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「はぁぁぁぁぁぁ」
重く、そして長い溜め息が零れる。
蒼さんの寝室から自分の部屋へ戻り、布団の上に横になる。
何も考えられず、天井をずっと見つめていた。
蒼さんにベッドの上で抱きしめてもらってそれで――。
それはほんの三十分前のこと――。
ーーーーーーー……
「桜。ごめん。やっぱり気が変わった。さっきの続き、我慢するって言ったけど……。そんな桜見てたら我慢できなくなった」
「へっ……?」
何をされるんだろうと目をパチパチしていたら、蒼さんが私の隣に横になり、ベッドの上で抱きしめられる。
「……!?蒼さん?」
一旦落ち着きかけた心臓の音もまたうるさくなった。
「続きっつーか。情けないかもしれないけど、エレベーターの裏でもっとハグしてたかった」
あっ、そうだったんだ。
「私で良かったらいつでも……。蒼さんなら大歓迎です」
私も蒼さんにギュッとされると落ち着くし……。
いや、でもドキドキする時もあるし。
実際、落ち着く?ドキドキする?どっちだろう。
んんんん――。やっぱり両方なんだよな。
「他の男からハグして?って言われてもするの?」
ふぇぇぇぇ!そんなことするわけがない。蒼さんだけ。
蒼さん……だけにしかしたいと思わない。
「蒼さんだけですよ!こんなことできるの……。誰にでもやるってわけじゃないです」
そう。蒼さんだけだ。
自分から守りたいって想ったり、頭撫でたいなって想ったり、抱きしめてもらって落ち着いたり、ドキドキしたり。こんな感情を抱いたの蒼さんだけ。
確かに彼氏はいたけれど、こんなたくさんの感情は抱かなかった。
「ごめん。言い方悪かった」
蒼さんがギュッとしてくれ、頭を撫でてくれる。
ドキドキするけど、幸せ。
あっ……。えっ?幸せだと想っちゃった。
ずっと続けば良い……って。私、蒼さんのこと……。好きになっちゃったの?
恐る恐る顔を上げ、蒼さんを見てみる。
それに気付いた蒼さんは
「どうした?嫌か?」
不安そうな表情をした。
「嫌じゃないです……。落ち着きます。でも、ドキドキします」
蒼さんは優しいし、かっこ良い。
こんな私が好きになっちゃいけない相手なんだ。
「俺も桜のこと抱きしめていると落ち着くし、ドキドキするし、変な感覚。離れたくなくなるし……」
えっ?離れたくない……。
それは、やっぱり私が犬みたいだから?
次郎ちゃんを抱っこしているような気持ちなのかな。
ちょっと前まではそれで良かったのに。
今はなんだかチクッと心が痛む。
それは、一人の女の子として見てもらいたくなっちゃったからだ。
出勤前、ベッドの上で考え事をしていた。
あの日、桜が一人でSTARに来てくれた日から俺の中で確信したことがある。
俺は――。
俺は、桜のことが好きだ。もちろん恋愛感情があるという意味。
最初は「触れる」ことができる女性として驚いた。冗談で飼っていた犬に似ていると言ってしまったけど、可愛らしくて懐いてくれて、俺が男なのに偏見なく女性《椿》として見てくれた。嘘偽りのない目で綺麗だと言ってくれた。
姉ちゃんから桜についての話はよく聞いていたし、初めて会った時から想像以上に良い子だなって思ったのは確かだったけれど……。
一緒に過ごす時間が増えて、桜のことを知っていくうちに惹かれていった。
蘭子さんから貰った映画のチケットで、自分からデートに誘った時からもうすでに恋心?のようなものはあったんだと思う。
昔のトラウマでそれを無意識のうちに拒否していた。
この間、同級生が来店して、桜に暴言を吐かれて――。
自分でも制御できなくなるほどの怒りを覚えた。
大切な人を傷付けられるとあんなにも変わるんだな。
そしてその後、エレベーターの裏で彼女を抱きしめた時、すごく落ち着いた。
あぁ、この子が居てくれるだけで俺は良いんだって自覚した。
帰ってきて、ベッドで桜の上に乗って困らせるようなことしちゃったけど、それでも彼女は俺を受け止めてくれた。
風宮 むぅまろ(̨̡ ¨̯
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芙月みひろ
「他の男にもするの?」なんて最低な質問までした。
彼女は怒ることなく答えてくれた。
これって嫉妬ってやつだよな。
「嫉妬」を抱くなんて、今までの俺じゃ考えられない。
姉ちゃんに話したらドン引きされるんだろうなと思い、苦笑する。
でも今の関係を壊したくない。
俺がもし自分の気持ちを伝えたら、桜はどんな反応をするのだろう?
驚いた顔は想像できるけど……。
迷惑をかけるからって無理に出て行かれても困るし……。
この関係をしばらく続けるのが安定なんだろうか。
桜も彼氏と別れたばかりだし。
「はぁ……」
大きな溜め息をしながら、出勤するための準備を始めた。
BAR「STAR」に出勤をすると、蘭子さんに呼び出された。
しかも他のキャストに会話を聞かれないような店の外。
俺、なんか悪いことしたか?
この前の客《同級生》の対応は悪かったと思っているけど……。
「この前のことかしら?あの時は本当にごめんなさい」
蘭子さんが話し出す前にこちらから謝る。
さすが、元師匠。貫禄と威圧感が凄い。
「あぁ。この前のことはね、しょうがないわよ。でも今後は気を付けてね?」
しょうがないって言っているくらいだから、違う話があるのか。
「はい。すみませんでした」
軽く頭を下げる。
「いやだわ、こんな暗い話をしたくて呼び出したわけじゃないの!」
「えっ?」
てっきり説教をされるかと思ったんだけどな。
「あのね、今度の日曜日、ちょっと付き合ってほしい場所があるのよ?一人では恥ずかしくて行き辛くて……」
どこだろう。まぁ、最近お世話になりっぱなしだから良いか。
その日、特に予定はないし。
「いいわよ。それで?どこに行くの?」
パァァと表情が明るくなった蘭子さんは
「またその日になったら電話するわ。それまで楽しみにしていてね?」
満面の笑みを浮かべている。
その日になったら?
なぜそんなことをするんだろう。まぁ、いいか。
「わかった」
疑うことなく返事をした。