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帝国からの、不法入国イケメンに逃げられないよう、魔力封じの手枷に新たな機能を付与して填めた。
茶髪の美青年は、帝国が誇る上位魔術師らしい。自称だけれど。
沙織は今、学園の制服を着ている……つまり、学生の結界を破れなかった事と、その新しい手枷が相当な屈辱だった様だ。自称とはいえ、学生にしてやられたなんて、とても他言出来ないだろうから。
「さて、帝国の魔術師よ。本当の事を話してもらおうか」
ガブリエルの言葉に、イケメン魔術師はプイッと外方を向く。
「光の乙女の存在を、どうして知った?」
本気の怒りを滲ませた、ガブリエルの威圧は相当だった。
「……っくう!」
魔術師は苦しそうに顔を歪め、仕方なさそうに話し出す。
「……詳しくは知らない。本当だ。何でも預言者が、この国に光の乙女が現れたと言ったんだよ。だから、そいつを連れ帰れと!」
「では、青い痣の人間とは?」
「それは、よく分からない。ただ、探すように言われただけだ。光の乙女と違って、そいつは居場所すらまだ定かじゃない」
「――へっ!? 光の乙女の居場所は知っていたの?」
屈辱を与えられた学生に話しかけられて頭にきたのか、キッ!と沙織を睨んで言う。
「ふんっ! 今頃、仲間が捕まえに行っているさっ」
「えええっ!?」
慌ててキョロキョロするが、周りに変化は無い。
「……あの、誰も居ませんけど?」
沙織はコテリと首を傾げた。
「はっ! 光の乙女は、アーレンハイム公爵の娘だろっ。学園に行ってるに決まっているだろうが!」
「「「なんだって!?」」」
全員の血の気が引いた……。
「ま、まさか、カリーヌ様を?」
「そんな名前だったな」
直ぐに怒りが沸点に達した。
「こ、この……おバカ魔術師! 人違いよっ! お義父様、ステファン様、ここは任せました! シュヴァリエ、一緒にっ!!」
「はっ!」
「「カリーヌを頼む!」」
一瞬で居なくなった、沙織とシュヴァリエにイケメン魔術師はポカンとした。
「え………人違い?」
「帝国の魔術師よ。私の娘たちに怪我の一つでもさせたら……命は無いぞ」
「……僕も、帝国を許しません」
二人に見据えられた魔術師は、奥歯がカチカチと鳴り恐怖で全身が粟立っていた。
◇◇◇
研究室に戻ると、即刻寮へと転移した。男子禁制なんて、言っている場合ではない。
転移陣から出ると、人の気配がなかった。
(……変だ。ステラが居ない)
カリーヌの部屋の異変に気がついたのかもしれない。シュヴァリエと視線を交わし頷いた。
沙織はカリーヌの部屋の入り口から。シュヴァリエは、窓から部屋に入る事にする。
部屋をそっと出て入り口にまわり、扉を開けようとするが……やはり鍵がかかっていた。
(急がなきゃ!)
沙織は躊躇なく鍵を壊して、中に飛び込んだ。
「カリーヌ様っ!!」
目の前には、拘束されたステラとエミリー。
そして、カリーヌは……ジリジリと詰め寄る女によって、壁際に追いやられていた。この学園の制服を着た、美人ではあるが大柄な女。
「あ?……誰だ、お前は?」
女は入り口を振り返り、沙織に向かってそう言った。
(どこで制服を手に入れたのかしら? サイズが全く合ってないし……。うん、頭は少し軽そうな感じね)
「あなたこそ誰よ! その制服、似合ってないわっ!」
「なっ!? そんな事ないわよっ!」
先ずは、カリーヌ達からその女を離さないといけない。挑発して、意識を沙織に向けさせる。
わざと意味ありげな笑みを浮かべて、言葉を続けた。
「そういえば。先程、宮廷で……帝国の魔術師を捕まえたわ。もしかして、弱い彼はお友達かしら?」
「な、何だと? ……サミュエルは弱くない!」
女はカッと怒りで顔を赤くし、沙織に向かって飛びかかった。
(掛かった!)
沙織は窓に視線を送ると、シュヴァリエが窓の外で頷いたのを視界の端で捉えた。
少しでもカリーヌ達から離すよう、後ろに跳んで攻撃を躱す。
そのタイミングで
――ガシャン!
と窓を割ったシュヴァリエがカリーヌ達の前に立ち、結界を張った。
(よしっ! 上手くいったわ)
女は戦闘タイプなのか、素手で攻撃を仕掛けてくる。沙織もそちらの方が好みだ。
(速いけど……シュヴァリエより全然遅いっ!)
繰り出された拳をサッと避け、次の瞬間には女の目の前に行く。ニッコリ微笑むと、強化した拳を一撃みぞおちに入れる。
「グフッ……!」と、女は呻き意識を失った。
先に捕まえた魔術師と同じように、倒れている女に手枷を填めた。念のため、足枷もしてから、軽く癒しをかけておく。
ふうっ……と、沙織は息を吐いた。
シュヴァリエが結界を解き、自由になったカリーヌが沙織に抱きつく。
「サオリ様! ありがとうございますっ」
「カリーヌ様、もう大丈夫ですよ」
まだ震えている、カリーヌの背中をそっとさすり、安心してもらえるよう優しく言葉をかけた。
「エミリーもステラも大丈夫ですか?」
「はい、サオリお嬢様!」
「カリーヌお嬢様を守れず……誠に申し訳ありません!」
自分が不甲斐いないと、ステラは悔しくて仕方なさそうだ。
「そんな事ありませんっ。エミリーも、ステラも、ちゃんと守ってくれました。ステラなんて、その方が私に触れようとしたら……投げ飛ばしたのですよ!そして、私に危害を加えない約束をさせ、代わりに大人しく拘束されたのです」
カリーヌは、ウルウルした瞳で二人の侍女を見た。
「……え? 投げ飛ばした!?」
「それ位は、侍女の嗜みですので」と当たり前な感じでステラは言う。
(それは、侍女の嗜みでは無いような……。やはりステラは、只者ではないわ)
取り敢えずシュヴァリエが、女を魔術師と同じく地下牢へ転移させる。
沙織は侍女達に部屋の片付けと修理を頼み、カリーヌを連れて宮殿へ戻る事にした。