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ある日の午後、薄曇りの空から差し込む光が、ぼんやりと病室を照らしていた。
涼ちゃんは、静かにベッドに座っていた。
いつもと同じ、無表情で天井を眺める姿。
でも心の奥は、どこか遠くでざわめいている。
その日、𓏸𓏸は少しだけ眠っていた。
数日間の看病疲れで、机に突っ伏して深く寝入ってしまっていた。
涼ちゃんは、そっと枕の下に手を伸ばす。
薄い銀色のアルミ包装。
自分で密かに隠していた睡眠薬を不器用な指で一粒、また一粒と包みからだす。
それを、無言で口の中に放り込み、水なしで何度も嚥下した。
「……これで、少し楽になれるかな」
心の声が、誰にも聞こえないほど小さい。
喉を通る苦みだけが、かすかな現実感をもたらす。
涼ちゃんは飲み込むたび、心の中で静かに何かが遠ざかっていくのを感じた。
𓏸𓏸はまだ、睡魔に囚われたまま気づかない。
病室の隅には、静けさだけが漂っていた。
睡眠薬を大量に飲んでから、
涼ちゃんの体は次第に弱っていった。
朝起きると、ふらふらとめまいがして熱っぽい。
頭もうまく回らず、まぶたが重い。
体の奥から力が抜けていくようで、声を出すのもおっくうになった。
𓏸𓏸や看護師が側にいるときは、変わらぬ無表情でじっとしている。
けれど、誰もいないほんのわずかな時間に、涼ちゃんはまた枕の下から睡眠薬を取り出して口に放り込んだ。
小さな錠剤を何粒も、慣れた手付きで。
その行為は習慣のようになっていった。
〝もっと眠りたい。目を閉じていたい。何も考えたくない。〟
そんな思いだけが涼ちゃんを突き動かしていた。
食事はますます食べれなくなり、顔色も青白くなる。
指先も冷たくなり、体重はどんどん減っていく。
それでも周囲は「最近は元気がないですね」と小声で言うだけで、
本当の理由には誰も気づかなかった。
𓏸𓏸も看護師も家族も、
涼ちゃんが毎日、少しずつ自分を追い詰めていることを
誰一人として知ることはなかった。
そうして、鈍く静かな終わりの気配だけが病室にゆっくりと積もっていった――。