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シュヴァリエが謁見の間に着いた時……。
その男は、大理石の床にめり込むかの様に、這いつくばっていた。直ぐに、シュヴァリエは魔力で檻を作り出し、魔力封じの手枷をして閉じ込めた。
――それは、ほんの数秒間の出来事だった。
ステファンと沙織がその場に着くと、ガブリエルも急いでやって来た。他の人の目に触れないよう、ステファンがその檻ごと地下牢へ転移させる。
ガブリエルに連れられ、沙織達もその男が転移させられた宮殿の地下牢へと向かった。
檻が解かれた地下牢の中では、男がグッタリして横たわっていた。
(うわ……やり過ぎちゃったかしら?)
「お義父様。その人に、癒しをかけてもよろしいですか?」
制御したつもりだったが、かなりの重力がかかってしまったみたいだ。この分だと……彼方此方の骨が折れているかもしれない。
流石に不法入国しただけで、これはちょっと可哀想だ。
「ああ、そうしてくれ。ただし、話せる程度までにしてほしい。奴がどれ程の者なのか、油断は出来ない」
「はい、お義父様!」
返事をすると、急いで弱めの癒しをかけた。
「……っ。う、うぅん……」と唸り声をあげ、男は目を覚ました。
「……此処は、どこだ……?」
中年の男はキョロキョロとし、いまいち状況が掴めていない。
「此処は、宮殿の地下牢だ。――お前は、誰だ?」
ガブリエルは、冷気漂う氷の様な視線を向け、男に問う。
「わ……私はっ。ただの下級貴族……田舎の男爵で御座います。税収の件で手続きに……」
「嘘はいい。……お前は、この国の者ではないな」
「えっ!?」と戸惑う男。
「お前は、この国のプレート登録を行っていない。何処の国の者だ?」
(ひえぇぇ……お義父様から冷気がっ! ミシェルの比じゃないわ)
冷たい言葉とガブリエルの威圧を受けて、男は震えあがる。
「……も、申し訳ありませんっ。私は帝国の人間です。訳あって、こちらに参りましたっ」
平身低頭して必死で謝る男。
やはり、グリュンデル帝国の人間だったのだ。
「何が目的だ?」
「私はっ、金で雇われただけです! 顔を隠した男に頼まれ、雇主が誰かも知りません。……ただ、肩に鱗状の青い痣の人間を、探すようにと言われました。それと、光の乙女について調べろと……」
「なっ!? 光の乙女だと! その情報を何処でっ」
ガブリエルは眉根を寄せて、男を睨む。
「ヒッ……私はっ、知りません!」
(うーん、この感じ。どこかで……)
「あのぅ、ちょっと質問よろしいですか?」
おずおずと手を挙げて声をかけた。
ガブリエルは、眉を上げて不思議そうに沙織を見る。
「サオリ、どうしたのかい?」
先程までの冷たさを消して、いつものトーンに戻る。
「その方、嘘ついてません?」
「……嘘?」
「この、微妙な違和感……。なんだか前に、ステファン様と陛下に、騙された時みたいなのです」
「騙された?」とガブリエルが一瞬考える。
「ああ、あの時か」
「ええ。半分は本当で、もう半分は嘘。目的は他にあって、真実が隠されている感じ……そもそも、なぜ痣持ちの方と光の乙女が、この宮殿内に居ると思ったのですか? 平民の可能性だって、あるのではないでしょうか?」
「そ、それは、雇主から聞いてっ」
「うーん、そうかもしれませんが。それにしても、この宮廷機関に潜り込む程の能力があるのに、こんなに簡単に捕まって情報を漏らしますか?」
そもそもこの男は、謁見の間付近にまで入り込んでいたのだから。沙織は小首を傾げつつ、ステファンを見た。
『あの魔法の、どこが簡単なのでしょう?』と、ステファンの目は言っているが、それは口に出さず――。
「確かに、変ですね。帝国の重要な情報を持っているのに、捕まって……何故まだ生きているのですか? まるで、態と情報を漏らしているみたいですね?」
「……あの国なら。失敗した刺客は、まず捕まった時点で消す何かが仕掛けられているだろう」
ステファンの意見に、ガブリエルも同意した。
「では、貴方は一体誰でしょうか?」
壁に寄りかかりながら、沙織は男を見て言った。
男は下を向いたかと思うと、肩を震わせる。
「ふっ……あははははは! 面白いっ! この国は、もっと馬鹿ばかりだと思っていたがっ」
と可笑しそうに言った。
(……なによ、コイツっ!)
ムカッとして男を睨んだ。この国の人間を馬鹿にされ赦せなかった。
「おー、怖い怖い。気の強そうなお嬢さんだ。私は、さっさとお暇しよう」
――カシャンッ! と手枷が落ちた。
いつの間にか――白髪混じりの中年男は、若い茶髪の美青年になり、シュヴァリエにはめられた魔力封じの手枷を壊していた。
そして、身体に魔力を纏い牢を破って飛び出そうとした刹那。
――バチンッ!!
と男は弾かれて部屋の真ん中に転がった。
「なっ!? 何が……起こった?」
(ぷっ。去り際の、決め台詞まで言ってたのに……。バチンッ!て。ダメ……面白すぎる)
何となく想像がつく、ガブリエル、ステファン、シュヴァリエは、口をプルプルさせて笑いを堪える沙織を見た。
「強度増し増し結界、牢屋バージョンです。ふふ……簡単には出られませんよ」
「「「やはり……」」」