「そう。ごめんね。折角の旅の邪魔をして」
落札した手榴弾を持って、俺達は城へと一時帰還した。
話を聞いた聖奈はそう謝るが……
「いや、聖奈のせいじゃないだろ。それよりも何故だと思う?」
「ニシノアカツキ王国から流れた」
「そうだよな?」
「わけないよ」
「えっ!?」
違うのっ!?
「倉庫から誰かが横流ししたみたいだね」
「つまり…犯人はこの中にいる?」
「城の中ね?その言い方だと金◯一少年だよ…」
名探偵と言えば、今は『身体は子供、頭脳は大人』なあの子。
誰がじっちゃんの名にかけて知ってんねんっ!
「兵士の誰かでしょうか?」
「ううん。その線は可能性として低いと思うんだ。兵士なら盗んだ後に横流しする繋がりがある人なんて少ないと思うし、最近逃亡したって報告はあがっていないから、持ち逃げした線も薄い」
「つまり?」
誰なんだ?俺の安寧を脅かそうとしたバカは。
「在庫帳簿を改竄することが出来て、人脈の広い人なんてそんなにはいないよ。後は私に任せて、二人は旅の続きを楽しんできて」
「えっ…手伝うぞ?」
「いいの。セイくんは優しくて、こういう時には役に立たないから」
………つまり、俺では出来ない・・いや、俺が聞いたら止めるような酷いことを犯人にするって話か。
「聖奈、わかっていると思うが『大丈夫。私は慣れてるから』…そうか。すまん」
恐らく俺が知らないだけで、聖奈はこれまでも罪人を裁いてきたのだろう。
どんな罰則…処刑方法を取ってきたのか知らないが、早く他の者達にその仕事を引き継いで貰って欲しい。
何度も言うが俺は聖人君子ではない。
仲間さえ、家族さえ無事なら、嫌なことは仲間以外の奴らに回したい。
そんな卑怯者の俺に何で聖奈やミランが惹かれるのか、今でもわからんな。
俺達は事の成り行きを知らぬまま、旅を続けることとなった。
side聖奈
「お呼びでしょうか?」
執務室に入って来たのは、セイくんが皇帝を捕える時に逃したおじさんズの内の一人。
有能でビビりと、扱いやすいから多少のおいたは見逃してきたけど、今回したことは見逃せないし、見過ごせない。
「ええ。貴方にお願いがあるの」
「お願い…ですか?」
「ええ。いいわよ」
私のOKサインに、5人の近衛騎士が執務室へと雪崩れ込む。
「な、なにを!?」
喚くおじさんに近衛騎士は何も答えず、地下牢へと連行していった。
部屋に残るのは私と護衛、そしてもう一人のおじさん。
「で、殿下…誠に…誠に申し訳『いいの』……」
私に謝罪の言葉を述べるおじさんは、おじさんズの中でも聖くんのいうことを一番始めに聞いてくれた、一番ビビりで一番優秀なおじさん。
確かに最初の内はおじさんズを纏めるよう指示を出したけど、それは国を興した最初の時だけ。
この人は律儀に今もみんなのリーダーを率先してやってくれていた。
部下だと思っていたおっさんズの一人に、上手く隠れ蓑として使われていたとも知らずに。
「貴方のお陰で簡単に犯人が割り出せたのだから、気にしなくて良いわ」
「…いえ。殿下に言われるまで気付かなかったのですから、私の責任です」
陛下呼びが定着しても、この人だけは最初と変わらず殿下と呼んでくれる。
「…そう。では罰を言い渡すわ」
黙っていれば私達だけの話で済むのに。
でも、その覚悟は受け取らないとね。
「な、なんなりと」
「バラレナーラ王宮次官に命ずる。今日より宰相を務めよ」
「はっ!………は?」
うん。誰もおじさんのポカーン顔なんて求めてないよ。
そういうのはエリーちゃんやミランちゃんみたいな美少女がするから、需要が生まれるんだよ?
アホなのかな?
「今から貴方はバーランド王国の宰相よ。とはいえ、いきなり宰相としての全権を持たすことは出来ない。先ずは重罪犯の取り調べ方から学びなさい」
「…わ、わたしが、さ、宰相?」
「ついて来なさい」
まだ需要のないことをしているおじさんは無視して、私はサッサと歩き出した。
この人に足りなかったのは、忠誠心。
私は人を信じるのは苦手だけど、人を読む力はそこそこあると自覚している。
この人は責任ある立場に就かせればつかせるほど、やる気と覚悟が増すタイプのおじさん。
これから暫くは胃痛に悩まされると思うけど、罰せられるよりはいいよね?
まずは私以外に任せられない重犯罪者の取り調べ(拷問)ね。
これをしなくていいだけで、私の自由時間はかなり増えそうだよ。
ビクッ!?
私の顔を見て新宰相が驚いている。失礼ね……
どうやら今後の見通しが良くなったことで、知らず知らずのうちに頬が緩んでいたみたいだね。
悪魔の微笑みって……
聞こえてるよっ!!おじさんっ!!
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「そ、それで、アーメッド共王国で裏の武器商人をしている男と………」
「お疲れ様。殺してあげて」
私は犯人から知りたかったことを聞き出すと、『殺してくれ』という最期の願いを叶えてあげることにした。
もう用済みだしね。
おじさんの指という指は全てなくなっており、身体で無事なところは口と耳だけ。
生きてても良いことはないと悟ったおじさんは、私の最後の言葉に口元を弛緩させた。
「よ…ようや、く…し、ねる…」
そして私の合図により拷問官が刃を振り下ろし、その瞳から光が消えていった。
「最後に幸せを見つけられてよかったね」
私は犯人の骸にそう告げると、後ろへと振り返った。
「どう?出来そうかしら?」
「…は。必ずやご期待に応えたいと思います」
宰相として漸く覚悟が決まったかな?
「じゃあ、この後にすることは?」
「はっ。アーメッド共王国へ暗部を派遣し、この事件に関わった者達の暗殺です」
「やるわね。ここで陛下であれば、アーメッド共王に文を送って、向こうに任せることで済ませていたわ。
でも…宰相の判断が正しいわ」
やるね、おじさん。
この事件はバーランド王国の汚点。
他国に付け入る隙を与えない為にも、秘密裏に事件を闇に葬らないとダメ。
もちろん、偶々聖くんがオークションで競り落とせて、事件が明るみに出なかったから出来ることだけどね。
もし、事件が明るみになったのなら、報せを送るしかないね。
「これからもその調子で頼むわ」
「はっ!ありがたきお言葉!!」
おじさんは部下に裏切られたことにより、何か吹っ切れたのかもね。
もしかしたら、自分が拷問されないようにビビっているだけかも……
side聖
「聖奈に悪いことをしたなぁ…」
王都観光なんて気分でもなくなってしまった俺達は、宿に併設されているバーで軽食と酒をいただいている。
店の中は薄暗く、カウンターではなくテーブル席に座っている。
カウンターだとコンがカウンターの上に乗りたがるからな…何故なんだ?
「セーナさんであれば問題ないかと。こういったことは間々あるので」
「えっ?あるのか?こんな事件が?」
聞いたことないのだが?
「日常茶飯事ではありませんし、恐らく他国に比べると格段に少ないと思いますが、そこそこあります」
「マジかよ…」
「はい。ですがセーナさんは事件の度に『新しいサスペンスが舞い込んできたねっ!』と、少し楽しそうでしたので、心配はないかと」
なんじゃそりゃ……
今回の事件だと軽くて横領罪か、最悪国家転覆罪が日本だと適用されちゃいそうなのに……
聖奈にとっては大した事件でも出来事でもないんだな。
それだけ俺が聖奈に頼りきりで、頼られていないとも言える……
妻は家(城)で事件を解決し、夫は外(他国)で若い女とイチャイチャしているなんて……
誰が聞いても最低な夫に優秀な妻だな……
その認識で正しいのがまたアレだな。
『ミルクのおかわりじゃ』
コイツはマイペースでいいな。
こんな俺でも色々と考えているのに。
神の使徒はみんな馬鹿なのか?
「マスター。この狸にミルクのおかわりを入れてくれ」
「はい」『誰が狸じゃっ!!』
タヌキで怒るなよ…どこかの猫型ロボットみたいじゃねーかよ。
「折角の旅なので、私も飲みますね」
「おっ!初の飲酒か!マスター!こちらの美少女に、女性に人気で一番良い酒をっ!」
「はい。ありがとうございます」『妾の時と大違いなのじゃ…』
狸が何か言っているが無視だ。
何せミランと初めて盃を交わすのだからな。
思えば俺の初めての酒は、酔っ払った姉貴に無理矢理付き合わされたのが初めてだったな……
あれは思い出したくもない嫌な記憶だ。
ミランには是非良い記憶、良い思い出にしてもらいたい。
二十歳を迎える前に飲むのは恐らく不本意なはずだ。
俺が沈んでいるから元気付ける為に飲んでくれるのだろう。
その気持ちには酒呑みとして応えなくてはなっ!
自惚れでなければ……
〓〓〓〓〓〓〓〓後書き〓〓〓〓〓〓〓〓
初めてのお酒と言っていますが…ミランは以前にもお酒を飲んで酔っ払っていました。33話での出来事です。
13歳の時のことで、本人も無自覚に飲んでしまっていたのでしょう。
(食前酒だけのつもりが、その後も飲んでいた)
翌日には忘れてしまってます。
(翌朝の出来事がミランに全てを忘れさせました)
二人はこの事をこの後も思い出しませんが、そっとしておいてあげて下さい_:(´ཀ`」 ∠):
ミランは仕方ないにしても…聖の頭はアルコールに汚染されているので……
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