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座卓を顎でしゃくる。
相当苛立っているようだ。
有夏は気まずそうに「いただきます」と手を合わせ、箸をとった。
まずは牛肉の野菜巻きからと箸を伸ばしかけたところで、幾ヶ瀬が嗚咽をあげる。
「牛肉がセールだったから、この前の休みに買い込んだんだよ? 冷凍しときゃ1ヶ月はもつと思って。国産だよ! セールといえど、全部でいくらしたと思う!?」
「知らねぇよ。故障だったら、しゃあねぇじゃん」
「いくらで買ったか言ってよーッ!」
迫力に呑まれて有夏が口ごもる。
「さ、さんぜんえん?」
「馬鹿っ! そんなわけないでしょ。国産だよ? トータル1万円しましたよ!」
アァーッ、イチマンエンッと叫んで顔を覆う。
よく見れば泣いているわけではない。
涙も出ないくらいショックを受けているようだ。
有夏は静かに肉じゃがの玉ねぎに手をのばす。
ごはんの上に乗せて、煮汁が染みていくのを楽しんでいるようだ。
「でも壊れたもんはしゃあねぇだろ。で、修理は頼んだのかよ」
「それが2日後になるんだって!」
「2日だぁ? それじゃあ有夏のアイス……」
「アイスはいいでしょ、この際!」
理不尽に怒られて、有夏が口を尖らせている。
「あの冷蔵庫、買ったばかりだよ? ここに引っ越してきた時だから……2年しか経ってないのに。有り得ない!」
嘆きながらも、有夏が口に運ぶものをチェックする。
「ちょっとちょっと。玉ねぎいいから。まず肉食べてよ、肉」
「あぁ? いつもは野菜食べろって……」
「今日ばかりはっ……今日、ばかりはっ!」
幾ヶ瀬のテンションについていけない有夏、コクコク頷いて牛肉の野菜炒めに手を伸ばす。
ピーマンやモヤシと共に肉をつまむ様子に幾ヶ瀬は何か言いかけたが、さすがに口をつぐんだ。
「2年か。早いな……で? 修理で直るのかよ」
「サービスマンが見てみないと分かんないって言ってた」
「ん。そりゃそうか」
そこで幾ヶ瀬、思い至ったように顔をあげた。
「そうだ! 有夏んとこの冷蔵庫は? 俺のよりは小さいけど、頑張って詰め込めば……」
展望が開けたとばかりに目を輝かせる。
そこを、有夏の表情が水をさした。
「もうねぇよ」
「えっ?」
「うちにはもう冷蔵庫ないんだよ」
【続きは明日】