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友人に抱きしめられているような感覚で、嫌ではなかったが、どうしていいのかわからず動けないでいると
「早く、離れろ」
小野寺さんの顔の前には、月城さんの切っ先があった。
「ちょっと仲良くしただけじゃん。そう焼きもち妬くなよ」
そう言った瞬間、ハラハラと目の前を落ちていくものがあった。
「おい樹、本当に俺の髪の毛切ることないだろ」
「お前が早く離れないからだ」
「将来、髪の毛なくなったら樹のせいだからね」
そんなやり取りをしているうちに、話は本題へと入った。
二人で話したいこともあるかと思い、私は退席を提案したが
「もう隠し事をしたくないから、一緒に聞いてほしい」
小野寺さんも私が話に同席するのは賛成だった。
「今日、小夜ちゃんを襲った奴等、やっぱり俺たちの本当の敵と関係している奴等だった。あいつら、知っていることを吐かないと打ち首にするって脅したら、知っていること全部話してくれて楽だったよ」
小野寺さんは淡々と話すが、小野寺さんの裏の顔を知っているため、どんな拷問をしたのだろうかと考えてしまう。
「わかったことがある。敵の名前は、司波 天馬《しば てんま》。あいつらは司波様って言ってたな。俺たちが思っていたような仲間は他にいなくて、基本的には一人で行動をしているらしい。俺を襲った奴等とか、今回みたいな奴等は、金目的であいつに協力をしたらしいんだ」
「あいつの素性を調べられるかと思って、名前でいろんな機関から情報を得ようと思ったんだけど、全然あいつに関する記録がないんだ。出生さえも不明。だから、名前は偽名である可能性が高い」
「あいつの居所は?」
「聞いてみたんだけど拠点みたいな家はなくて、各地を転々としているらしい。あいつらも詳しいことは知らなかった。ただ今は、小夜ちゃんを追っかけているらしいけどね」
「目的はやはり、自己を治すための薬を作ることか?」
うーんと、小野寺さんは考え込んだ。
「それがよくわからないんだよ。面白い情報として聞けたのは、あいつ、身体の調子が悪いらしいんだよね。日によるらしいんだけど。だから前、小夜ちゃんを初めて襲った時は、樹との手合わせを途中で止めたってわけ。なかなか自分の病気を治す薬が出来なくて、機嫌が悪いらしい。そして、あいつが過去に殺してきた人たちって、医者だったり薬学に詳しかったりする人たちばかりなんだ。何か情報を得ようとした結果なのかもしれない」
「小夜の話によると、あいつは血を求めているらしい。血液を使って何か実験をするつもりか?」
「そんなところなんだと思う。自分の病気の完治と不老不死についての研究なのかもしれない。俺らからすると、不老不死なんて夢のような話だけどな」
自分が病気だからと言って、人を殺していいという理由にはならない。
「まぁ俺たち、あいつのこと何かの怪物とか化け物みたいに思っていたけど、言ってみれば普通の人間なわけ。ただ……」
「相当に強いらしい。どこからそんな剣技や体術を覚えてきたのかわからないんだけど。あいつらの話によると、百人で切りかかっても無理だって怯えてたぞ」
「かと言って何も動かなければ、あいつの研究は進んでいくばかり。もしも病気が完治した身体になってしまえば、何をするかわからないな」
「そう。それでもう一つ、有益な情報があって……」
小野寺さんからの話は続いた。
「それは本当なのか?」
「本当じゃなかったら、四肢全てを切り落としながら殺すって脅したから、それは本当の情報だと思うよ」
今まで私は黙っていたが
「話を聞かせてもらって、あいつの弱点とする薬を作ることはできると思います」
「えっ!小夜ちゃん本当?」
「はい」
司波はおそらく私の血液を研究して、自分の病気の完治、毒が効かない身体、拒絶反応がない身体を創ろうとしている。
「身体に直接打ち込めれば、一番効果があると思います」
「おそらく司波の行動を考えると、近日中に何か仕掛けてくる可能性が非常に高い。それまでに小夜はその薬を作ってくれ」
「はい」
人を助けるための薬なら作ったことがあるが、人を殺めるための薬は作ったことがない。
でも私がやらなきゃもっとたくさんの命が奪われてしまう。
そんなことはさせない、私はできる限りのことをするだけ。
深夜に及ぶ作戦会議は終わった。
小野寺さんは本部に報告し、情報を集めてくると言っていた。
私は明日、月城さんと自分の家に帰ることになった。
「自分の家の方が、作業が捗るだろう?」
そう配慮してくれた結果だった。
「遅くなってしまったな。もう休もうか」
その日はいろんなことがあった。けれど、月城さんが近くにいてくれる。それだけで十分だった。