作品:ママにあいたい
補足:現代パロ、学パロ
種類:恋愛
その他
・メイン→1×2
・ サブ→タネ×3
・人によっては 5×6 ( 6×5 )表現有
※1万5千字↑あるので、
時間のある時にお読みください。
「な、ない…」
高校三年の春。
入学式だとか始業式だとか、
盛り上がる行事が沢山ある中、
わたしは失くしものをしました。
「お、お姉ちゃん…?」
「…あぁ、3番目。
どうしたの?」
「いや、こっちのセリフなんだけど…」
この子は3番目。
わたしの可愛い妹。
もう一人弟がいるけれど…まぁ、
そっちの子も可愛いわよ。
純粋な弟だもの。
「お姉ちゃんの悩み事かー…あ!
もしかして恋の悩み!?
恋バナ!?話して!」
「話が跳躍しすぎよ」
この子はある人に恋してるとかで、
今恋バナにハマっているらしい。
わたしはと言うと、性格かしら?
あまり人が寄ってこなくて
友達と言えるほどの子がいない。
そこまで冷たくしてる気は
ないのだけれどね。
「冗談も少し混ざってたけど、
悩みは本当っぽいよね。
何かあったの?」
「…失くしものをしたのよ」
「失くしものかー、どんなの?
あたし、探してみるよ!」
「いいえ、大丈夫よ。
そんなに重要なものでもなかったし」
「でもお姉ちゃんが
そこまで落ち込むほどのものって、
大事なものじゃないの?」
その通り、とても大事なもの。
でも、だからといってこの子にまで
迷惑をかけるわけにはいかない。
「大丈夫よ。
心配してくれてありがとうね」
「…また困ったら相談してね!
お姉ちゃんの悩みなら
どんなお話でも聞くから!」
「ふふっ、ありがとう」
わたしは3番目の頭を撫でる。
猫みたいに絡んでくる様子は、
とても愛くるしい。
でも、失くしてしまったものは
本当に困るもの。
それは、誰からかもらった
お守りのようなもの。
誰から貰ったのかすら
忘れてしまったものに対して、
ここまで固執するなんて
わたしらしくない。
そんなことはわかってる。
でも、探さなきゃって思うの。
明日、もう一度探してみましょう。
数ヶ月後
「…やっぱりないわね」
どうして無いものに
ここまで固執できるのか
自分でも不思議に思う。
それでも答えが出せない。
だって、分からないんだもの。
「…ん?誰だ?」
ドア付近に誰かいる。
「…誰だはこっちのセリフ。
あなた、わたしとクラス違うでしょ」
「あっは!その通りだな。
おれの言い方が
間違ってたってことだよな!」
なに、このアホっぽいの。
自己解決してんだけど、きも。
「改めて、おれは1番目。
君はなんの用でここに来てるんだ?」
1番目。
噂だけは聞いたことがある。
老若男女問わず、全員に優しいって噂。
そんなの、中身を知らないと
分からないくせによくもそんなに
考えられるわよね。
「…わたしは2番目。
失くしものをしたから
それを探してるだけよ」
「2番目?
…あぁ!噂の子か!初めて見たぜ!」
「…噂?わたし、
そんな目立つことしてないんだけど」
友達と言える人がいない時点で
何の噂が立てられるというの?
「あっは!いい噂だぜ?
『一匹狼の美しい女子生徒』って!
みんながお前に近ずかないのは、
嫌がらせなんかじゃないんだぜ」
「はぁ?別に、
嫌がられてると思って
過ごしてないんだけど」
なんか、疲れてくるわ。
会話の終わりが見えない、
一生続きそう。
「…で?あなたは何用?」
「いや、普段誰もいない教室に
人がいたから、
何してんのかなーって!」
あぁ、アホね。こいつ。
「…真剣に聞いたわたしが
バカみたいね」
「はぁ!?そ、そんな
つまんなくなかっただろ!?」
「…さぁね」
このアホ、
早くどっか行ってくれないかな。
「あ、そういえば。
失くしものって、何を探してるんだ?」
触れられたくない話題に
触れられた。
「あなたに関係の無いことでしょう。
さっさと下校したら?」
「下校時間過ぎてまで
探すってことは、
相当大事なんだな!」
3番目と同じことを言われた。
でもなんだか、
あの子とは違う感覚がする。
「そんな大事なものでもないわ。
…誰から貰ったのかすら、
分からないし。
それに、わたしはあなたと
話してる暇があれば
探す続きをしたいの。
出ていってくれる?」
ここまで言えば出ていくでしょ。
ある意味鈍感なのね、このアホは。
「あっは!なら、おれも手伝うぜ!
一人で探すよりも、
二人の方が効率がいいだろ?」
なんでこいつは離れないの?
テンション感が合わないのも
わからない?
「…ほんと、アホね」
思わず口にしてしまって
焦ってアホを見たけど、
怒ってなさそう。
どっちかというと、嬉しそう?
は?なに?Mってこと?
だからわたしに
近ずいたってことかしら。
ほんと、運がないわね。
「…なぁ!その失くしものってなんだ?
どんな形してんだ?」
まさか、本当に探す気?
「…下校時間、遅くなるわよ?」
「あっは!安心しろ!
家まで送り届けてやっから!」
「その心配はしてないわよ、アホ」
ほんと、気が狂うわ。
家
「ただいま」
「お姉ちゃん!おかえり!」
「あら、今日は早いのね」
「うん。3番目のお姉ちゃんから
失くしものの話を聞いたから、
僕も一緒に探そうと思って!」
この子は6番目。
幼い頃に事故にあって
両腕をなくしたから、
今は義手生活。
恵まれたことに、
そこまでつっかかってくる輩が
いないらしいから、
わたしは心からほっとしている。
「失くしもののことはもういいのよ。
気にしなくて大丈夫」
きっと落としたのは学校。
3番目ならまだしも、
まだ中学生の6番目が
校舎内に入れるわけが無いから、
このことに関しては
協力してもらわなくても本当に大丈夫。
「それより、久しぶりに三人で
ご飯が食べられそうだから、
ちょっと奮発しちゃおうかしらね」
「僕手伝うよ!なにすればいい?」
この子はいつか騙されそうで怖い。
でも騙されたら、いえ。
騙される前にわたし達が助けないとね。
1side
「付き合ってください…!」
「…あは、ごめんね。
おれ、縛られるの嫌なんだ」
おれは1番目。
絶賛告白され中でーす。
「いや、でも…
私なら自由に1番目くんの
好きにさせてあげるし、
束縛もしないよ!」
「おれが浮気しても?」
「それは…」
ほら、黙っちゃった。
結局みんな見てるのっておれの顔と
表面上の性格だろ?
友達の状態で
中身を知ろうとしてこないやつは
大抵外見でおれに告白するから、
どんなに最低な手口でも断る。
てか話したことない人は論外だな。
人柄も知らないのに
付き合うとかは無理すぎる。
「…ごめん、なさい……!」
あ、逃げた。
なんだ?ごめんなさいって。
まるで振ったおれが悪いみたいじゃねぇか。
勝手に自滅しただけだろ?
あーあ、めんどくさい。
ガタッと隣の教室から音がした。
盗み聞きしたやつがいると思って
焦って教室を覗いた。
案の定人がいた。
最悪だ。
その人はなにか床を見てるみたいだけど、
何をしてるか気になった。
いつもは気にならないけど、
なんとなく気になってしまった。
「…ん?誰だ?」
まるで、偶然見てしまったかのように。
その子は『2番目』と名乗った。
一匹狼と言われてる彼女は
失くしものをしたらしく、
床を必死に見ていたらしい。
おれを前にして媚びらないやつは
あまり見ない。
いや別に自惚れてるわけじゃないぜ?
ただほんとに、珍しかった。
だって、おれのこと
アホとか言うやつだぜ?
放課後でよかったな、
昼間なら流石のこいつでも
ブーイング食らいそうだし。
それが理由かはわからねぇ。
でも、おれはこいつのことを、
もっと知りたいって思ったんだ。
人生で初めて。
家
「ただいまー」
「兄貴、帰ってきたのか」
こいつは5番目。
賢くて頼もしいおれの弟だ。
「…なんか、
いいことでもあったのか?」
「え?別に、特には…」
あった。
…かもしれない。
いつもと違うことといえば
2番目に会ったことだ。
でもそれがいいことってなんだ?
「久しぶりに見たぜ。
兄貴の嬉しそうな顔」
よく見てんな、こいつ。
たしかにおれは最近
心から面白いと思ったことは
あまりない。
そう考えれば、
今日は楽しかったんだな。
「…乙女の顔してんぞ」
にやりと笑いながら
バカにするかのように言ってくる。
乙女じゃねーよ!!!
2side
学校
次の日に登校してやっと気づいたけど
あの1番目ってやつ、
相当人気者だったのね。
どこ歩いてても耳に入ってくるわ。
でも全部
『あの顔面は国宝』だの
『私の仕事手伝ってくれたんだけど
もしかしてこれって脈ある?』だの、
ほんと全部がくだらない。
あんなアホ面が国宝だなんて、
世も末よ。
「2番目〜!」
後ろから声が聞こえたけれど無視した。
「にーばーんーめー!!!」
「あぁもうなに?うるさいんだけど」
「あっは!そんな怒んなって!」
こんなアホを
相手にしたところでいいことなんて
わたしに一つもない。
ただ時間の無駄よ。
「今日も探すのか?」
「そうだけど…なに?
まさか付いてくるとか
言わないわよね?」
「ご名答だぜ!」
「帰って」
ただでさえこんな公共の場で
注目されてんのに、
これからも注目されるなんて無理。
「…じゃあ、了承してくれるまで
このまま捕まえてるって言えば?」
「はぁ?そんなこと出来るわけ」
ドンッと壁に追いやられた。
外野が一気に大盛り上がり。
若干憎しみの目を向けられてるけれど、
わたし悪くないでしょう?
「…2番目、全く照れないんだな」
「当たり前でしょ。
それよりなに?この状況。
きもいんだけど」
「壁ドンってやつだ。
知らなかったのか?」
自分が有利に立ったと感じたのか
自慢げな笑みを浮かべてくる。
もちろんわたしは知らなかった。
でもわたしの知識はそれだけじゃないし、
負けっぱなしも腹が立つ。
「たしかに知らないわ。
でも、一つだけ知ってることがあるの」
「? なにをだ?」
わたしはこのアホにしか
聞こえないような声量で言った。
「壁ドンって、
脅迫罪に値するらしいわよ?」
「はぁ!?」
「それじゃ」
わたしはそれだけ言い残し
少しだけ開いた隙間から颯爽と去った。
もう注目されたくないし、
関わりたくもないわ。
1side
数週間後
2番目に避けられている気がする。
というか、確実に避けられている。
さっきだって、廊下ですれ違った時には
「今日も探すんだよな?
手伝うぜ!」
「アホが移る。近ずかないで」
この有様だ。
どうしたものか。
たしか、2番目には妹がいた気がする。
そっちに手を回してみるか。
昼
とは言ったものの、
あいつの妹がどの学年で、
そもそもこの学校にいるのかすら
知らない。
こりゃあ大変だ。
「あ、あの…1番目先輩、ですか?」
誰だ?こいつ。後輩?
「あっは!1番目先輩だぜ!」
とりあえずノリだけ合わせておこう。
好かれて悪いことはそれほど無い。
「少し、聞きたいことが
あるんですけど…」
「? いいぜ!ここで話すか?」
「いえ!…えっと、あんまり
聞かれたくないものなので…」
人に聞かれたくないものを
おれに話すって、どんな内容なんだよ?
「…そうか!
じゃあ屋上にでも行こうぜ!」
「えぇ!?でも、
たしか屋上って立ち入り禁止じゃ…!」
「いいんだよ。バレなきゃな」
立ち入り禁止を真に受けてる感じ、
一年か。
初々しいねぇ、
恋人とか作ろうとする時期かな。
おれの失われた青春の分、
頑張ってほしいぜ。
屋上
ドアを開けると風が体にあたって
肌寒く感じる。
もうそんな時期なのか、早いな。
「は、初めて入りました…!」
「あっは!まぁ良い子は入らないしな」
…あっは、漫画みたいに
オーバーリアクションなんだな、こいつ。
『悪い子になっちゃった…!?』
みたいな表情してて、面白いぜ。
「で?話ってなんだよ」
「あぁ、それは…と、
先に自己紹介からの方が
いいんでしょうか?」
「まぁたしかに、
いつまでもお前のこと知らずに話すのは
気が引けるしな」
そう伝えると、改めておれの方を向いた。
「あたしは一年生の3番目です。
多分1番目先輩の同級生に
2番目って人がいると思うんですけど、
その人の妹です!」
「…へっ?」
思わず声を出した。
こっちから求めていた人が
向こうから歩まれるとは
思いもよらなかったから。
「…3番目ね。それで、
聞きたいことって?」
告白関連なら申し訳ないけど無理だな。
おれがそこまでやる義理はないし。
「あの、タネさんと
知り合いだったりしますか!?」
…タネさん???
「え、えっと…?」
「えっ!まさか外れちゃった!?
あたしの勘結構当たるのに〜!」
タネさん?勘?なんの話だ?
「あっ、ごめんなさい!
多分、人違い…かなって…」
「あっは!全然大丈夫だぜ!
そのタネさん?が
いまいちよくわからないんだが、
教えてくれるか?
相談、乗ってやるぜ!」
別におれに害がなければ
手伝いだってできる。
よかった。一安心だ。
「えっと、タネさんは
中性的な見た目だから
性別が分かりにくいんですけど
男の人で!とってもかっこよくて
可愛いんですよ〜!♡
それに!タネさんはー!」
…なんかすっごい語ってる。
でも、そのタネさんとやらは
おれと関わりがあるのかもしれない。
「あっ!話しすぎましたね!
で、その人のことがあたしは…その、
好きなんですけど…」
ひゃー。恋バナ始まった。
女子ってこういうのに
異常に反応するよな。
これも女心ってやつか?
「タネさんとあたしって
クラスが違くて、
普段関わることもあんまりなくって、
それで…」
なんだ?だからどうすればいいとか
聞きに来たってことか?
恋愛経験豊富そうみたいな
偏見で聞きに来たとしたら
結構やばいな。
良い子だと思ったが、
やっぱりここまでか?
「タネさんの好みを知れば、
あたしも振り向いてもらえるかなって
思って…!」
あぁ、この子純粋で良い子だ。
勝手に決めつけてしまってなんだか
無性に申し訳なくなった。
「…それで、女子が聞くよりも
おれが聞いた方が違和感がない、と?」
「そういうことです!」
いや、学年違うから違和感しかなくね?
「そのタネさんと
仲いい友達とかに
頼めばいいんじゃねぇか?」
「いえ、タネさんって
一人でいる時が多くて
友達とかも
あまり見かけないっていうか…」
2番目と同じ一匹狼タイプって感じか。
だったら友達からでもなればいいのに、
とは思うが、
きっときっかけがないんだろう。
しゃぁねぇな。
青春してる後輩のために
先輩が一肌脱いでやりますよ。
「それとなーくタネさんとやらに
好みとか色々聞きだしてやるよ」
「いいんですか!?
ありがとうございます!!!」
めっちゃ喜んでる。
感情表現が豊かだな。
「ただ、一方的ならアンフェアだろ?」
「…え?」
まぁさすがに報酬もなしに
おれが後輩の手伝いをするわけが無い。
ただ、2番目の妹ということを
利用するだけだ。
「おれはタネの情報を
色々と抜き出す。
その代わり、お前は2番目から
情報を抜き取れ。わかったか?」
「? いいですけど…
なんでお姉ちゃん?」
「一匹狼って噂されてる人の情報とか、
面白そうだろ?」
あっは、めちゃくちゃ嘘。
面白そうなんかで
おれがあいつの情報
集めると思うか?
まぁ普通に、
こいつに話したら
茶化されそうってのもあったけど。
3番目の方を見ると
めちゃくちゃ悩んでる。
そんなにあいつの
プライベートやばいのか?
まぁここはこの一言を
加えれば大丈夫だろ。
「別に、できないなら
おれも情報提供はしないぜ?」
「うっ…タネさんの為!
それならお姉ちゃんだって犠牲に!
お姉ちゃんごめん!!
先輩お願いします!」
「ふふん、よかろう」
なんとかなった。
それよりこの子好きな人のために
姉売るんだな…意外と怖いやつだな。
まぁいい。
2番目の情報が手に入るなら
タネのことも調べがいがある。
よし!そうと決まれば
今すぐ行動しよう!
次の日
おれにストーカーしてた女子って
こんなつまんねぇことしてたのか?
まぁおれのはストーカーじゃなくて
尾行だが、結構つまらない。
バレないように、見失わないように
標的を追いかけるとか大変すぎる。
そこまでの成果もないしな。
「…あの!なにか用ですか…?」
はっ?おれのこと気づいたの?
…いや、探ってる?
そこら辺をキョロキョロ見渡しながら
言ってるあたり、
目星はついてなさそう。
まだバレてなさそうだな。
「…誰に、相談しよう…」
お、これはチャンスなのでは?
たしか一人行動が多くて
友達いなさそうって言ってたよな。
よしっ!収穫ありだな!
これで2番目の情報が一つは手に入る。
そう考えたらもっと集めたくなった。
あいつ、
前世エナドリかなにかだったのか?
2side
なんだか3番目の様子がおかしい。
いつもよりもよそよそしいというか。
「…なにか、話したいことでもあるの?」
「んへぇ!?いや、特にはなにも…!」
怪しい。
でも、わたしはそこまで
深堀するつもりは無い。
プライベートなことだったら
可哀想だものね。
「…お姉ちゃんって、
気になってる人とかいるの?」
急に恋バナが始まった。
6番目がまだ帰ってきてないから
話せはするけど…。
「…いないわよ。全然」
「え?良さげな男性とかもいないの!?
じゃあ推しとかは!?」
意外と食いついてきたわね。
「そんな簡単に良さげな男性なんて
見つかるわけないのよ。
あなたの周りに
多いだけじゃないかしら?」
まぁ、1番目のあのアホ面は
印象に残ってるけど。
「もー!お姉ちゃんったら
あたしのことなんだと思ってるの!?」
「可愛いわたしだけの妹」
「許してあげましょう!」
我が妹ながらちょろいわね。
「…そういえば、
好きな人とは進展があった?」
「へっ!?いや、
…まぁ、…ぼちぼち、かな…」
あんまり進んでなさそう?
まぁわたしには何も出来ないから
頑張ってほしいわね。
3side
1番目先輩の交渉で
あたしはお姉ちゃんの情報を
得なきゃいけないのに
何も聞けないよ〜!
いつもどう話してたかわかんないや…。
意識するとこんなにも
変わるものなんだなぁ。
…あ、そういえばお姉ちゃん、
最近帰ってくる時ちょっと
怪訝そうな顔してるんだよね。
失くしもの探すのに疲れたとか?
1番目先輩に伝えて、
どっか連れ出してもらうとか!
わー!それってデートじゃん!
多分だけど1番目先輩
お姉ちゃんのこと好きなんだろうな〜!
あたしの勘って結構当たるし!
それであたしもタネさんと…。
きゃ〜!想像しただけで
ドキドキしちゃう!
そのこと伝えてみようかな!
この情報が役に立たなさすぎて
報酬がしょぼかったら
また頑張らなきゃだしな…。
1side
次の日
3番目とは屋上で待ち合わせをしている。
昼にしか会えないから
時間的には結構短いんだよな。
それになんといっても寒すぎる。
なんで屋上集合にしたのやら…。
まぁ情報を交換できれば
なんでもいいか。
「あ!すみません!
遅れました!」
お、きたきた。
「あっは!全然大丈夫だぜ!」
本当は五分前に来てたとか言えねぇな。
「そ、それで…あたし、
しょぼい情報しか集められなくて…」
「なんでもいいぜ、
おれもちょっとしょぼいしな」
申し訳なさそうに謝る3番目を
カバーするように話す。
正直おれのも普通にしょぼいしな。
「なら、よかったです…!
あ、それであたしが手に入れた情報は…」
本題だ。
おれと3番目の
『しょぼい』の感度が違えば
当然情報の良さも上下ができてしまう。
まぁ、おれと同等であることを
願うしかないか。
「お姉ちゃんが今失くしものを
してることは知ってますか?」
「あぁ、放課後に探すの手伝ってるぜ」
「それの疲れかはわからないんですけど、
最近帰ってくる時に
怪訝そうな顔してて…」
…待て、それおれが原因か?
「それっていつ頃からだ?」
「うーん…8月?くらいですかね」
おれが手伝い始めたのと同時期じゃん。
おれのせい、って感じか?
…いや、偶然かもしれない。
気にしないでおこう。
「で、それがどうした?」
「あ、いや…
疲れを癒すってことで
どこかに出かけてみても
いいんじゃないかなって思って…!」
出かける、か。
学校から出る、
その発想はなかったな。
「あっは!ありがとな。情報提供」
「いえいえ!それで、1番目先輩は?」
「おれも少し似たような
感じになるのかな」
おれはタネを尾行したが
ストーカーと思われた。
その相談相手がいないから
3番目が乗ってやったらどうだ。
そんなことを話した。
「…先輩、
ストーカーだったんですか…?」
「人聞きがわりぃぞ、尾行な。尾行」
大体、おれがタネの
ストーカーをした所で
何になると言うんだ。
おれへのメリットが少なすぎる。
「…それじゃあ、
こんなのはどうでしょう?」
2side
休日
3番目が突然
水族館に行きたいと言い出した。
あの子が突然何かを言うことは
何度もあったから、気にもしなかった。
でも、これはあんまりじゃないかしら?
「1番目先輩!
こっちにでっかい魚いますよ!」
「うおぉ!くそでけぇ!」
なんでこのアホがいるのよ?
アホの隣にいる子も混乱してるし、
可哀想ね。
「…あなた、大丈夫?」
「へっ!?いや、あの…」
なんだかオドオドしてる。
もっと胸を張ればいいのに。
「驚かせてごめんなさいね。
わたしは2番目、あなたは?」
「私はタネです。
一年生で…友達、も…いません…」
「? 3番目とは友達じゃないの?」
「彼女は学年での人気者です。
私なんかが関わっていい相手じゃ
ありません…」
この子は自信が無いのかしら。
「あなた、綺麗な顔立ちしてるから
モテると思うのだけれど?」
「…でも、
話しかけられないんですよね。
話題も見つからないので…」
…ほんとはしたくないけど、
仕方ないわね。
「3番目、この子とまわってきなさい」
「え!?2番目さん!?」
「わかった!えっと、タネさんだよね!
行こ!」
タネが3番目に手を引かれて
ドタドタと去っていく。
あの子に友達ができればいいけど。
でも、ほんとはこんなことしたくない。
だって…
「ひゃ〜、かっこいい先輩だこと」
このアホと二人きりになるから。
「うるさいわね、
わたしはただあの子の友達作りを
手伝っただけよ」
「じゃあおれはもう友達って
ことでいいのか?」
「なわけないでしょ、きも」
こいつと友達?吐き気がする。
ただ失くしものを探すのを手伝ってる人。
その肩書きだけで十分よ。
「まぁでもせっかく来てんだし、
一緒にまわろうぜ」
たしかにチケットを無駄にするのは
気が引ける。
仕方ないわね。
わたしは先に足を動かす。
「? 2番目?」
「早く来ないと置いてくわよ」
アホは驚いた顔をしたあとに、
笑顔になった。
「素直じゃねぇな」
「うるさい」
顔が熱い。
これも全部、アホのせいよ。
ふと、気になったことを聞いてみる。
「…義手ってどう思う?」
「ん?義手?」
突然すぎた質問には
さすがにアホも驚いている。
「そうだな…おれは別に、
義手をつけることによって
その子の人生が幸せになるなら
いいと思うぜ」
思っていたよりも
真面目な回答が返ってきた。
なんだかアホらしくない。
「あっは!そんなにおれが
真面目なのがおかしいか?」
わたしは気付かぬ間に
顔に出ていたらしい。
「…えぇ、意外だったから」
「実はおれ、弟いるんだ」
その弟もこいつと似てアホなのかしら。
そんな気にすることでもないことを
気にしてしまった。
「おれの弟は足が不自由なんだ。
まだ歩けるようにって
義足を進めたんだが、
なぜか頑なに車椅子から
降りようとしねぇんだよな」
6番目と少し似ていた。
6番目は腕がなかったから
義手をつけている。
さすがに腕がなければ
生活ができない。
「まさか、好きな子がいたりしてな。
それでもおれは、応援するし」
「なんて名前の子なの?」
アホがここまで語るような子は
そうそういない。
少し気になった。
「5番目って言うんだぜ!
おれに似て賢くてな!
顔もいいし、
意外とモテてんじゃねぇかな」
「あなたと似てアホなのかしらね」
「どういう意味だそれ!?」
単純ね、こいつ。
低レベルな下ネタで盛り上がる、
みたいな幼稚な頭してそう。
「それよりどうしたんだ?
急に義手の話なんて」
「あぁ、わたし弟がいるんだけど、
その子が義手なの。
幼い頃に交通事故で腕をなくしたから
義手で生活してるんだけど…」
「2番目の弟の名前はなんなんだ?」
…踏み込んでこないのね。
大抵こういう話をすると
みんな詳しく知りたがる。
…なんで、かしら。
なんで、
全員から人気のアホにこんな話したの?
今更自分に疑問を持つ。
1番広められる可能性があるのに、
なんで?
「2番目?大丈夫か?」
…個人情報ではあるけれど
あっちは公開して
こちらは非公開なのは
アンフェアだと思った。
「6番目っていうの。
あなたと違って純粋で可愛い子よ」
「あっは!そうかそうか!
純粋で可愛い子かー!
…まて、おれと違って?」
気付くの遅すぎでしょ、この鈍感男。
少し見直したと思ったら
すぐこれなんだから。
「おれと違ってってなんだ!?」
あーうるさいうるさい。
どうせ着いてくるし先に行きましょ。
「おい!無視すんなって!!!」
水族館をまわり、
海月のコーナーへと来た。
「なぁ、知ってるか?
海月って死んだら溶けて消えるんだぜ!」
「アホが知ってることを
わたしが知らないと思う?」
「でも壁ドンは知らなかっただろ?」
悔しいけど反論できない。
「ほんときもい…」
「なんでだよ!?」
そんな、いつも通りの会話をする。
「…おれ、来世ぜってー海月には
なりたくないんだよな」
「あら、そう?
海月ってただ
海にたゆたっているだけだから
あなたみたいなアホには
お似合いじゃないかしら?」
やっぱりアホ。
なんのダメージも受けてない。
話を聞くだけ無駄かしら。
「一応聞いておくけど理由は?」
「そんな大した理由じゃねーけど、
海月って死ぬときは誰にも知られずに
消えてくんだろ?
そんなの、おれは寂しすぎる」
「…だからそんな
存在感丸見えのアホなの?」
「ははっ、さぁな」
笑ってはいたけど、少しひきつっていた。
このアホが勝手に自滅しただけよ。
勝手に海月なんかになりたくない
って言って、
言いたくなければ言わなくていいのに
わざわざ話した。
全部、このアホが悪いのよ。
少し、胸がズキンとしたけど。
3side
タネさんとデートだぁ〜!!!
まぁタネさんからすれば
違うだろうけど、
今日くらいはデートだって
思っていいよね!
「…あ、あの…」
「ん?どうしたの?」
「私…その、帰りますね」
…へ?帰る?
「え、いや…なんで…?」
「だって3番目さんは、
本当は1番目さんとのデートを
期待されていたのに、
私なんかと一緒の行動に
なってしまって申し訳なくて…」
…もしかしてこれ、誤解ってやつ?
「大丈夫だよー!
きっとあの人が好きなのは
お姉ちゃんだから!
あたしなんて眼中にもないと思うし」
「そんなことありません!
3番目さんも
とても可愛らしいと思います!」
かわい…らし、い?
「…へぁ、…あり、がと…う」
あたし今可愛らしいって言われた!?
え、タネさんに言われたの!?
このあたしが!?
顔熱すぎる…!
「…3番目さん?」
タネさんがあたしの顔を覗いてきた。
いつもなら嬉しいけど
今はやめてほしい…
顔赤いのバレちゃう…。
「…熱でしょうか?少し失礼します」
そういってタネさんは
あたしとおでこをくっつけた。
「まっ!?え、ちょっ…、近っ…!?」
「…?熱はなさそうですね…
って3番目さん!?」
タネさんってこんなに
距離感バグってたんだ…
嬉しいけど…心臓もたない…。
あたしは無事
ゆでダコになっちゃいました。
1side
なんで3番目がやられてんだ?
てっきりおれはタネが3番目に
振り回されると思ってたんだが…。
「なんか進展あったのか?」
「い、いえ…
ただ、熱があるか判断しようと
したらこんな感じに…」
こいつ…もしや恋愛経験無さすぎる?
「なぁ…どうやって測ったんだ?」
「え?えっと…1番目さん、
少し屈めますか?」
そんな身長差まで
真似る必要あるのか?
そうは思ったが声には出さず
に大人しく屈んだ。
その瞬間タネと
おれのおでこがぶつかった。
「こうやったんですけど…
測り方が悪かったんですかね?」
「悪すぎるぜ…」
「えぇ!?」
タネのこと好きな3番目からしたら
こんなのゆでダコ済んで
良かった方だろ…。
こいつは、
無自覚イケメンってやつだな…。
「えっと…すみません。
私の軽率な行動が
原因でこんなことになっちゃって…」
「いいのよ別に。
下心があったのなら話は別だけど、
さっき話した感じだと
違いそうだったものね」
「ありがとうございます…!」
やっぱり2番目は器が広いな。
おれなら2番目がゆでダコになって
帰ってきたらそいつに
何するかわかんねーしな。
…なんでおれ2番目で想像してんだ?
「…なに顔赤くしてんの?きも…
アホが赤面する必要ないでしょ」
「そ、そうだな!
ごめんな、心配かけて」
「心配なんてしてないわよ。
調子に乗らないで」
あっは、おれサイテーだな。
勝手に置き換えるとか。
…でも、ほんとにあったら
どうするんだろう?
おれなら…
殺すかもしれねぇな
家
「ただいまー」
「兄貴、おかえり」
そういえば、と思い
今日の話で出た話題を振る。
「お前、6番目って子知ってっか?」
「…いや、知らねぇな」
ま、そりゃ知らないだろうな。
中学が同じかすらも知らねぇし、
なんなら2番目の弟が
中学生っていう確証もない。
こりゃ、ほんとに知らないタイプだな。
「今日そういう話題が出て、
その6番目って子義手らしくてさ、
なんかお前に似てんなーって
思ったんだよ」
「そうか?俺が不自由なのは足だろ」
「…義足、付けねーの?」
5番目の動きが止まった。
「知ってるか?
義足って結構金かかるんだぜ。
そんなの買ったって
負担にしかならねぇし」
「お前が過ごしやすい環境を
おれは作りたい。
だから、それだったら───」
「俺が今のままで満足してるって
言ってんだからもういいだろ?
義足は買わねぇ、車椅子でいい」
ダメだなこりゃ、
こうなったら何言っても聞かねぇわ。
「…お前が過ごしやすいようにしろよ」
その後5番目は去っていった。
「玄関先で喧嘩しないでくれない?
近所の人に騒ぎ立てられたら困る」
「…4番目か、ごめんな!
これから気をつけるわ」
「あっそ…」
4番目は単眼症で、目立つのが嫌いだ。
その目のせいで馬鹿にされ、
トラウマが残って
通信制の学校に通っている。
今回タネと繋がれたのは
4番目のしているゲームで
タネがフレンドだったからだ。
おれは4番目の目を
個性だと思ってるから
違和感とかは感じないけど、
一般的に見ればそれは
『化け物』になるのだろう。
最近は心開いてくれてると
思ってたんだけどなー。
思春期の弟たち相手にすんの、
ムズすぎる。
5side
「お前、6番目って子知ってっか?」
は?なんで兄貴が6番目のこと
知ってんだ?
6番目には
誰にも話すなって言ったのに、
なんでだ?
「…いや、知らねぇな」
兄貴に疑われたら終わる。
とにかく、平常心。
平常心───。
「今日そういう話題が出て、
その6番目って子義手らしくてさ、
なんかお前に似てんなーって
思ったんだよ」
何話してんだよおい!!!
ってか、義手?
6番目に腕はあるだろ。
よかった、兄貴の冗談か。
ほんと、シャレにならねぇ。
「…お前が過ごしやすいようにしろよ」
…はぁ
部屋
お前が過ごしやすいようにしろ…?
俺は今が幸せなんだよ!
6番目のあの天使みたいな顔
めっちゃ可愛いだろ!?
いや恋愛感情とかはねぇけど、
弟にしたいランキング
第一位すぎるんだよあいつ。
義足付けたら…6番目に、
相手にしてくれなくなるじゃん。
それくらいだったら車椅子でいい。
6番目の手間は増やすけど、
その分一緒にいられる。
嬉しいな、それは。
6side
「あなた、
5番目って子知ってるかしら?」
「? 誰?それ」
なんでお姉ちゃんが知ってるの!?
あっちから話すなって言ってたのに
めちゃくちゃ話してるじゃん!?
「あなたと似てて、
足が不自由な子らしいわ。
ま、義足はつけてないらしいけど」
人違いの可能性も考えたけど
聞く限りだと同一人物なんだよな…。
「それで、その人がどうしたの?」
とりあえず、疑われないように平常心!
ボロが出たら絶対終わるし…!
「いえ、もしかしたらあなたと
良い友達になれるかもって
思っただけよ」
「そっか!会ってみたいな!」
口からでまかせしか出ない。
ほぼ毎日のように会ってるのに!!!
「頼んでみてもいいけど?」
え、嘘じゃん。
ここ断ったら
めっちゃ疑われそうじゃない!?
僕だいたいイエスマンだし…。
うわぁ!どうしよう!
「うーん…今はちょっと学業が忙しいし、
また今度にしておこうかな」
我ながら天才的な回答だ!
これなら疑われずに済むかな!
「会ってみたくなったら教えなさい。
頼んでみるから」
「うん!ありがとう!」
そういってお姉ちゃんは
自分の部屋に向かった。
ふぅ、なんとか去ったな。
でも、なんで知ってたんだろ?
まさか、僕との関係が…
いや!ないない!大丈夫!
恋仲じゃあるまいし、
バレても否定されないとは思う。
でもやっぱり…
「恥ずかしいよなぁ…」
「なにが?」
3番目のお姉ちゃんが
ニヤニヤしながら聞いてくる。
一難去ってまた一難すぎるよ〜!
次の日
「…あの、さ」
「ん?何?」
下校中、僕は彼に昨日のことを
聞いてみる。
「誰かにこのこと、バラした?」
「こっちのセリフなんだけど…
お前じゃねーの?」
そう言われムッとする。
「僕がこんな恥ずかしいこと
誰かにバラすと思う?」
「ははっ、何もしてなさそうだな。
もちろん俺も何もしてない」
「え、そうなの?
じゃあなんでお姉ちゃん
知ってたんだろ…」
「俺の兄貴も知ってて、
そういう話題になったって
言ってたな」
…もしかしてこれ、
原因お姉ちゃんたち?
「兄貴は昨日水族館に行ったんだが…」
「お姉ちゃんも行ったよ」
うわ…確定演出すぎる。
もー!なんでそこで
関わり持っちゃうの!
「そうだ、
お前の姉貴って好きなやついるのか?」
「? いないと思うけど…
まさか狙ってる!?」
「そんなわけねぇだろ。
第一、今初めて兄貴と
関わり持ってること
知ったんだからよ」
まぁそっか、そうだよね。
彼は車椅子。
失礼だけどそこまで
進展するとは思わない。
「ま、バラされたところで
俺に損はねぇから、お前は頑張れよ」
うっ、確かにそうだ。
このことをバラされたって
損があるのは僕だけ。
繋がりを知られた以上、
僕の人生は彼に掴まれてしまった。
「…そういえば聞いてなかったな。
6番目はどこの高校行くんだ?」
あぁ、そっか。
楽しすぎて忘れてたけど、
もう受験しなきゃだ。
受験生がこんな心構えじゃ
ダメなことくらいわかってる。
でも、やっぱり…
現実からは、逃れたい。
「お姉ちゃんたちが通ってる高校を
受験するつもり」
「ふーん…いいのか?それで」
そこまで希望を持って行くわけじゃない。
ダメなんだろうな、本当は。
「今更変えられるわけないよ。
そこに一本集中なんだから」
「ま、かくいう俺も
兄貴の通う学校だけどな」
「そうなんだ!」
もうすぐお別れか。
悲しいけど…仕方ないよね。
学校ってそういうものだし。
そのときしか繋がりのない、赤の他人。
交友関係が広い人ほど
別れが寂しいのかな。
僕は彼としか親しくなってない。
だから、悲しくないのかな。
そのとき僕は、どんな感情なんだろうな。
「なんでそんな
寂しそうな顔してんだよ?」
そう言って彼は僕の頭に
ポンッと手を乗せる。
彼の手から温もりを感じる。
僕からは与えられない温もり。
「俺とお前なんだから、また会えるよ」
そっか、そうだよね。
僕には彼しかいないし、
彼にも僕しかいない。
めんどくさいなぁ、僕って。
でも、仕方ないよね。
抱いた感情が『愛』に近いんだから。
「お互い頑張ろうな」
「うん!おにぃちゃん!」
2side
卒業まであと数日。
時が過ぎるのは早すぎる。
大学受験も終えてゆっくりできるかと
思いきや、そんなことはなく
ずっと忙しい。
それに、わたしの失くしものも
見つかっていない。
最初は、しばらく探してなければ
諦めようと思ってた。
でも、アホが乱入してきたせいで、
わたしの計画が狂った。
今もアホは必死に探している。
無いものを探すというのは、
とても滑稽だとわたしは思う。
このアホと同じ作業をするって
だけでも吐き気がする。
それでも、頑張って見つけようと
してくれている彼の頑張りを
裏切るほど性格が悪い訳でもない。
だから、最後。
今日で終わりにしましょう。
「…1番目」
「ん?なんだ?」
彼は手を止めることなく会話をする。
アホね、まだ探そうとしている。
「…ありがとうね、今まで」
「おれがしたかったことなんだ。
礼なんていらねーよ」
「そう、それじゃあ、お願いは聞いて」
「…お願い?」
やっと手を止める。
「もう、探すのはやめにしましょう。
無いものにここまで縋るのは、
あまりにも滑稽すぎるわ」
驚いた顔をしている彼と目が合う。
ほら、あなたの望んだ自由よ。
噂に聞いた話、
束縛は嫌いなのでしょう?
なら、
『2番目の失くしものを探すのを手伝う』
なんてものに縛られずに、
最後の数日くらいは
自由に過ごしなさいよ。
「あなたの最後の高校生活で、
放課後の青春を奪って悪かったわね。
なにか奢るわ。何が欲しい?」
「…少し、考えさせてくれ」
そういって彼は立ち去った。
…怒ってる?
訳が分からない。
なんで解放されたのに怒っているの?
そっか、じゃあまたな
で済ませればよかったものを、
なんで持ち越そうとしたの?
「…やっぱり、いつまで経っても
きもくてアホね」
最後に発した言葉は、
自分でも聞き取りずらかった。
卒業
「お姉ちゃん卒業おめでとう!」
「おめでとう!」
「ありがとう。3番目、6番目」
わたしは無事に高校を卒業した。
あれ以降アホとは会うどころか
見かけもしなかった。
ま、気まづくなることも
なかったから別に
どうでもよかったけど。
至る所で告白の言葉が聞こえてくる。
うるさいわね、
よそでやってくれないかしら?
「みんな最後だから
告白してるのかな〜!
あたしこういうの見ると
キュンキュンしちゃうんだよね!」
「それ3番目のお姉ちゃんだけ
じゃない…?」
最後くらいってことかしらね。
わたしも最後は自分に正直に話せて
よかったとは思ってる。
…まだ、あの言葉には引っかかるけど、
気にしたら負けよ、きっと。
「1番目先輩って
あんなモテてたんだね。
行列出来ちゃってるし…
なんだかアイドルの握手会みたい」
…考えた結果がこれってわけね。
はーぁ、気分悪い。
「二人とも帰りましょ」
「え?まだ残ってなくていいの?」
「3番目の行事で来ることはできるし、
この学校に未練なんてないわ」
今すぐ立ち去りたかった。
二人の前で弱い部分を
見せるも嫌だった。
「2番目…!ちょっと待ってくれ!」
もう、逃げたかった。
「ま、てっ…待てって!2番目!」
腕を掴まれる。
「…なんか用?」
もうこいつと話すことはないはず。
「話がしたいんだ」
「話…あぁ、奢ってほしいものね。
結局何が欲しいの?」
「…着いてきてくれ!」
腕が勢いよく前に傾き転びそうになる。
「危な…!?」
ちょっと、
本当にアホなんじゃないの!?
「っ…離しなさいよ!」
アホの手を振り払う。
「ここまできてしょぼい要求だったら
ただじゃおかないわよ」
アホはずっと黙ってる。
前まであったあのうるささは
どこに行ったの?
と思うくらいに大人しい。
「早く言いなさいよ、
こっちだって用事が──」
「お前が欲しい」
…は?
「…なん、て…?」
「2番目、お前が欲しい」
突然のことすぎて頭がフリーズする。
「…対価が大きすぎないかしら?
さすがにそれは…あなたも、
あの時ノリで言わなきゃ良かったって
後悔するわよ」
「…あの、これ…」
そういって彼が差し出したのは
わたしが失くして探していたもの。
「なんで持ってるの…?
どこにあったの?これ…」
「…実は、出会ってからずっと…
最初から、あったんだ。
おれがずっと持ってた」
わざと隠してた…ってこと?
「…趣味悪いわね」
「本当にごめん。
でもおれ、2番目と出会って
思ったんだよ。
まだ一緒にいたい、
この日だけの関係にしたくないって」
「…なによ、それ。
ただの自己中じゃない。
自分良ければ全てよし?
冗談じゃないわ、
こっちの気持ちは考えたの?」
こんなこと言いたいわけじゃない。
でも、口から出てくる。
「だからあんたはいつまで経っても、
アホできもいのよ」
もう繕えない。
嫌われてさようなら確定ね。
「アホ、きもい…
そんな言葉に耐えられるの、
おれ以外いないっつーの」
彼が優しく微笑んだ。
その瞬間、わたしは涙が溢れ出した。
大人気ない、恥ずかしい。
そんな感情ももちろんあった。
でも、そんなのも
忘れさせるくらいに泣いた。
それでも彼は、優しく寄り添った。
落ち着いた状態で、
彼はもう一度言う。
「おれと、付き合ってください」
認めざるを得ない。
わたしは、このアホが
どうしようもなく好きなのね。
「…いいわよ」
「…! これからよろしくなっ!」
「えぇ、よろしく。
…えっと、それで…失くしものだけは
返してほしいんだけど…」
「あぁ、悪い悪い。
さすがに返すよ」
よく見ると袋が少し開いている。
「ダメだとはわかっていたんだけどさ…
でも気になっちゃって、
中身見ちゃったんだけど…
綺麗な宝石だったな。
なんて言うんだ?」
「ホワイトサファイアっていう宝石よ。
やっぱり、誰から貰ったかは
思い出せないけど…
それでも、大切なもの」
「…あっは!
やっぱり2番目が持つ方が、
キラキラ輝いてるな!」
こんな恥ずかしいセリフを
サラッと言えるこのアホの精神を疑う。
「…何言ってるのよ。
アホがいないとこの輝きも
消えちゃいそうだわ」
「…へっ?」
いつもの仕返し。
やっぱり照れくさかったけれど、
口にして改めて思う。
やっぱりわたしは、
こんなアホでも好きなのね。
『ガラスの靴を届けてちょうだい』
を読んでいただき、
ありがとうございました。
前作の『純粋に生きたかった』
よりも内容があまりまとまってないなと
自分自身でも思います。
それでも個人で妄想を
膨らましていただければ幸いです。
本作品を少しだけ解説しようと思って
あとがき的なのを書いてます。
まず関係性は、
1番目→2番目が好き
2番目→1番目が好き(後半)
3番目→タネさんが好き
タネさん→4番目とゲーム内でフレンド
4番目→タネさんとゲーム内でフレンド
5番目→6番目に『おにぃちゃん』と
呼ばれている
6番目→5番目を『おにぃちゃん』呼び
ざっとこんな感じですかね。
自分で書いといて
よく分からなくなってます。
次に、題名です。
今回の題名である
『ガラスの靴を届けてちょうだい』
の『ガラスの靴』は
『ホワイトサファイア』。
つまり失くしものです。
シンデレラのお話では、
ガラスの靴があったから
王子様と結ばれることが出来た。
その結ばれるきっかけが『失くしもの』。
簡単に言えば、
『ホワイトサファイア』を
失くさなければ結ばれなかった。
そういうことです。
語彙力がなくなってきました。
ちなみに『ホワイトサファイア』は
とある日の誕生石です。
最後は長くなりそうで書けなかった
6番目と5番目の関係性ですね。
恋仲じゃないのに
恋人みたいなことしてんの?
と思った方もいると思います。
実際思いました。
めちゃくちゃストーリーを省くと、
6番目には『お兄ちゃん』が
いなかったから5番目を
自分の思う『おにぃちゃん』にした。
こんな感じです。
まぁ、本文に書かれている感情は
兄弟愛だと思ってください。
恋愛感情はないはずです。
長くなりましたが、
ここまで読んでいただき
ありがとうございました。
次が出るかどうかは
気分次第ですが、出なくても
責めないでください。
それでは。
コメント
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うわああ、、えああけえああああ、、、、!、ほんと1×2最高すぎるしもーーー!!!!!!!!!!だれるたさんの口角取ってったやつ ‼️‼️‼️‼️‼️えぐいほどにやけざむらいだったよ!!!!!!全部が解釈一致すぎるしまず一番目!!!!好きな子とのきっかけ作りに失くしものを持っとくとかかわいいかよ!!!!がちのがちで王子様すぎてだいすきだ ‼️‼️‼️‼️