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「ほら。ね?」
玲奈の開いたクローゼットには誰もいなかった。私はそれを今知ったし、予想もできていなかったのだから驚くはずであった。だが、言葉の魔力による確信があったためか、それも焦りもなく、平常でいられている。
「晃一さんはここじゃなく、浴槽に隠れているわ。……だから大丈夫、建前とか無しでいきましょう」
あたりを見渡す。ここ以外に隠れられそうな場所はない。晃一は確かに浴槽にいるのだろう。だが、警戒すべきは盗聴や通話。晃一がいないからと言って心を開けるわけじゃない。
すると、彼女はそれすら見透かしたようで「盗聴の類も心配ないわ」と後付けた。これにはさすがにため息がこぼれる。もちろん、その優れた分析への呆れによってだ。
「もー、わかったわ」
だいぶ嫌味臭い言い方をするも、彼女のほうは嬉しそうで。その現れに小さくガッツポーズをとっている。
「私は美蘭さんの敵じゃありません。むしろ協力したいと考えています」
「まさか……」
私が呟くと、彼女はさらに嬉し気に笑みを見せた。
「なるほど……それが着飾らないあなたですか」
しまったと口を隠すも、もう遅い。この場面のあまりの混乱さから、思わず気が緩んでしまっていたようだ。
「考えてみてください。私があなたの復讐を阻止したり、邪魔すること、これに意味ってありますか?」
「……。ない、かも」
何秒かの沈黙を超えて答える。自分で思考し、出てきた答えがあまりに先入観と異なっていたために、動揺が溢れた。
私は愛の力を知っている。だから、二人の間にどのような障害があろうとも、愛ならば乗り越えられるということは、瞬時に理解できた。
「ではもし。職を追われ、孤独となった男がいたとしましょう。そして、そんな情けない人間をそれでも愛すと言う女がいれば……男はどう思います?
断言しましょう、男は女を簡単に愛してしまいます。我々人間は愛の奴隷ですから」