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隣から、兄さんの寝息が聞こえる。鼻から小さく息を吐いて、俺の体を覆うように体が重なっている。
「にいさん……?」
そう問いかけても反応は無い。もう夢の中に入ったのだろう。
「寝てる……。」
そっと兄さんの顔をチラ見した。大きな瞳は瞼で蓋をされて、長いまつ毛だけが見えていた。黒髪は重力に従って、兄さんの小さな鼻にかかっている。
ラファエルは手をイアンの頬に触れ、呼吸を確認した。大丈夫、生きている。
「…にいさんは、お母さんのように…直ぐに死なないよね?」
そう問いかけても寝ているイアンから返事は無い。
(そりゃあそうか。)
ラファエルはイアンの体に自分の体を密着させた。お互いの温もりは、少し暑いが心地が良かった。
(にいさんは、俺がどれだけ嫌な奴になったとしても、こんな風に優しく接してくれるのかな?)
ギュッとイアンの体に手を回し、抱きしめた。兄さんはこんな匂いなのか。安心するような、ほっとするような。
(ずっとこのまま、夜が続けばいいな。)
それから、ラファエルはイアンの部屋によく行くようになった。何よりも、使用人達や、母親からは感じなかった愛情を感じることが出来た。
「兄さん、今日も一緒に寝ていいですか?」
「ああ、いいよ。雷に慣れるまでは一緒に寝てやるよ。」
リラックスさせてくれてるのか、兄さんはいつも「頼れる兄」というものを教えてくれた。
日々イアンの優しさに触れ、他人には無い温もりを知る。そんな兄さんを知っていく過程で、ラファエルはだんだん、イアンに対して良からぬ感情を抱いていった。
「にいさん、もう寝た?」
「……ん、…。」
これは、寝ていると言っていいだろう。ラファエルはまた、イアンの体に抱きついた。毎日嗅ぐイアンの香りは、ラファエルにとっての精神安定剤である。
「…ラファ……エル…。」
イアンの寝言はラファエルの心臓を跳ねさせた。
「起きてないよね……?」
ラファエルは姿勢を正して、イアンの顔が見えるように動いた。イアンの首筋は真っ白で、呼吸で体が動いていなければ死んでいるようにしか見えない。
「にいさん。」
首筋が丸見えになるように、イアンの寝巻きをグイッと引っ張った。流石に体が密着していると、暑さからか少し赤みを帯びていた。それが少し色っぽい。
「…大丈夫、ちょっとだけだからね、にいさん。」
イアンのさらけ出した肌に、ラファエルはキスをした。それがくすぐったかったのか、イアンはふっと吐息を零した。
(ダメだ、にいさんは他の人には見せられない。にいさんは優しいから、まんまとはめられて、相手について行ってしまうかも知れない。)
そしてまた、唇をつけて、ペロッと舌で舐めた。イアンの味、もっと知りたい。
ラファエルは、イアンの肌に歯を立てた。睡眠が深いイアンでも、これは痛かったようだ。
「ふっ……ん……。」
しかめっ面になったイアンの声が妙に艶めかしくて、ラファエルは咄嗟に体を起こした。
(これはっ、まずいだろう……!)
はだけた服を素早く直し、イアンの胸に顔を埋めた。大丈夫、鈍感な兄さんのことだ、バレないだろう。
(そろそろラファエルを離れさせないとな。)
ガゼボで本を読みながら、イアンは悩んでいた。ココ最近というもの、ラファエルの執着が激しくなったのだ。初めは甘えさせられて育ったものだと思っていたが、ここまでイアンが離れることを怖がっているのだ。もしかしたら、この伯爵家に来る前に、何か人間不信になるような事があったのかもしれない。
(そう考えたら、何か可哀想だな。)
しかし、ラファエルの為だ。前にも言ったが、そろそろ学園に行く頃だ。俺は常にラファエルのそばにいれる訳では無い。ヒロインともちゃんと結ばれて欲しい。もしもヒロインに、ラファエルがブラコンだということがバレたら、引かれてしまうかもしれないし。
(そんなのダメだ。)
俺がしっかり育ててやらねば。
「兄さん。」
だから、イアンの関心を自分に寄せようと声をかけてくる、このラファエルをどうにかしなければならない。今も後ろから抱きついてくるこいつをどうするべきか。
「兄さん、無視しないで下さい。ねぇ、俺のことが嫌いになりましたか?」
声をかけてくるラファエルは、手を慣れたようにイアンの腹部に回した。
「やめろって。」
イアンが手を引き剥がそうとしても、よりガッチリと掴んでくる。
「はぁ、もういいよ。」
イアンは観念する。慣れているからだ。無駄に争ってもいいことは無い。ラファエルは満足そうにイアンの体を触ってくる。
(何が楽しいのか分からないな。)
イアンは溜息をついてから、本の次ページをめくり、ラファエルの存在を感じないようにした。