期末試験が終わる頃には梅雨が開け、いよいよ夏休みが近くなってきた。
季節は夏本番、連日30度を超えていた。
篠井先生: 「夏休み明けに班ごとの研究発表をします。 各班のテーマはこの中から選んで決めて。」
K(僕): 「どれにする?」
ハル: 「どれもぱっとしないけど。」
K(僕): 「どれがいいかな?」
女子にも聞いてみた。
さっちゃん: 「うーん…」
里見さん: 「何でもいいよね、さっちゃん。」
さっちゃん: 「うん。 古墳も面白そうだけどね。 でも、何でもいいよ。」
K(僕): 「(古墳なら何か資料があると思うから、図書館とかで調べてもいいかも。)」
他の班員は特に意見がないようだった。
K(僕): 「じゃあ、古墳にしようか? 他に意見がないようなら、古墳でいくけど。」
篠井先生: 「5班は古墳調査が希望ね。 他の班の希望ないので、いいわよ。」
他の課題と違って、この課題だけは調べ物の要素が強く、あっさり僕たちの班に決まった。
K(僕): 「さて、古墳に決まったけど、そもそもどこに古墳があるんだろう。 ハル知ってる?」
ハル: 「ホント、どこにあるんだろうね。」
里見さん: 「放課後、図書館で調べたらどうかな?」
さっちゃん: 「そうだね。」
放課後に皆で図書館に移動した。
ジメジメした梅雨空であったけど、僕の心は晴れていた。
二人っきりでなくても同じ空間にいること自体、幸せだった。
K(僕): 「調べてみると、県内で一番大きい古墳は笛川の近くにあるようだけど。」
ハル: 「笛川? 遠くない? どうやって行く?」
K(僕): 「ここだとサイクリングロードを使えば行けそうだけど。 博物館のそばみたい。」
さっちゃん: 「よく分からないけど、やっぱり遠そうだね。」
K(僕): 「最悪困ったら博物館になんかあるんじゃない?」
里見さん: 「ほかはどうするの?」
ほかの班員1: 「北小のところに小さな古墳があった気がするけど。」
K(僕): 「北小なら町内の古墳でいいかもね。」
さっちゃん: 「隣町にもあるみたいだよ。」
里見さん: 「そこも、近くていいかも…。」
K(僕): 「その3つにしようか? じゃあ、いつにする?」
ハル: 「8月下旬には完成しなければならないから、8月上旬?」
さっちゃん: 「写真撮るから、現像に時間かかるよ。 もう少し早いほうがいいかも。」
K(僕): 「雨降ったり、台風でいけないことも考えて、7月中にしようか? 30日、31日でどう?」
里見さん: 「じゃあ、夏休み入ってすぐ?」
博: 「部活でだめかも。」
岸本: 「俺も。」
ほかの班員1: 「ごめん、私も。」
ほかの班員2: 「私も。」
運動部は連日練習があり、参加は難しいようだった。
K(僕): 「他の人は?」
ハル: 「俺は大丈夫。」
さっちゃん: 「里見さんは?」
里見さん: 「私も大丈夫だよ。」
さっちゃん: 「男子二人だとちょっとって思ったけど、里見さんかいるなら私も大丈夫。」
天宮さんは吹奏楽部で忙しそうだったが、意外にも参加するようだった。
ハルも運動部であったが、僕への忖度なのか、参加であった。
K(僕): 「後はお盆過ぎにまとめることにしようか?」
ハル: 「どこでまとめる? Kの家でいいの?」
K(僕): 「いいよ。」
ハル: 「Kの家に行くの、久しぶりだ。」
さっちゃん: 「私、どこに家があるか分からないよ。」
K(僕): (天宮さん、家に来るんだ。)
里見さん: 「私の家はKと同じ地区だから、なんとなく分かるから、さっちゃん、一緒に行こう。
後で集合場所、決めようか。」
さっちゃん: 「うん。」
ハル: 「その頃って梅雨明けているのかな?」
K(僕): 「ほんとだね。 雨降ったら面倒くさいよね。 古墳調査の三人はまた夏休みにね。 残りの4人は二学期に発表の方をよろしくね。 じゃあ、解散しようか。」
図書館からみんなで出て、各々帰宅した。
K(僕): 「うちの班は古墳調査が当たっちゃったけど。」
現在の俺: 「万寿森古墳と銚子塚古墳だろ?」
K(僕): 「そう。 やっぱり未来の僕なのか…」
現在の俺: 「そろそろ分かってもらえた? それより、大事なイベントがあるから。 2日目の銚子塚古墳の調査で行きのサイクリングロードで上の道と下の道があったら、下の道に行くように。 そうすると行き止まりになる。」
K(僕): 「行き止まり?」
現在の俺: 「行き止まりでも、階段で上の道に戻れるから、自転車をひいて登るんだけど、天宮さんは登れないから必ずお前が代わりにひいて上がってくるんだ。 天宮さんは「いい」って何度も断ってくるけど、そんなのお構いなしにしてあげること。」
K(僕): 「そんなことできるかな・・・」
現在の俺: 「絶対にやって。」
K(僕): 「大丈夫かな…」
現在の俺: 「やらないと歴史が変わっちゃうぞ。」
K(僕): 「頑張ってみる。 でも良かった、同じ班で。 夏休み一ヶ月以上、会えないかと思った…」
幸い、終業式直前に梅雨は明け、夏休みとともに晴天となった。
班研究初日は日差しが強くて暑く、セミがあちこちで鳴いていた。
K(僕): 「今日は天宮さんと会える…」
午後から町内の古墳を見に行くことになっていた。
僕はハルの家に行き、一緒に自転車で北小に向かった。
K(僕): 「北小の南側に古墳なんてあったっけ?」
ハル: 「聞いたことないけど、行けば分かるんだろ?」
天宮さんたちより先に僕たちは北小南側の小さな地面の盛り上りのようなところに来た。
そこには町役場の看板があり、軽く古墳の説明が書いてあった。
とりあえず二人で写真を撮ったり、説明文を写した。
ハル: 「これが古墳?」
K(僕): 「なんか古墳というより、洞穴みたいだよね。」
里見さん: 「お待たせ。」
天宮さんと里見さんは二人でやってきた。
天宮さんはイメージと違って赤い大きめの自転車に乗ってきた。
K(僕): (あ、天宮さんだ。)
現在の俺: (あの赤い自転車、懐かしいな。 明日この自転車を引いてあげるんだ。 さすがに40年近く経つともうないよね。)
天宮さん二人は遠巻きに古墳を見て、僕たち二人のところに近づいて来た。
里見さん: 「何したらいい?」
K(僕): 「だいたい写真も撮ったし、説明文も書き写したから中に入ってみたら?」
天宮さんはおとなしく、里見さんの後ろにいたけど、ゆっくり歩いて僕のそばを通って、ちっちゃな洞穴に里見さんと入った。
K(僕): (一週間ぶりだ。 やっぱりかわいいなぁ)
女子と入れ替わりに僕たち男子は外に出て、すれ違いさまに天宮さんを目で追った。
さすがに僕が見ているとは思っていないので、天宮さんはそのまま古墳の奥へいった。
古墳の中は小さいながらも日陰であったが、外に出ると強い日差しが差していた。
ハル: 「今日は特に暑いなあ。」
K(僕): 「明日は遠いし、暑くなりそうだし、午前中の方がいいね。」
天宮さんは洞穴のなかでじっと観察していた。
現在の俺: (あの修学旅行中も寺院や仏像をよく観察していたっけ?)
K(僕): 「随分興味深そうに見ていたけど…」
さっちゃん: 「こんな小さな古墳があるんだっと思って。」
K(僕): (まじめな子なんだ・・)
ハル: 「暑いし、あまり見るところもないからさっさと次のところ行こうよ。」
続けて四人で自転車に乗って隣町の万寿森古墳に向かった。
普段ほとんど通らない、小学校の遠足の時にたまに通るくらいの細い道を進み、橋を渡って隣町に入った。
当時はGoogle mapもスマホもなく、自転車だからカーナビなんてないし、本屋で隣町の地図を購入して古墳の詳しい場所を調べたり、行き方を調べていた。
現在の俺: 「今思えば、昔は調べるにも大変だったんだ。」
隣町の山宮に入ると車通りとなり、僕たち男子が先頭、天宮さん二人はその後をついてきた。
当時の中学生だと変に異性を意識し、普通に話すこともなかなかできず、天宮さんは里見さんと話しながら自転車をこいでいき、少しずつ僕たちと離れていった。
K(僕): 「二人が離れぎみだから、ちょっとここら辺で待っていようか。」
車道から外れて山道へ向かう小道で天宮さんと里見さんを待った。
ゆっくり二人が自転車をこぎながらやってきた。
ハル: 「遅くない?」
里見さん: 「そう? 男子が早いんだよ、ねぇ、さっちゃん。」
さっちゃん: 「うん。」
K(僕): 「じゃあ、もっとゆっくり行くね。」
現在の俺: (天宮さんに言われるとそう言わざるを得ないよね。)
山道にはいると、ひっそりしていて、先に進むのが不安になるような道だった。
K(僕): 「ここの道で良かったと思うけど。」
ハル: 「こんなところにあるの?」
さらに道は舗装されなくなり、草や木が生い茂るようになり、自転車で進むのが難しそうなので、自転車を置いて歩いて進んだ。
辺りは林のなかで薄暗くなっていた。
さっちゃん: 「あまりこの先、行きたくないかも。」
里見さん: 「本当にやだ…」
K(僕): 「そうだよね。」
ハル: 「しかも蚊が多くない?」
しばらくすると先に案内板が見えてきた。
僕は早足で案内板を見に行くと、万寿森古墳って書いてあった。
ハル: 「それにしてもひどいところにあるよね。 結構蚊に刺された。」
女の子二人もなんとか草木の繁る古墳にやってきた。
さっちゃん: 「いっぱい虫がいてやだぁ。」
里見さん: 「これ以上は進めないよ。」
K(僕): 「ハル、僕たち二人で早く写真撮って、早めに脱出よう。」
万寿森古墳はさすがに誰も興味を示さず、短時間で自転車に戻った。
K(僕): 「では写真も撮ったし、今日はこれで終わりにして帰ろうか?」
帰りも僕とハルが先頭で、天宮さんと里見さんが後について自転車をこいで帰宅の途についた。
少し太陽も傾き始めていた。
ふと自動販売機が先に見えた。
夕方前といえども、さすがに夏であり、この日の最高気温は35度を超えていた。
現在の俺: (この向こうに自動販売機があるから、天宮さんにいいとこ見せておいたほうがいいんじゃない?
話すきっかけにもなるしね。)
K(僕): 「天宮さん一人に奢るの、できないよ。」
現在の俺: (だからみんなまとめて奢っちゃうのよ。)
K(僕): 「結構な出費じゃない?」
当時は250ccの缶ジュースが1本100円だった。
現在の俺: 「(天宮さんと話をするためには仕方ないでしょ。)」
ハル: 「最近、独り言多くないか?」
K(僕): 「喉乾かない?」
ハル: 「いいね。 あそこに自動販売機があるから、ジュースでも飲もうか?」
K(僕): 「あの二人も飲むよね。 待ってようか?」
しばらくして二人がゆっくり自転車をこいでやってきた。
里見さん: 「ここで何しているの?」
ハル: 「きたきた。 俺、炭酸にしようかな?」
K(僕): 「奢ろうか?」
ハル: 「いいの? 悪いねえ。」
さっちゃん: 「いいなぁ…」
K(僕): 「二人も飲む? 奢るよ。」
さっちゃん: 「いいの?」
里見さん: 「やったぁ。」
僕は100円玉を2枚、自販機に入れた。
さっちゃん: 「ありがとう。」
里見さん: 「さっちゃん、何飲む?」
二人で相談しながらジュースを買った。
現在の俺: 「なあ、いいきっかけだろ。)」
K(僕): 「(これで400円は高くない?)」
現在の俺: 「(せこいこと言わないの。)」
K(僕): 「まあ、いいか。 天宮さんと一緒にいられたから。」
こうして一日目は終わった。
2日目は県内最大の前方後円墳への調査の日だ。
実は1年冬のスキー教室から、「僕」は過敏性腸症候群で、毎日の学校でも、何かイベントがある休日も、ほぼ毎日腹痛と下痢に襲われていた。
K(僕): 「お腹が痛い・・・」
現在の俺: 「ほら、正露丸だ。」
K(僕): 「よく知っているね。」
現在の俺: 「このころのほうが症状きつかったんだ。」
大切な日ほど症状は強かった。
しかし正露丸飲むと、しばらくするとよくなっていた。
正露丸が効くのか、暗示にかかるのかわからなかったが、この日もしばらくして腹痛はなくなった。
K(僕): 「行ってきます。」
母: 「お弁当持った?」
妹: 「お兄ちゃん、うれしそうだね。 なんか変だよ。」
母: 「ウキウキしているよね。 さっちゃんもそう思う?」
現在の俺: 「妹もさっちゃんと呼ばれているからややこしいんだよね。」
母: 「あれ? まだお兄ちゃんいるの?」
妹: 「今行ったばかりじゃん。 いるわけないでしょ。」
母: 「お兄ちゃんの声、聞こえなかった?」
現在の俺: 「おっと、危ない。 見つかるところだった。」
2日目も晴れで、まだ午前中は今のように猛暑ではなかったが、汗ばむ気候だった。
10時、サイクリングロード起点に4人で集まることになっていた。
天宮さんはその日も赤い自転車でやってきた。
現在の俺: (きたきた。 今日の主役の赤い自転車だ。)
K(僕): 「今日も一日がんばろうか?」
男女2列で自転車をこいで、サイクリングロードを南下した。
サイクリングロードの4、5mほど上の、川の両岸の土手には車道があって、車は平日の午前中ということもあって行き交っていた。
サイクリングロードは川沿いにあり、散歩する人、ジョギングする人、テニスする人、ゲートボールする人などさまざまな人がいた。
5つほど車道の橋をくぐり、30分程度漕いでいくと途中、二股に分かれる登る土手の道と、川沿いの道があった。
K(僕): 「ここのことかな? 緊張するなあ・・・。」
ハル: 「なんかしゃべったか?」
K(僕): 「別に・・」
ハル: 「どっちに行くんだ?」
現在の俺: (ここは下で頼むぞ。
K(僕): 「上の道は登るの大変だから、下の道にかけてみる。」
ハル: 「じゃあ、下に行くか。」
暫くして下の川沿いの道は行き止まりとなり、階段で上の土手のサイクリングロードに接続していた。
K(僕): 「この階段ね。」
ハル: 「やっぱり上の道のほうがよかったんじゃない? 引き返して戻る?」
すぐに天宮さんたちも行き止まりの場所までたどり着いた。
K(僕): 「戻るにしても結構来たんじゃない?」
天宮さんと里見さんは僕の方を見て、どうするのか、待っていた。
K(僕): 「自転車を引いて上に行こうか?」
最初に僕が階段の脇のコンクリートの坂道に自転車をのせて土手の道まで押して上がってみせた。
下を見ると、ハルも続いて自転車を押して上がった。
続けて里見さんもそれに追従して登ってきた。
最後に天宮さんが、今から自転車を押して登ろうとしていた。
しかし、数歩くらい押しては、また戻って下に降りてしまっていた。
さっちゃん: 「あれれ?」
天宮さんは照れながら何回も自転車を押して上がろうとしたけど、数歩くらい押しては下の戻されていった。
現在の俺: 「ほら、天宮さんを…」
と言いかけた同時に、「僕」は自分の自転車を置いて階段を下りて行った。
現在の俺: (手伝ったら他の人に何か言われるかも、とか考えずに行ったんだ。)
あの頃を思い出していた。
K(僕): (押して登れないんだな。 でもそんなところも可愛いんだけど。)
ハル: 「急に階段りて、どうした?」
上り終えようとしたハルは下りていく僕を振り返りながら見下ろした。
天宮さんはまだ悪戦苦闘していた。
K(僕): 「僕がやるよ。」
さっちゃん: 「え?」
K(僕): 「貸して。」
さっちゃん: 「いいよ、大丈夫だから。」
K(僕): 「僕がするよ。」
さっちゃん: 「本当に大丈夫。 自分で・・・」
K(僕): 「いいから。」
ほぼ「強引」に天宮さんの自転車のハンドルを握った。
それを見て天宮さんはハンドルから手を離した。
さっちゃん: 「・・・・」
そのまま自転車を引いて、階段を上った。
天宮さんは気まずそうにしながらも、僕の数歩下をゆっくり上がった。
僕は天宮さんが登りきったことを確認して自転車を渡した。
さっちゃん: 「ありがとう。」
天宮さんは申し訳無さそうにうつむき加減の上目遣いのいつもの可愛い素振り小声で言った。
K(僕): (ありがとうって言われた・・・。 かわいかったなあ・・・)
そのまままた四人でサイクリングロードを南下していった。
ハル: 「随分やさしいなぁ。」
K(僕): 「もともと僕の判断ミスだったし、遅くなると弁当食べる時間がなくなるからね。」
それ以上、ハルからも里見さんからも追及されなかった。
線路や国道をくぐると、南高が見えてきた。
さらに大通り沿いの土手のサイクリングロードを南下した。
サイクリングロード両脇には丈の長い緑と黄色が映えるひまわりが列をなしており、天宮さんも一緒のためか、歓迎されているような感じがした。
太陽も空高く燦燦と輝いていたおり、すべてが眩しく感じられた。
自転車から感じる風はさわやかだった。
時折、女子二人がちゃんと来ているか、振り向いて確認しながら、さらに南へ向かった。
サイクリングロード終点を降りて、国道脇の歩道に進んだ。
大きな笛川にかかる橋を自転車でこぎながら渡り、12時前に山の麓にある古墳にたどり着いた。
さっちゃん: 「やっと着いた…」
里見さん: 「遠かったね。」
K(僕): 「それにしても大きな古墳だ…」
ハル: 「今までの古墳と違ってほんとの古墳だよ。」
K(僕): 「教科書にでてくる前方後円墳だ。」
昨日の古墳とは比べようもないほどの大きな古墳であった。
ほぼ休憩なしでここまで来たために、お昼近くということもあって、
K(僕): 「先に弁当食べてからにしようか・・・」
この当時の男子女子でもあり、一緒に食べず、「僕」はハルと、天宮さんは里見さんとそれぞれ備え付けのベンチで昼食を食べた。
現在の俺: (流石に天宮さんと食べるわけにもいかなかったけど、男女別々に食べず、四人一緒に食べてもよかったけど、過剰に意識しちゃうよね。)
前方後円墳は小高い丘にあったので、見下ろすといつもは中学校から間近に見える山宮の山は遠く、北の方に小さく見えた。
その手前には盆地の街並みが広がっていたが、夏の暑い日であったので少しぼやけて見えていた。
K(僕): 「ずいぶん遠くに来たね。」
ハル: 「またこれを引き返すとなると、大変だ。」
5m先にいる女子二人を見ると、楽しそうに弁当を食べながら笑っていた。
さっちゃん: 「やだぁ…」
遠くでかすかに天宮さんの声が聞こえたが、内容までは分からなかった。
K(僕): (あの二人は仲がいいんだ。 きっと気が合うんだろう。)
ハル: 「宇宙戦艦ヤマト完結編良かったよね。」
二人の共通の話題、宇宙戦艦ヤマトについてハルは語ってきた。
ハル: 「でも、俺は「永遠に」が好きなんだよね。 聞いている?」
K(僕): 「あぁ…、うん。」
僕は天宮さんのほうをちらちら見ながら答えた。
ハル: 「Kは?」
K(僕): 「僕は「さらば」かな? どっちかというと「II」のほうがより良いんだけどね。」
現在の俺: (「永遠に」は森雪と恋人同士の古代が地球で離れ離れになってしまうのがちょっと嫌だった。
「さらば」は森雪が最初から最後まで一緒にいたいっていう設定が好きだったんだよね。)
ハル: 「俺は「永遠に」のビデオがあるけど、Kは「さらば」があるの?」
当時はDVDやブルーレイなんていうものはなく、ビデオカセットだった。
K(僕): 「あるよ。 今度見る?」
ハル: 「おっ、見たいなぁ。」
そんなことを話しながら、弁当を食べた。
ハル: 「相変わらず早食いだなぁ。」
昼休みは食事時間と休憩が一緒だったから、早く食べると早く自由時間があったのでだんだんと早く食べるようになっていった。
K(僕): 「ハルと変わらないでしょ。」
ハルも食べ終わり、女子二人を見ると、まだ楽しそうに食べていた。
今思えば決してそんなことはないんだけど、その当時はこんな学生生活や友情関係がずっと続くと思っていた。
というより、大人になる未来を想像できていなかっただけだった。
現在の俺: (大人になると、あの時の今までの思い出は通過駅のような圧縮された一場面になってしまうんだよね。)
山の麓にある古墳周辺はセミの鳴き声が響き渡っていた。
天宮さんたちを見ると片付けを始めていた。
K(僕): 「そろそろ、やる?」
ハル: 「そうだな。」
僕は座っていたベンチから立ち上がり、天宮さんたちのいるところまでゆっくり歩いた。
二人もそれに気づいて、片付けを急いだ。
ハルも僕の後を追ってきた。
K(僕): 「もうやろうか?」
さっちゃん: 「うん。」
男女で手分けして、いつも通り、説明文を写したり、写真を撮ったりした。
里見さん: 「大きいから大変だね。」
全長170mある前方後円墳であった。
ハル: 「どのくらいやればいいんだろうね。」
K(僕): 「こんなもんでいいんじゃない?」
中学1年のときに古墳時代は学んだとしても、せいぜい前方後円墳の仁徳天皇陵と埴輪くらいで、いくら中学二年生といってもほとんど情報量は変わっていなかったから、調べたといっても説明丸写ししかできなかった。
現在の俺: (だからどの程度やったらいいかなんて誰にも分からなかったなぁ。)
K(僕): 「考古博物館にもよって少し情報集める?」
すぐそばに博物館があった。
ハル: 「まあ、時間があるからよってく?」
里見さん: 「男子が寄っていくなら…」
さっちゃん: 「そうね。」
寄ってみたものの難しくて、やっぱり丸写しだった。
K(僕): 「もう2時半過ぎだからもどろうか? 1時間くらいかかるもんね。」
現在の俺: (結局今になっては何も覚えていないけどね。)
さっき来たサイクリングロードを北上して来た道を戻った。
行きと同様、僕たち男子二人が先頭で、自転車を漕いでいた。
午後3時近くでの舗装されたサイクリングロードは熱気を帯びており、前方の高架橋がかすんで見えた。
その高架橋をくぐると、さっきの階段を見えてきた。
ハル: 「よく天宮に、してあげたね。」
K(僕): 「無理そうだったからね。」
ハル: 「そんなことするタイプだっけ?」
K(僕): 「下の道を選んだのは僕だからね。 まあ、仕方ないよ。」
その直後、女子二人がその場所を通過した。
さっちゃん: 「よく里見ちゃんは登れたね。」
里見さん: 「なんとかできたけど。 でもさっちゃんとKがつきあっているのかと思った。」
さっちゃん: 「そんなわけないじゃん。 ほんとにできなかったんだから。 みんなが自転車を引いて上がっていったとき、どうしようかと思ったんだから。 でも、班長が手伝ってくれるとは思わなかったけどね。」
里見さん: 「Kがね、意外だよね。」
さっちゃん: 「私、班長と同じクラスになったことないから、どういう人があまりよく分からないけど。」
里見さん: 「だって、Kは体育会系じゃないし、そんな力あるように見えないのにね。」
さっちゃん: 「意外なのはそっち?」
そのまま帰路についた。
夏休みも終わりに近づき、リポートをまとめることとなり、夏休みも終わろうとしていた午後に僕の家に集まることになった。
母: 「今日、お兄ちゃんの友達が来るんだって。」
妹: 「お兄ちゃん、何をそんなにそわそわしているの?」
K(僕): 「別にいつも通りだけど。」
母: 「女の子も来るから仕方ないよね。」
K(僕): 「班のメンバーだけどね。」
妹: 「誰が来るの?」
K(僕): 「言っても分からないでしょ。」
母: 「ハルは知っているけど・・。 後は?」
K(僕): 「女子二人だけど。」
妹: 「女の子が来るなんて珍しいね。」
K(僕): 「だから班員だって。」
妹: 「そんなにむきにならなくてもね。」
その時、家の来客用チャイムがなった。
外を見ると、三人が自転車を置いて、玄関の前にいた。
天宮さんのあの赤い自転車もあった。
母: 「いらっしゃい。 ハル、元気だった?」
俺の母は昔から俺の友達にも、俺が呼ぶ呼称で呼ぶ癖があった。
ハル: 「はい。おばさん。 お邪魔します。」
家に来たことがあるハルに続いて、里見さん、天宮さんが玄関から入ってきた。
里見さん: 「おじゃまします。」
さっちゃん: 「おじゃまします。」
K(僕): 「どうぞ。」
母: 「お菓子とか、ジュース用意したからね。」
居間に4人で入った。
長テーブルに模造紙を広げ、現像した写真を広げた。
K(僕): 「じゃあ、早速始めようか?」
模造紙に現像した写真を貼ったり、写してきた説明文をマジックで書いていった。
台所に戻った母は妹と一緒にいた。
妹: 「どっちがお兄ちゃんの好みかな?」
母: 「どっちかというと、お兄ちゃんの好みは後から来た背の小さいほうね。」
妹: 「私もそう思う。」
母: 「二人ともおとなしそうだけど、特にその子はおとなしそうだもんね。」
里見さんもそうだけど、特に天宮さんはおとなしくて俺の母と話をすることはなかった。
K(僕): 「1枚目に北小の古墳と万寿森古墳を、2枚目に銚子塚古墳をまとめようか。」
ハル: 「写真の配置を決めて、鉛筆で先に書いていこうか。 それからマジックで書いていこう。」
里見さん: 「私二人で鉛筆で書いていくから、マジックで書くのは男子でしてよ。」
K(僕): 「女子のほうが字きれいだから、どっちか書かない?」
里見さん: 「えー、やだよね、さっちゃん。」
さっちゃん: 「うん。 あまり書きたくないなぁ。」
K(僕): 「ハルは字うまいから決定でしょ。 後は副班は、字がうまいから書いてよ。」
当時、男女の呼び名は呼び捨てが普通で、かえって「くん」「さん」づけはむしろ好きな人やつきあっている二人での呼び名であった。
それでも天宮って呼び捨ては言いづらく、副班長であった天宮さんのことは大体僕は「副班」って呼んでいた。
さっちゃん: 「えー、うまくないから、やだなぁ。」
K(僕): 「じゃあ、里見は?」
里見さんは1年生のときに同じクラスでもあったので比較的苗字で呼べた。
里見さん: 「私だってやだよ。 班長が書いてよね、さっちゃん。」
さっちゃん: 「うん。」
K(僕): 「仕方ないなぁ。」
天宮さんに言われたら、仕方なく従わざるを得なかった。
誰が書くか、もめながらも、写真をところどころに貼って、1時間半程度で完成した。
K(僕): 「こんな感じでいいかな?」
ほぼ終わるとそのあと四人でお菓子を食べた。
母: 「まだジュースとかお菓子ある?」
母が僕たちのところに来た。
母: 「ハル、お母さんもお父さんも元気?」」
ハル: 「はい。」
母: 「えっと、こちらの・・・そうそう、去年も同じクラスだった里見さん…だったわね。」
里見さん: 「はい。」
母: 「そして…。」
さっちゃん: 「天宮です。」
母: 「天宮さんは初めてだよね?」
さっちゃん: 「はい。」
母: 「おとなしそうな女の子二人ね。 いつもKが迷惑かけてないかしら。 ごゆっくりね。」
お節介なのか、探りを入れに来たのかわからなかった。
ハル: 「そういえばさらば宇宙戦艦ヤマトのビデオがあったんだよな。 それ見ようよ。」
K(僕): 「いいけど。 (女子、特に天宮さんはこういうアニメは駄目じゃないかな?)」
ただ2時間強のアニメであったが、天宮さんはしっかり見ていた。
現在の俺: (天宮さんもこういうのを見るのかってちょっと意外だった。)
こうして何とか体裁を整えた古墳調査は終わった。
9月になってもまだ暑い日が続いていた。
そしていよいよ2学期が始まった。
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