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街の中を歩く人影も少ない。
「小夜。俺は風呂に入ってくるが、どうする?」
そういえば、店主さんは温泉と言っていた。
せっかくの機会、一日に二回お風呂に入るなんて贅沢だろうか。
そんなことを考えていると
「せっかくなんだから、もう一回入ったらどうだ?」
月城さんの言葉に押され、もう一度入ることにした。
「気持ち良いーー!」
今日は宿泊客も少ないらしく、入れ違いで貸し切りになった。
何も考えていなかったが、明日からどう生活すればいいのだろう。月城さんに会えたら、一旦家に帰る予定だった。
お風呂から出たら相談をしよう。
そういえば、小野寺さんは大丈夫だろうか。
考え事をして、またのぼせてしまうといけない。
「もう上がろう」
お風呂から出ると、月城さんが廊下で待っていてくれた。隊服ではない、浴衣姿。少し濡れている崩した髪の毛。なんて色っぽいのだろう。
「どうした?」
「いや、なんでもないです」
二人で部屋に戻る。
「ゆっくり入れたか?」
「はい。誰もいなくて、夜も貸し切り状態でした」
「そうか、良かった」
「小夜、今日は月が綺麗だ」
窓から空を見る。
三日月がとても綺麗だった。
「はい。綺麗ですね」
明日はどんな夜を過ごすのだろう、ふとそんなことを考えた。
そんな時、後ろから抱きしめられた。
「月城さん?」
抱きかかえられ、布団の上に優しく降ろされる。 が、横になった上には月城さんがいた。
「先ほどの続きをしよう?」
言葉が出なくて、頷く。
唇と唇が重なり合う。
最初は軽く、次第と求め合うように深く重なり合っていった。
「んん……」
舌と舌が絡み合う。
舌ってこんなに気持ちが良いの?
「はぁ……」
唇が離れる瞬間、吐息が漏れる。
何度も繰り返しながら、もっとしてほしいというように、私は月城さんの背中に手を回してしまった。
「ん……。はぁ……!」
心臓が飛び出てしまうんじゃないかと思うくらい、脈打つ。
私だけがこんなにドキドキして、月城さんは何も感じないの?
月城さんの髪の毛を触り、結んでいる紐を解く。
なぜ紐を解いたのかと言いたそうに、少し笑いながら
「どうした?」
彼は髪の毛をかきあげた。
「かっこ良い……」
思わず呟いてしまった。
月城さんにも聞こえていたようで
「そうか?小夜にそう言われると嬉しいな」
再び口づけをされる。
「んん!!」
頭が真っ白になる。
唇が離れたかと思ったら、耳に唇があたった。
「あ……。ダメです。くすぐったい」
今まで感じたことのない感触に身体が戸惑っている。首筋に口づけをされ、そのまま舐められる。
「ん!あぁ……。はぁ……。あぁっ」
ゾクゾクする。
気持ち良さに声が勝手に漏れてしまう。
「月城さ……ん。もう、ダメ……」
「……樹」
「えっ……?んん……」
唇と唇が合わさり、舌が絡まり合う。
唇が離れ、月城さんと目が合った。
「名で呼んでほしい」
「……樹くん」
私が名を呼ぶと、彼は私に口づけをしながら、浴衣の帯を緩め始めた。もう一度首筋を舐められる。
「樹くんっ……!気持ち良い」
思わず、彼を抱きしめてしまった。
「俺も……。理性の限界だ」
そう言って、はだけている浴衣の上から私の胸へ手が伸びた時、急に樹くんの動きが止まった。
「樹くん?」
彼の見ると、窓の外を見ながら不機嫌そうな顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「すまない。小夜、着物がはだけてしまっているから、布団を掛けていて」
何が起こったのか理解できずにいると
「樹、小夜ちゃん!こんばんは」
窓の外から聞き覚えのある声がした。
彼が窓へ向かうと、そこには小野寺さんの姿があった。ここは二階なのに、どうやって登ってきたんだろう。
私が唖然としていると
「はぁ。疲れたよ。聞いてよ、今日の話」
樹くんの下ろした髪と、私が不自然に布団で前を隠しているのを見て
「あ、もしかしてお邪魔だった?俺、タイミング悪い?」
何かを察知したようだった。
「ああ。最悪のタイミングだ」
彼の声音を聞いて、さらに事態を理解したらしい。
「ごめんごめん。でもさ、どうしても報告したいことがあって」
とりあえず、彼を部屋にいれることにした。
慌てて私も浴衣の崩れを直した。
小野寺さんからはまず謝られた。
「ごめんね、小夜ちゃん。小夜ちゃんを傷つけたいわけじゃなかったんだよ。ただ、俺は樹と仲良くなってほしいと思って、それで……」
俯く小野寺さん。
「謝らないでください。月城さんとはちゃんと話ができましたし、こうしていられるのも小野寺さんのおかげです」
彼の提案がなかったら、今日樹くんには会えていないし、関係も一時は壊れてしまうかと思ったが、それ以上にお互いの気持ちを確かめ合うことができた。
彼には感謝しないといけない。
「小野寺さんがいてくれたから、私も自分の気持ちがしっかりわかりました。ありがとうございます」
小野寺さんは、うぅと声を出した後
「小夜ちゃん、本当に良い子だよーー」
そう言われ、抱きしめられた。