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蒼の同級生が店に訪れてから、約一週間後の土曜日。
遥は蘭子を誘ってランチに来ていた。
「今日は、子どもちゃんたち大丈夫なの?」
休日の蘭子はBARの時の雰囲気とは違い、男性が着るような服装をしている。ワイシャツ、ジャケット、ジーンズ。化粧はしていない。
一日で伸びたであろうヒゲは、そのままになっている。
「うん。旦那にお願いしてきた。たまには良いのよ。それにしても蘭子ママってこうやって見ると、普通のガタイの良いオジサンね?」
遥はアハハと笑う。
「まぁ、酷いわね。本当は女性になりたいわよ。でもサイズが合う洋服がないし。今日は遥と一緒だから、遥まで白い目で見られちゃいけないと思って普通のカッコをしてきたわ」
「別に気にしなくて良いのに……」
「それで?相談って?」
アイスコーヒーを飲みながら遥に問う。
「蘭子ママも感じているでしょ?あの二人のこと」
「えぇ。感じているわ。ひしひしとね……」
二人はふぅと同時に溜め息をつく。
そして――。
「どうして付き合わないの!?」
二人の声が重なる。
外のオープンテラスに二人はいるのだが、道行く人、何人かに振り向かれた。
「見ててイライラするのよ!どう見たって両想いなんだから、付き合っちゃえば良いのに。あのバカ弟。早く告白しなさいよ。本当に情けないわ」
ズズズ―とアイスティーを飲み干す遥。
「そうね。あんなに好き好き同士なのに、どうして告白しないのかしら?しかも一緒に住んでいるのに……。お互いに遠慮しているのかしらねぇ……」
「蒼のことだから、フラれるのが怖いんじゃない?桜は、無自覚で好きなのよ」
「桜ちゃん、自分では感じてないかもしれないけど、あれはどう見ても蒼に恋しちゃってるわね。バレバレなのは蒼だけど。この間も、椿だったのにお店で蒼に戻って、お客さん、殴りそうになっちゃって怖かったわぁ」
それは私も聞いた、と遥。
「《《武道の師匠である蘭子さん》》でももう止められないんでしょ?」
「そうね、難しいわね。あの子《蒼》、すごーく才能あったのに……。今でも身に付いていると思うわよ。空手、柔道、合気道、テコンドー……。あのまま続けていたら、全国でも有名な選手になれたのにね」
「なのに、虐めなんか。ぶっ飛ばしちゃえば良かったのに!!」
「それはダメよ。暴力は。蒼の方が悪くなっちゃう。それに私は大切な人を守る術として武道を教えていたのよ?だから、やられても耐えていたみたいだし……」
「まぁ、蘭子ママに救われて良かった。武道を教えてもらっていた時は、蘭子ママがまさかオネエだとは思わなかったけど……」
「あの時は世の中狭かったのよ。でも今は幸せ。自分の性はオープンになったし、お店もなんとか営業できているし……。まぁ、そんな話はどうだって良いのよ。蒼は過去のトラウマがあるし、桜ちゃんだって元彼と別れたばかりだし……。ここは私たちが人肌脱いで、恋のキューピットになるしかないわね?」
蘭子は遥にウインクをした。
遥は眉間にシワが寄った。
「そうね。こんな感じじゃ、桜が自立して蒼の家から出て行っちゃうし、何年経っても進まないわ。ここは、お姉ちゃんが頑張るしかない!」
「お節介かもしれないけど、あの二人にはすこーしだけ背中を押してあげましょう」
「んで、どうするの?蘭子ママ?」
「うふふふふ。じゃあ、作戦を立てましょうか……?」
蒼と桜の知らないところで、遥と蘭子の秘密の計画は進んで行ったのであった。