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「美味しいです!程よい甘さで柑橘系の香りがあり、いくらでも飲めてしまいそうですね」
初めてのお酒はどうやら口に合ったようだ。
ここでは地球産のお酒を飲ませられないから、マスターに感謝しよう。
「そうか。美味しいなら何よりだ」
『妾もいくらでも飲めるのじゃ!』
腹壊すぞ?
ミランも満足したようで、その一杯で部屋へと戻ることにした。
なぜなら…早く俺のおすすめを飲ませたいからだっ!!
マスターに気持ち多めにお代を払い、部屋へ戻ったら早速飲みの続きだ。
そして俺は今、絶賛後悔中なのである……
「セイさーーん。のんれましゅかぁ?ありぇ?わたちのこっぷがからでしゅ…」
ミランは絡み癖があるようだ。
まぁ、それだけならまだいい。
「ミラン…頼むから…服を着てくれ…」
「えぇっ!あちゅいんれしゅよ!わたち、あつゅがりなんれすっ!」
『人族とは、面白い生き物よのぉ』
コンがいて良かったと、初めて思いました。
二人きりならヤバかった。色々と……
「ミラン…近すぎるぞ?」
下着姿のミランは何故か俺の肩を抱き、反対の手で酒を煽っている。
「ひろいれしゅっ!やっぱりしぇーにゃしゃんじゃないとらめなんれす!」
「ち、違う!それは断じて違う!ミランも立派な女性だ!」
そう思っているからこそ、離れてくれっ!!
届け、俺の想いっ!!
そもそも俺の言っていることが最低な気はするが、仕方ないだろ?
こうなったのは、バーで初飲酒を終えたミランに調子に乗って地球産の飲みやすいお酒を俺が与え過ぎたせいなのである。
まぁジュースみたいなもんだもんなぁ…飲みやす過ぎるのも考えものだな……
「すみませんでした…」
翌昼、完全に寝過ごしたミランは、二日酔いの頭痛の中、申し訳なさそうに正座している。
「何言っているんだ。何も迷惑なことなんて無かったし、普段と違って可愛らしく甘えるミランも新鮮で良かったぞ?
なんなら普段も同じくらい甘えたって良い」
「や、やめてください!あれは…そう!気の迷いだったのです!」
気の迷いっつーか、ただの酔っ払いだな。
『ミラン!面白かったから今日も飲むのじゃ!』
「も、もう飲みませんっ!」
ミランはそういうが、あんな酔い方をする人は必ずまた飲む。
俺はプロの酔っ払いだからわかるんだっ!
聖奈もミランも頭が良くてお利口さんという共通点はあったが、酔った後も同じような感じになるんだな。
「ははっ!まぁ気にするな。酔っ払った時の出来事は水に流すのが大人だぞ?
それと、ミランがよければ明日にでもここを発とうと思うがいいか?」
「それでも…嫁入り前の乙女にとっては恥ずかしいものなのです……
はい。私はセイさんの付き人なので、思った通りに行動して下さい。女性が絡まなければ私から何か言うことはありませんので」
……女性はもういいよ。
聖奈と付き合う前に焦ったことはあったが、それ以外では無かっただろう?
俺がだらしないのは酒だけだからなっ!!
俺たちはアーメッド共王国王都での最後の日を、ゆっくりと過ごした。
「長閑なところですね」
王都を出た俺達は街道を南下している。
この国の良いところの一つは、街は賑わっているが他は日本の田舎道のように家屋も点々としており、畑などが道沿いを彩っているところだ。
「この道は国境までこんな感じだな。旅人もそこそこいるし、どこで野営してもうるさく言われることもない」
「そうなのですね」
「にゃ〜」
天気も良く気分が良い為、俺達はコンから降りてゆっくりと街道を進んでいる。
ミランと他愛もない話をして、コンは最早猫みたいに欠伸している。
幸せとはこんな単純なモノなのだろうな。
俺が人生についてほのぼのと考えていると、前から人影が近づいてきた。
「あら?貴方は、あの時の…」
「ん?」
知り合いなんていないと思い、顔を確認することなくすれ違おうとしていると、向こうから話しかけられた。
よくよく見ると……
「あ、アンタは…」
「セイさん?こちらのお嬢さんは、どこのどなたなのでしょうか?」
「やっぱりっ!貴方はあの時のお大尽様!!」
ミランがう◯こでも見るかのような視線を向けてきた……
違うっ!違うんだっ!!
「あの時はお世話になりました!頂いた紹介状のお陰で、家族飢えることなく暮らせています」
「そ、そうか。それはなにより。ミ、ミラン。こちらの女性は以前偶々助けた人なんだ。こう見えて俺より年上の女性だ。お嬢さんではないな」
「…そうでしたか。この方にはすでに奥様がおられます。私も第二夫人予定ですので、席は空いていないです」
ちょっと待て。何の威嚇だ?
要らない説明のオンパレードだな……
「ふふっ。可愛らしい婚約者様ですね。安心してください。私は亡き夫に操を立てていますから。子供もまだ小さいですしね」
「そうですか。どういった知り合いなのでしょうか?」
まだ聞くのかよ……
その後30分ほどヘレンさんに事情聴取を行っていた。最早取り調べだ……
その間、俺は木の棒を投げてはコンに拾いに行かせていた。
やっぱりこいつは犬らしい。
めちゃくちゃ嬉しそうだ……
「ヘレンさん。色々と教えて頂き、ありがとうございます」
「ええ。ミランちゃんも頑張ってね」
子持ち未亡人の合法ロリことヘレンさんは、ミランにそう告げると俺に会釈して反対方向へと歩いていった。
「じゃあ、俺達も行こうか」
「はい。良い話が聞けました」
えっ…ミランさん?
何だか視線が怖いのですが?
もちろん藪蛇なのはわかっているから、俺から何か聞くことは無かった。
それからもゆっくりと旅は続き、ついにアーメッド共王国最後の街、辺境伯領都へと俺達は辿り着いていた。
この先には海のような大河がある。
あのむさ苦しい男共の中にミランを入れるわけにはいかないなぁ。
河だけは転移で移動するかな。
「セイさん。ここでいいですか?」
俺が明日以降の予定に気を取られていると、どうやら宿へ着いたみたいだな。
「ん。いいんじゃないか?綺麗そうだし、良い匂いがするから飯にも期待できそうだしな」
「はい。では、ここにしましょう」
『ミルクとステーキが食べたいのじゃ』
アーメッド共王国はバーランド王国を除いたら大陸屈指の食文化を誇る。
その中でもこの宿からはいい匂いがしているので、今から夕食が楽しみになっていた。
ミランに先導されて、俺達は宿の扉を潜った。
部屋は無事に取れ、すぐにでも夕食が食べられると聞いたので、一階の食堂で席につき、その時を待っている。
「楽しみですね」
「そうだな。コン。涎が出ているぞ…」
『腹が減ったのじゃぁ…』
いや、お前食わなくても生きていけるじゃん……
暫く待っていると、際どい格好をした給仕の女性が、こちらへと湯気が立つお皿を持って近づいてきた。
「お待たせしました。こちらは本日のおすすめステーキになり……」
「おお。美味そうだな」
「美味しそうな香りがします」
ん?テーブルに料理を運んでくれた給仕の女性が動かない。
スカートが短くて上も露出が多く、目のやり場に困ると言うか……
見るとミランに変な勘繰りをされそうで……
仕事が済んだのならどっか行ってくれないかなぁ。
俺はあまり視界に入れないように下を向き、料理に視線を落として、ついでに視界の端に映るあまりにも動かない脚を眺めていた。
ふと、その脚の隙間から見覚えのある黄金の尻尾が……
「セ、セイさん!セイさんじゃないですかっ!!お久しぶりです!」
「お、おう。元気に…やっているようだな」
「……………」
際どい格好をした給仕の人は、ここ辺境伯領都で別れた狐耳お姉さんこと、エミリーだった。
・・・・・・・。
俺たちのテーブルだけ、気温が10度は下がっているのではなかろうか……
ミランさん。落ち着いてくれ……
「ふう…貴女がエミリーさんでしたか」
えっ?知ってる…?なんで?
あっ!合法ロリさんの仕業かっ!!
「は、はい」
ミランの凍てつくような視線に、エミリーは固りながらも何とか返事をした。
俺は全く動けないのに、えらいぞっ!
「貴女には聞きたいことがあります。私達はこの宿に泊まっているので、仕事が終わったら部屋に来てください」
「………」
来てくれないか?ではなく、来いと……
エミリーは言葉に詰まる。
うん。俺も何も言えない。
「はぃ…」
「では、よろしくお願いしますね。もし。もしですが。逃げたら…『に、逃げません!!』…そうですか。信じましょう」
一体何が起きているのだろう……
恐らく俺のことで、俺のせいなのだろうが、理解が及ばず、言葉が何も出てこない……
『にゃかにゃか美味いのじゃっ!!』
まさかコンに癒しを求める日が来るとは……
もちろん、料理に味なんか無かった。
コンコンッ
「はい」「エミリーです」
ノックの後、ミランが返事をすると相手は狐耳お姉さんだった。
「セイさんは先ほど伝えたように、ここでお休みになっていてください」
「…なぁ。アイツは別に何も『セーナさんからも言われていますので』……はぃ」
最愛の嫁の名前が出されたら、何も言えなくなっちゃう……
俺は遠い空の下で、狐耳お姉さんの無事を祈っているよ……ニ、ゲテ……
ガチャ
ミランが部屋を出て行ってから二時間後。扉が急に開いた。
うん。魔力波でわかっていたけど、説明するのも野暮じゃん?
「戻りました」
「お、おかえり?それで…どんな話をしていたんだ?」
気になる…特に狐耳お姉さんの無事が……
「全てを聞きました。そして、セーナさんから預かっていた言葉を伝えただけです」
「うん…俺は知らない方がいい系の奴だな?」
世の中には知らない方が幸せなことが多い。
「いえ。必要なので聞いてください」
逃げ道無くす系の奴ね!
知ってるよそれっ!強制イベントっていう奴でしょ!?わーーい……
「同意も得られたので、エミリーさんはバーランドへ連れて行きます」
「えっ…はい?何でそうなる?まさか聖奈が態々処すのか?」
「処す?いえ。働いてもらう為です」
ますます訳がわからん……
「セーナさんからは、この旅の間又は以前の旅でセイさんが気に入った人、目を掛けた人がいたら、国へついて来てくれるか交渉してほしいと言われています」
え?何それ?
エミリーは目を掛けたっていうより、手を出そうとして、騙されただけだぞ?
「エミリーさんから聞いた話は少し予想外でしたが……私も大人の女性です。過去のことは気にしません」
めっちゃ気にしてんじゃん……
本当に何もないよ?
「彼女のしたことは許せませんが、当事者であるセイさんが許した以上、私から何か言うことはありません。その後のエミリーさんの行動から、反省も伺えましたし。
それで、エミリーさんの同意が得られたので、バーランドで働いてもらうことにしました。店の人にも辞める許可を得ているので問題ありません」
「いや、俺には問題があるのだが?」
あれ?無視ですか?
「…聖奈は何でそんな要望を?」
「セイさんは以前から人を見る目があります。女性の気持ちを汲む事は苦手なので、エミリーさんに最初騙されたのは仕方ないかと。ですが、恐らく彼女も私達と本質は同じなんだと思いました」
確かに時々『セイくんは人を見る目があるよね!乙女心は理解できないのに』って言われていたな。
まぁあまり理解は出来ないが、納得は少しだけ出来た。
「本質ってなんだ?」
「セーナさんの言葉を借りると、私達はみんな『ぼっち』だそうです」
……元な!!今はハーレム大王だぞっ!!
確かに俺の仲間はみんな元ぼっちだけど…別にそれで選んだ訳ちゃうからなっ!?
「わかっています。そんなこと関係なく、セイさんが私を助けてくれたことくらい」
「いや、そうじゃない」
うん。人の話は聞いてね?
これだと二人旅(ペット付き)なのに、一人旅より寂しいよ?
「彼女…エミリーさんも一人ぼっちでした。ですので、仲間になれると思います」
うん。その考えは完全に宗教に嵌っている人の思考回路だよ?
折角頭が良いんだからちゃんと使ってっ!!
「…もう、好きにしてくれ……」
俺は諦めて酒を飲むことにした。
そういえば…月の神様もぼっちだったな……
今ではバーランド王国の国教をルナ教にしたから、ぼっちじゃないけどな。
「おはようございますっ!」
朝早く部屋を訪ねてきたのはエミリーだ。
俺はまだ酒が抜け切っておらず、眠たい眼をこじ開けて対応する。
「…おはよう。準備するから下で待っててくれ…後、朝食を四人分頼んでおいて」
「はいっ!」
ん?なんだか狐耳お姉さんの対応が……
何をした、ミラン……
顔を洗い支度を終えた俺達は、食堂で待つエミリーの元へと向かう。
「何で立っているんだ?座れよ」
昨日まで働いていたところだから気を使っているのか?
そういうタイプだったっけ?
「はいっ!失礼しますっ!」
「……よくわからんが、今まで通りで頼む」
やりづれぇ……
「エミリーさん。セイさんがそう言っているのです。従うように」
「わ、わかったわ」
?本当にミランはどんな脅しをしたんだ?
脅しなのか?
ここでは何の説明もなく、朝食を食べただけだった。
そして。俺達は街を出た。