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翔が構えた瞬間、父親はゆっくりと手を動かし始めた。その動きはまるで料理をしているかのように滑らかで優雅だったが、その一つ一つの動作には異常な力が込められていることを翔は直感的に感じ取った。
「お前が戦う相手は、普通の人間ではない。」父親の冷徹な声が響く。「私の異能は『料理』だ。」
翔は理解できなかった。意味が分からず、思わず足を止めた。だが、次の瞬間、父親が指を一振りすると、目の前に豪華な料理が次々と現れ始めた。それは、無機質な食材が動き出し、まるで生き物のように翔に向かって迫ってきた。
「これは…!?」
料理の具材が空中を舞い、翔の周囲に押し寄せてきた。鋭利な包丁の刃が翔に向かって飛んできたり、熱い鍋が突然目の前に現れたりする。まるで料理の道具が武器となり、翔を狙うかのようだ。
「これが私の力だ、少年。食材を操り、それを武器として使う。」父親は冷笑を浮かべながら、手元で調理を続ける。「お前のような少年では、到底太刀打ちできない。」
翔は素早く身をかわし、包丁をかろうじて避けた。しかし、次々と料理が彼を囲み、逃げ場がなくなりつつあった。
「くっ…!」
翔は必死で反撃の手を探すが、父親の異能が予測できない。料理の技法で次々と新たな攻撃が繰り出される。そのすべてが翔に向かって飛んでくる。
「何もできないか?」父親は余裕の表情を浮かべたまま、さらに調理を続ける。「料理は人を生かす力も持つが、逆に死に至らしめる力にもなる。お前は今、それを味わっている。」
翔の心は焦りと怒りでいっぱいだった。だが、彼の中にまだ燃え上がるものがあった。それはただの反発ではない。何としてでも、この試練を乗り越えるという決意だ。
「俺は、負けるわけにはいかない!」翔は叫び、全身に力を込めて前進する。料理の攻撃が次々と迫るが、翔はそれを振り払いながら、一歩一歩父親に近づいていく。
「愚かな…!」父親は手元の鍋を一振りし、熱湯が翔に向かって放たれる。しかし、翔はそれを冷静にかわし、ついに父親の前に到達した。
「これが俺の勝負だ!」翔は全力で跳びかかり、父親に突進した。
父親はその攻撃を予測していたのか、料理の具材で翔を弾こうとする。しかし、翔はその隙をついて、父親の腕を掴み、力強く引き寄せる。
「まだ終わってない!」翔は歯を食いしばり、全身で父親に立ち向かう。
その時、父親の表情に微かな驚きが浮かんだ。翔の執念、怒り、そして何よりも彼の決意が、父親の冷徹な異能に対して確実に通じ始めていた。