私をトラウマとして、一生抱え続けるまではね。」
その言葉はラファエルにとって呪いとなった。幸せになっても母がついている。だからどれだけ幸福になっても意味は無いのだ。
その日の夜、雷が聞いたこともないほど大きな音を立てて落ちた。雷に意識をとられた一瞬の間に、母は眠るように生涯を閉じた。けれど、寂しくは無い。母なんて存在はどうでもよかった。しかし、最後に残された言葉はラファエルの心に深く刻み込まれたのだった。
初めてアンドリュー伯爵家の屋敷に足を踏み入れた時、圧巻した。普通の人生では見ることが出来なかったであろう屋敷に、胸がドキドキしたのだ。
そこで彼を見た。これから兄となる、アンドリュー・イアンのことを。
風にふわりと揺れる黒髪と、それにあった真っ黒な瞳。少し猫のような顔立ちで、大きな目はラファエルをしっかり見つめていた。姿勢からは貴族特有の神々しさが放たれており、近づけない雰囲気が漂っている。
イアンはしばらくラファエルを見つめていた。養子に来たことが気に入らないのか知らないが、よく思われては無いのだろう。だが、イアンは貴族らしからぬフレンドリーさで、「よろしく。」と手を差し伸べてきたのだ。
あまりに衝撃的な場面をみて固まってしまったが、イアンはアンドリュー伯爵にラファエルのせいで叱られても、何も攻めてくることは無かった。
(この人が、僕…、いや、俺の兄になるんだ。)
イアンが自主的にラファエルの部屋を訪ねてきた。と言うのも、ラファエルはイアンの部屋に尋ねることは無かったのだ。そもそも平民として育て上げられてきたのだから、礼儀というものが分からなかった。自分から挨拶に行くべきなのかも分からず、ただ長い間部屋にこもっていた。
『イアンでもいいよ、堅苦しいのはやめにしよう。』
そんな提案をしてくれた。普通の貴族なら中々言えないことだ。
(この人は…信頼出来るかもしれない……。)
そう思えたのだった。
雷の日がやってきた。窓は不吉にガタガタと音を立てて、まるでラファエルを威嚇しているように感じられる。
(こ、怖い……、誰か、いないの…?)
1人で部屋にいるのは怖かった。まだ精神年齢が低く、音にも敏感であったからだ。
(通路……廊下に出よう…、もしかしたら誰かがいるかもしれない。)
そろりと部屋を出て、壁をつたいながらほんのり明かりで照らされた道を歩く。火がつけられた蝋燭はあと少しで消えかかっている。
(……誰かいる?)
廊下の端の方に、ほんの少し他とは違う、強い光が見えた。よく目を凝らして見ると、そこにはイアンが歩いていた。
途端、ラファエルはイアンの元へ走り出した。体重はまだ無いため、絨毯がひかれた廊下では尚更音は立たない。
「にいさん……。」
声をかけた。出そうと思って出した声はら思いの外震えていた。怖いのだ。
イアンはそんなラファエルの状態を察したのか、優しく微笑んでくれた。
「大丈夫だから。」
その一言で救われた気がした。恐らくイアンは雷に怖がっているだけだと思っている。しかし、本当は、雷の日にかけられた母の呪いが怖いのだ。
(一緒に寝て欲しい……。)
そう考えた言葉は既に口から出ていた。イアンは嫌な顔ひとつせず、ハッキリと言った。
「当然さ。」