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ゼルト国と貿易を開始した。
相手は裏切らず、皮も蜜柑も届いている。それは、こちらも同じ事で、石炭も鉄も、こちらが困らない程度に送っている。
ゼルト国とは、いい関係が築けそうである。
ただ、いい関係を築くのはゼルト、ただ一国ではダメだ。なるべく、望むならば他の国ともよい関係を作り上げたい。
それは、ただの願望に過ぎない事で―――。
「ええと、ベルス国が?」
「うん、そうなんだぁ」
今現在、総統室で話をするのは輝(ヒカリ)と隻(セキ)。セキは外交から帰ってきたところで、その報告である。
今回、ヒカリが依頼した国は「ベルス国」。光石国とは、アウスト国よりも遠い場所に位置する。
何故、そんな遠い国までも依頼するのか。ただ単純に、ヒカリが気になったからである。
いい関係を築くには、相手の情報が必要だ。先ずは、その国が主に何をやっているのかを知る必要がある。
今回ヒカリの注目の的となってしまったベルスは、セキの報告によると、どうもいい報告ではないようだ。
「えっと、ベルス国は「奴隷国」なんだ」
早速、悪い話から始まってしまった―――。
セキは、長い時間を経て、漸くベルスについた。その国は、海がとても綺麗であった。
水は、正しくエメラルドグリーン色。どこかで見る黄色と水色の魚もいた気がする。
街には、海に面したとわかるような、魚だったり貝殻だったりが売っていた。勿論、お土産用としてもだ。
「(全体的に水色基調の街だなぁ、綺麗!)」
水色や、黄色。涼しげな色を基調とした屋根や旗などが掲げられていた。
ただ、ひとつこの国の難点をあげるとすれば、海に入っていないのに肌がペタペタする事である。
「(街の風景はよし、と)」
街は、活気溢れた楽しげな雰囲気だった。周りを見渡しても、笑顔が溢れている。
だけど、そんな国ほど城で何か大きな事を抱えているのである。
「って、あれ?」
セキが気づいたのは、城ではなく路地裏だった。路地裏は、建物と建物の間にあるから、何処でも薄暗い。
なんか、城より怖いかもしれない。いや、そんな事ないか?
勇気を出して、路地裏へと一歩。入った瞬間、先程の空気とガラッと変わった。気がする。
肌のペタペタ感は変わらないが、雰囲気が、楽しげなのから一変して恐怖などなど、黒っぽいナニカへと変わった気がした。
「(城の中より路地裏の中の方が怖い事が起きてるのかな…?)」
音を鳴らさないように一歩、また一歩。どこに誰がいるかわからないから、慎重に進む。
キョロキョロ。当たりを見渡すけれど、人はおらず、ただただ薄暗い気配のみしかしない。
「(奥へ進む度にゾゾゾって背中が反応するんだけど…)」
何か一種の呪いでもかかってるんじゃないかと疑う。怖い。兎に角怖い。
本当は、こんなところ入りたくなかった。何が感じたとしても、入る気もなかった。
だけど、これは観光なんかじゃない。「調査」だ。外交官として、光に照らされている部分と闇に隠れている部分を明確にしなければならない。
「ーーーーー!!」
「……?」
入ってきたところがわからなくなるくらい、奥へ進んだ。
すると、急に人の声が聞こえたのである。なんか、このようなシチュエーション、知っている気がするが、今は気にしないでおこう。
大人が誰かに怒鳴っているようだ。内容は聞こえないが、声自体はここまで聞こえてくる。
その人がいる場所と、セキがいる場所、おそらく離れているだろう。気配は凄く遠い。
「(誰に怒鳴ってるかだけ、見てみよう。それで、直ぐここから出よう…!)」
バレたら元も子もないが、気にしないでおこう。
怒鳴られている相手が子供だったら、直ぐに総統に話して、その子達を助けてもらわなくちゃ。
「(……!!)」
ああ、当たってしまった。
怒鳴られている相手は、小さな子供だった。年齢はどうか知らないけど。
怒鳴っている男は、貴族が着るような高級そうな生地で、とても綺麗だった。
一方、子供達はというと、ボロボロな布生地だった。肌色で、子供達の体にはとても合わない、大きな布。
近くに来て漸く話している内容が聞こえたが、『何故これすらできないんだ!』という、悲惨な内容だった。
それを見て、直ぐに思った事がある。
「(これは、「奴隷国」なんだな…)」
こんな国でも、こんな闇は隠れているんだ。街にいる楽しそうにしている人達はこれを知っているのか。
そして、城にいる総統や幹部、兵士達は知っているのか。また、知ってて見放しているのか、それとも、そいつらが指示しているのか。
どれであっても最悪な事をしている事に、変わりはない。
早く帰って総統様に話そう。そう、決意したセキだった。
「そこから街中へ帰る時、バレそうになってヒヤヒヤしたよ…」
「それはそれは…無事に帰ってきてくれてよかったよ」
バレない為にも外へ出なくては、と急いで振り向いたら少し奥の方にもう一人の男がいた。
驚いて変な声が出そうになったが、それも我慢して男が去るのを静かに待った。
見つかったら殺されそう。そう本能で言っていた。
「ホントだよ〜!! 怖かったんだから!」
「そうだね。行ってきてくれて感謝するよ」
ヒカリもまさかベルスが奴隷制の国だとは思っていなかったから、申し訳ない気持ちがあった。
だけど、逆に知らずに行かせたからこそ助けられる命ができたんだ。と、ポジティブに考える。
「セキが見た子供達は何人いたの?」
「えっと…三人いたかな。でも、もっといるよ、多分」
髪色、目の形が同じだった男女二人。おそらく、兄妹か姉弟、または双子だろう。
一人は、多分『何故こんな事もできない』と一緒に怒られていたので、ふたりの子供と仲が良いのだろう。
奴隷として捕まった子供は、絶対セキが見た三人の子供だけじゃない。子供に怒っていた男、セキが帰る時に遠目で見た男は、絶対に三人で満足はしないだろう。
少なくとも、二桁はいってる。そう、セキは考える。
「助けるとは言っても、どうしようかな」
ベルスとは関わりが一切ない。光石国と距離が遠いというのも相まって、お互いがお互いに声をかけた事はなかった。
ベルス総統らに話をつけずに、奴隷として扱われている子供達を光石国に連れてきてしまうとこちらが誘拐犯になってしまう。
幾ら「奴隷だった子供達を助けるために連れてきた」としても、相手側が了承していなければ「誘拐」になってしまうだろう。
周辺国No.1の光石国が誘拐として知られてしまうと、とても都合が悪い。だからそのような噂は流されたくない。
かと言って、アウスト国みたいに潰すわけにはいかないし。総統が奴隷を連れていると知らなかったら、申し訳なくなるし。
「…話をするしかないか」
「うん、思いつく限りそれ以外に方法はなさそうだし、手紙送る?」
「そうだねぇ、そうしてくれ」
セキは、ヒカリのその指示に『はーい!』と元気よく返事をし、総統室を後にした。
「珍しく司令室に来たと思ったら、何、その話は」
手紙を送るとは言ったものの、どういう内容で書けばいいかを教えてもらわず総統室から出てしまったセキは、悩んだ末、月希(ルイ)のいる司令室に来た。
「そんなの、総統様に直接聞けばいいじゃん。何でおれなのさ」
「だって、わかった!って言って出てきちゃったんだよ!? 『あのさ』って聞けるわけないじゃん!!」
「いやだから聞けつってんじゃん!」
柊(ヒイラギ)ならまだしも、何故自分に聞きに来たんだよ。とツッコミたくなる気持ちを抑え、素直に協力してあげる事にした。
と、その前にどこの国に送り、その国がどのような名目で送る事になったのかを話してもらった。
「なるほど、奴隷ね。しかも、総統達が糸しているのか、わからないと」
「うん…。だからこそ、どんな風に書けばいいのかわからなくって」
暫く考えたが、ルイもこのような手紙を書くというのが初めてで、全く出てこなかった。
だが、『あ』と、ルイが何か思いついたように声を発した。
「手紙書く為にも、総統達について知っといた方がいいかなって思って」
そう、セキに言った後、ルイはインカムを取り出した。
インカムの設定を「幹部全員」から、一人の男のみに変えて、通信をする。
ザザ…
『なに』
「洸(コウ)、早速だけど頼みたい事があるんだ」
『ホントに早速だね。何?』
ルイのインカムから聞こえてきた声の主は、コウだった。
ベルスの総統らについての情報を得る為に、情報班に所属するコウに助けを求めた。
『なんでまたベルス?』
「セキが総統様の命で行ったんだって。それで、その国が「奴隷制」って事がわかったみたい」
ルイは簡潔に端的に、ただ何も知らないコウにも凡そわかるように、事の顛末を話した。
それを理解したコウは、短く『わかった』と返事をし、インカムの通信を切った。
ザザ…
「あの短い説明ができるルイくんも、それを理解するコウくんも凄い!」
「そうかな」
どうやら、セキはそんな二人に感動しているらしい。
セキの説明は、ルイの話よりもとても長かった。あの出来事を、あのように端的に話すのは難しかったらしい。
それは、セキが実際にそれを見て聞いて、恐怖を感じたからこそ、短く話せなかったのだろう。
「コウくんは、オレらがやりたい事伝わったの?」
「そうじゃないかな?」
セキは、『何で伝わるの…』と、また恐怖を感じながら、目を見開いて呟いた。
そんなセキを見て、ルイはあはは、と誰かさんのように笑って、何でかを簡単に教えてあげた。
「おれはわかった「みたい」って言ったでしょ? てことは、総統様は最初からベルスが奴隷制って事知らなかったとわかるよね」
「うん」
「総統様は奴隷の子達を助けたいだとか、ベルスについて知りたいって思うはずだと考えたんだ。ここから遠い、更には関わりのないベルスについて知る為に、必要な事といったら「手紙を送る」事。って考えれば伝わったんじゃないかな」
そんな考えを披露するルイに、『すごーい!!』と驚きと感動が隠せないセキ。
ルイの考察は、コウが目的が手紙を送る事だと、理解し察していればの話だが。
「まあ、総統様の考えは結構わかりやすいし、わざわざ今まで話題にした事なかったベルスについて聞いたからね」
総統様、ヒカリは好奇心旺盛だから気になる事には直ぐに動き出してしまう。
そんな性格がわかりやすく、知っていたからこそなのと、単に今までベルス国を話題にした事がなかったからだ、とルイは考えた。
ちなみに、ルイが考えた物事は合っていたらしく、同じ事をコウはあの一瞬で考えついたと言う。コウルイはなんとも恐ろしかった。
閑話休題。
コウ達情報班は、約一時間でベルスの総統らの情報を掴んでしまった。
それに、ルイとセキは驚きも一切なく『ありがとー』と、軽くお礼を言ってインカムを切った。もう、慣れた事だった。
取り敢えず、『我々の総統があなた方に会いたいと言っている』という文はつける事にした。
わざわざ総統直々に書いているようにはしなかった。ただ、めんどくさいという理由である。
「セキが見た街の景色も少し入れたいかな…?」
「んん〜…涼しげな街だったよ」
『さっきの話で聞いたんだよなぁ』とは思いつつ、口には出さなかった。何となく、だが。
と、二人が一生懸命悩み、時にコウの力を借りてできた手紙が漸く完成した。
―――
突然の文で申し訳ない。あなた方の街は、実に涼しげで楽しそうな街だった。ところで、我らが総統が、あなた方に会ってみたいと仰っている。それについて、検討していただけないだろうか。
―――
と書き、伝書鳩「セナ」を手紙を持たせてベルスへと向かわせた。
丁寧に、時にはNo.1としての威厳を持たせるように少し上から目線で。あえて、敬語では書かなかった。それでキレられたら終わったな、と思ってもよかった。
この文を送って、相手がどう動くか、どう反応するのか。実に見所である。
「奴隷になっちゃった子供達を助けるってのは想定内だったけど、ここまで動くとは思ってなかったな」
と、役目を終えたかのように司令室でぐったりと、まるで自室かのようにくつろぐセキの姿が見えた。
「ここ、司令室なんだけど。――おれらを拾ってくれるくらいには、行動力がおありだよ、総統様は」
「ん、そうだよね! 八人も拾ってるからね!」
幹部を八人も、色々なところから拾い、更には軍という名の国を作った。
更に、兵士を何万、何十万と増やしていき、とうとう周辺国No.1まで登り詰めた。
一人残ってから国を創り、現在の幹部ほとんどを拾ったその行動力には頭が上がらない。
「あの時、奏を拾ったのはわかるけど、オレまで拾ってくれたのが予想外だったなぁ」
「正直、おれもコウも拾ってくれたのも驚きだよ」
今名前が挙がったルイ、コウ、セキ、カナタは全員、生まれた環境に恵まれなかった。
だから、救ってくれたのだろうけど。意外、ではないけれど。ありがたい気持ちがとても大きい。
話は逸れてしまったが。
ベルスに手紙を送るという任務は、成功したであろう。セナが何処にいるのか、ここじゃ判断できないけど。
「…この後、ベルスと子供達がどうなるか、気になるね」
子供達を助けたとして、その後はどうするのだろうか。ベルスと話が終わった後、どうなるのだろうか。
子供達は、下街に家を用意してそこで住まわせるか、兵士として起用するのか。はたまた、何名かは幹部として迎え入れるのだろうか。
ベルスはきっと、きつく言われるか潰されるかの二択だろう。生きるか死ぬか、ベルスにはそれしか選択肢が残っていない。
あの総統の事、極端な男なのだから、生かすか殺すか、残すか潰すかのどちらか。
本当に、一国の、ましてやNo.1の国の総統である人物が、わかりやすい性格をしていてどうするんだ。と、言ってしまいたいけれど。
「今回だけは、よかったね、総統様がわかりやすい性格してて」
「だね! じゃあオレは、ヒカリくんに送ったって報告してくる!」
じゃーね!!と言って、司令室から出ていった。
一気に静けさが戻ってくる司令室。ぽつんと、本当に周りがいなくなったみたいに。
元々、集中したいからと防音性の部屋にしてもらったから、こんなにも静かなのだけど、寂しさが残る。
セキは、よく言ったら元気だけど、悪く言ったらうるさい。だけど、そんな彼がいるからこそ、この国は明るいと言っても過言じゃない。
今回は仕事の話だったから、そこまで明るくはなかったけれど。
「んー、おれもコウから『明るい方だよね、うるさい』って冷酷に言われたんだけどなぁ、」
自分は、そんなに自負してないけれど。
自分が明るくて、コウにウザがられるんだったら、セキなら嫌われるレベルでうるさいよなぁ、なんて。
「さぁ、仕事仕事」
当の本人がいなくなった事で、静けさが戻った。なら、仕事が再開できる。
自分は周りに司令をする大事な仕事を担っているんだ。ヘマはできない。だから、コウと協力して沢山各国の情報を知り、集めなければ。
子供達、助かって欲しいなぁ、なんて。