K(僕): 「二学期も僕は班長になることになっている?」
現在の俺: 「どうして?」
K(僕): 「2学期も天宮さんと一緒になりたい。」
現在の俺: 「まあ、そうなるでしょうね。」
K(僕): 「やっぱり…。 そうだよね。」
二学期の班長立候補はもう迷いはなかった。
現在の俺: 「そういえば明日、天宮さんの誕生日だね。」
K(僕): 「そうだけど…。 まさか…。」
現在の俺: 「誕生日おめでとうって言ったら?」
K(僕): 「まさかと思うけど、言えたの?」
現在の俺: 「そんなことできるわけなかったよ。」
K(僕): 「そうだよね。 そんなことしたら好きだってばれちゃうよ。」
現在の俺: 「でも38年ぶりにみきを通じてラインで送りました。」
K(僕): 「みきって、あの同じクラスのみき? ほとんど話したことがないような気がするけど。 ラインって?」
現在の俺: 「あー、みんなとも共有できるけど、特定の人物だけでも秘密に連絡できる方法かな?」
K(僕): 「それ、いいね。」
現在の俺: 「でも、手紙みたいなものだよ。」
K(僕): 「それじゃ、天宮さんに何かいたらいいか…、やっぱり難しいね。 電話なんかしたら、親が出るから気まずいけど、その…。」
K(僕):「ラインね。」
K(僕): 「そうそう、ラインなら秘密に送れるのなら魅力的だね。」
この当時、連絡できるツールは家の電話か手紙くらいであった。
電話は親が出ることが多いので、ハードルが高かった。
9月に入り、さっそく班替えがあった。
まだ夏のような暑いだった。
篠井先生: 「班長に立候補する人は?」
K(僕): 「はい。」
2学期は迷うことなく、立候補した。
ほぼ1学期と同じメンバーが班長になり、僕も班長になった。
K(僕): 「1学期の班はよかったからそのメンバーを基本でいきたい。」
その班長達に伝えてみた。
現在の俺: 「(まあ、天宮さんを獲るためのいいわけだったけどね。)」
その効果があったかどうかは分からないが、お目当ての天宮さんは1巡目で獲得できた。
さすがに全員同じとはいかなかったが、1学期同様、ハルと天宮さん、里見さんは同じ班となった。
里見さん: 「さっちゃん、また一緒だね。」
さっちゃん: 「うん。」
新メンバーは塚地と久保田、女子は滝さんの7人となった。
塚越: 「よろしくな。」
クラスみんながそれぞれの新しい班長のところに机ごと集まってきた。
天宮さんや小林さん、ハルは動く必要がなく、僕と同様、1学期の席順のままに座って他の班員が合流するのを待った。
K(僕): 「席順は面倒だから、このままにして新しい人を空いた席にはいってもらうか?」
現在の俺: 「(さすが、好きな人のことだと、ちゃんと小細工している。)」
僕の隣にはそのまま天宮さんが座った。
K(僕): 「副班はどうしようか?」
さっちゃん: 「・・・・」
天宮さんは「もう1学期やったらもうないでしょ」って感じでいた。
ハル: 「また天宮でいいんじゃない?」
天宮さんはぴくってした。
ハル: 「半分は同じメンバーだし、同じ人の方がよくわかっているんじゃない?」
さっちゃん: 「えー、また?」
里見さん: 「1学期もちゃんと副班やってきたしね。 適任だよ。」
さっちゃん: 「えー。里見ちゃんまで・・・」
当然僕としても異論がなかったので、
K(僕): 「じゃあ、悪いけどお願いできる?」
さっちゃん: 「・・・うん。」
仕方ないって顔をしていた。
現在の俺: (この時はまだ話ができたんだ・・・まだだれにも好きだってことばれていないからか。)
僕たちの班はスムーズに決まったために、他の班がそれらを決めるのを待っていた。
K(僕): 「(これで2学期も、幸せな毎日がおくれそうだ。)」
そしてその幸せはすぐに訪れた。
学園祭も近くなり、部活練習も各部忙しくなっていた。
ようやく朝夕は少し涼しくなっていたある日。
さっちゃん: 「あ、教科書忘れちゃった。」
里見さん: 「困ったね。 前後の席じゃ、見せてあげれないよね。」
さっちゃん: 「どうしよう?」
僕は隣でもあるし、聞くつもりなくても、いやいつも天宮さんの行動は気にしていたので自然に聞こえていた。
現在の俺: (チャンス到来だな。 見せてあげな。)
K(僕): (どうしよう… すごいドキドキする。)
現在の俺: (天宮さん、困っているよ。 そのために隣の席にいるんでしょ。)
いくら隣の席でも好きな人に声をかけるのは緊張するものである。
夏休みの自転車の時よりも、声をかけるか、どうするか、頭の中を駆け巡った。
K(僕): 「一緒に見る?」
恐る恐る僕は訊いた。
さっちゃん: 「えっ?」
少し驚いた様子だったが、
さっちゃん: 「ありがとう。」
そう言うと、天宮さんはゆっくり僕のいる右側に机を寄せてきた。
僕もドキドキしながら、ゆっくり机を天宮さんがいる左側に近づけた。
机をぴったりくっつけながら、
K(僕): (きっと天宮さんは何とも思っていないだろうなあ。 僕は心臓が口から飛び出しそうなくらいなのに…。 まあ、仕方ないか。)
現在の俺: (このときの俺って青春しているなあ。)
こんなシチュエーション、学生しかありえなかった。
山口先生: 「授業するぞ。 今日は教科書の・・・・」
授業は国語であった。
音読があり、どうしても教科書は必須であった。
さっちゃん: 「ちゃんと入れたはずだったのに…」
K(僕): 「教科書忘れることもあるんだ。 しっかりしているように見えるけど。」
天宮さんはうつむき加減でにこっとしていた。
普段は隣の席といえども1m程度離れているが、机をぴったりくっつけているので至近距離にみる天宮さんの笑顔はいつになく強烈に僕の心を惹きつけた。
K(僕): (可愛すぎる…)
見惚れてしまうほどであった。
さっちゃん: 「あ、教科書…」
K(僕): 「あ、ごめん。」
慌てて教科書をくっつけた机の真ん中に置いた。
K(僕): 「見える?」
さっちゃん: 「うん。」
K(僕): 「国語、苦手だから当たったら教えて。」
さっちゃん: 「私だってそんなに得意じゃないよ。」
しばらくしても、至近距離にいる天宮さんに動悸は止まらなかった。
心臓は正直で、好きだって言わんはかりの頻脈だった。
山口先生: 「K、教科係が忘れるなんて・・・。」
1年生の時の担任だった山田先生だったし、国語の教科担当を僕がしていた事もあって、軽くつっこまれた。
K(僕): 「あ…」
クラスの大半が僕のほうを見た。
さっちゃん: 「あの…」
天宮さんもいつもの小声で言おうとしたが、
山口先生: 「授業を始めるぞ。」
K(僕): 「…」
言い訳する理由もないので、そのままうつむいていた。
さっちゃん: 「ごめんね。」
天宮さんは僕を見て小声で悪びれて言った。
K(僕): 「ううん。」
僕は照れ笑いした。
山口先生: 「この主人公の気持ちは・・・」
手を伸ばせば届く位置に女の子、それも大好きな人がいると思うと、心臓の鼓動が聞こえてバレるんではないかと思った。
30㎝程度の至近距離なので、女の子のいい香りがした。
K(僕): (全然授業に集中できない…)
天宮さんの顔を見て、照れている姿を見て、そしてかわいい高い声を聴いて、そして女の子らしい香りが漂って、ますます天宮さんのことが好きになっていった。
そうなるとますます天宮さんの顔が見たくなった。
K(僕): (天宮さんの顔が近すぎてちょっとでも見ると気づかれちゃう。)
天宮さんの顔を見たいけど近すぎて見られない、でも見たい、その葛藤で、ちらっと見てはまた視線を黒板に戻した。
45分授業はいつも長くて長くて仕方なかったが、この日は違った。
教室の時計を見るたびに時間は5分、10分と僕の鼓動とともに足早に過ぎていった。
K(僕): (嫌いな国語の授業だけど、ずっとこのままでも…)
山口先生: 「…であるから主人公はどう思ったかというと…
はい、次のページめくって。」
K(僕): (ページをめくる?)
いつもの教科書なら僕の目の前だから次のページにするのは簡単だが、今日は勝手が違った。
K(僕): (僕がページめくったほうがいいのかな?)
そう思いながら天宮さんのほうを見ると、天宮さんも僕のほうを見て、うつむき加減に微笑んでいた。
天宮さんは僕の教科書なので遠慮しているのか、僕は僕で、国語の教科書であるから左から右にページをめくることから、天宮さんのほうまで手を伸ばすのが、躊躇われた。
そんな僕が変だったのか、微笑みながら僕の方を見て、
さっちゃん: 「次のページにいくね。」
小声でそう言うと、天宮さんがページをめくった。
何気ない、こんなやり取りでも幸せを感じた。
K(僕): (天宮さんってこんな感じで勉強するんだなぁ。)
ちらっとみた天宮さんはまた真剣なまなざしになったが、それでも優しい顔をしていた。
ちょっかい出したい気持ちもあったが、なんか天宮さん自体が高貴な存在に見えて、結局何もできなかった。
山口先生: 「…というわけだ。 今日はここまで。」
初めて国語が楽しいと思った授業は終わったが、いつもよりそばにいることができただけで幸せだった。
それに初めて好きな天宮さんが触れた記念すべき、ほかの教科よりも宝物になった国語の教科書を片づけた。
授業終わりに、
さっちゃん: 「ありがとう。」
そういうと、天宮さんは席を離して、席をたった。
現在の俺: (この時は初めて席が隣りでよかったって本当に思った。)
授業が終わると、国語の教科担任の僕は明日の国語の授業の宿題や準備するものを訊きに、山田先生の後を追った。
K(僕): 「先生。」
山田先生は立ち止まり、振り返った。
山口先生: 「おぉ、次のところまでの漢字の意味を調べてくるように伝えて。 あ、教科書はKが忘れたんじゃないんだな。 珍しいと思ったぞ。」
K(僕): 「…」
山口先生: 「ん? まあ、いい。 とりあえず今回の残りの漢字の意味な。」
K(僕): 「はい、そう伝えます。」
例年、学園祭が10月初めにあった。
体育の授業ではリレー等の種目やフォークダンスなどの練習をした。
普段の中学校の体育となると、男女別で2クラスずつ一緒に行っていたので、幸い運動音痴が天宮さんに直接みられることはなかったが、体育祭の練習となると、クラス対抗競技もあるので男女一緒に行った。
当時は練習と行っても走るだけではなく、バトンの渡す練習や、追い越し方など体育の授業でみっちり時間をかけて教わった。
体育祭のリレーは全員1回は走る全員リレーだったが、クラスごとに男女の数も微妙に違うので、クラスによっては数合わせに2回走る人もいた。
運動音痴な僕だったけど、なぜか足だけは速くてリレーでは二回走る一人になった。
天宮さんは僕のことはクラスメートの一人と思っているので、過度に緊張することはないのだが、クラス対抗となると走っているときは誰でも注目される。
僕は2回走る分、見られるのも2回であり、正直嫌だった。
2回走る人は休憩時間が必要なので、初めと後側に離して2回走るのだが、目立つのは苦手な性格の僕は第一走者とアンカーは避けるようにお願いして走ることになった。
運動音痴なうえ、リレーは2回走るなど憂鬱なことが多かったが、それでも嫌なことばかりではなかった。
それは練習のたびに天宮さんと短い時間であったが、順番でフォークダンスでペアになる時があった。
篠井先生: 「オクラホマミキサーの練習をするよ。」
背の順で男女共並んでおり、天宮さんは僕の数人前にいた。
年頃であったため、男女ともに最初は手を繋ぐのをためらっていて、曲に合わせてフォークダンスは始まってもなかなか手をつなごうとしなかった。
篠井先生: 「ほら、しっかりしなさい。」
男女とも照れながらペアを作り、フォークダンスの練習が始まった。
15秒程度で女子は今のペアを組んでいる男子の後ろの男子と、男子は今の女子の前の女子とペアを組み直して、どんどん踊っていくタイプのフォークダンスだった。
もちろん天宮さんではなくても女子と手と手を合わせるのは気まずかったが、相手が天宮さんとなると思うだけで、とてつもない緊張ととてつもないワクワク感が入り混じった。
5人程度メンバーを変えたところで、次の次に天宮さんが視界に入ってきた。
次第に大きくなる自分の鼓動を抑えながら、十数秒後には天宮さんの後ろの女の子とペアを組んだ。
目の前には天宮さんが僕の前の男子と踊っていた。
普段であればヤキモチをやいていたけど、激しい緊張で身震いでそれどころではなかった。
K(僕): 「(次だ…)」
早くって言う気持ちと、ちょっと待ってという気持ちが交錯していた。
落ち着く間もなく、曲は一瞬の静寂を経て、ついに天宮さんとペアになった。
天宮さんはみんなにも同じ反応をしていたのかもしれなかったが、笑みを浮かべながらも、恥ずかしそうにうつむいていた。
K(僕): 「…」
さっちゃん: 「…」
僕の左手と天宮さんの左手が合わさり、僕の右手の人差し指や中指、薬指は天宮さんの右手の平に触れた。
天宮さんの手に触れた瞬間に、暖かくて、マシュマロのように柔らい感触を感じた。
僕の心臓は全速力で走った後のように、心臓が破裂する勢いだった。
ステップを踏んだのち、僕の左手と天宮さんの左手が触れながら僕たちは向き合ったのだが、天宮さんの恥ずかしそう顔を見た瞬間に、さらに自分の想いが引き返せないほど大きくなったことに気付いた。
フォークダンスの練習も行う日は一日数回実施し、それも最初のポジションに戻るから、何回も天宮さんとペアになる機会があった。
そのたびにドキドキするし、天宮さんのそのかわいらしい反応を身近で見ることになった。
現在の俺: 「何回も話しかけれるチャンスはあったけど、意識しすぎて何も話できなかった。 でも公に天宮さんの手を触れることができたのは幸せだった。」
それは体育祭まで続いた。
体育祭が過ぎると、急に涼しくなって、過ごしやすい爽やかな毎日が続いていた。
幸せだったフォークダンスの時間も終わったが、天宮さんへの気持ちはさらに日に日に大きくなっていった。
そんなある日、3-4校時は2時限かけて美術があった。
美術の先生: 「今日は物語を読んで絵を書いてください。 今日中にできない人は家に持ち帰って書いてくること。」
体育とともに美術も苦手であった。
K(僕): 「やだな・・・」
後ろのハルを見るとスラスラ絵を書き始めていた。
K(僕): 「よく描けるね。」
ハル: 「Kは苦手だもんな、絵が。」
K(僕): 「何描いていいかもわからない。」
ハル: 「早く描かないと宿題になるぞ。」
K(僕): 「そうなんだけどね…」
ふと隣の天宮さんを見ると、里見さんと絵を書かずに、小声で話をしていた。
さっちゃん: 「(こそこそ)」
里見さん: 「(こそこそ)」
観察しているとどうやら二人はさらに僕の方をチラチラ見て、わら半紙に文字を書いている事に気がついた。
二人はほほえみながら書いているのだか、天宮さんは何しても可愛くて、見られる分には、悪い気はしなかった。
K(僕): 「(妙に気になるんだけど。)」
それでも最初は何とか絵を描こうと試みたが、そうはいっても天宮さんたちが気になって仕方なかった。
まあ、絵の構想が全くわかなかったこともあって、天宮さんたちに声をかけた。
K(僕): 「何書いているの?」
さっちゃん: 「ウフフ…。 秘密。」
天宮さんは書いたわら半紙を両手で押さえた。
里見さん: 「内緒だよね。」
二人は意地悪っぽく言った。
K(僕): 「いいじゃん。 ちょっとでいいからさ、教えてよ。」
さっちゃん: 「だ・め。」
天宮さんのかわいい「だめ」に一瞬悩殺された。
ここまで来ると僕も引けなくなった。
K(僕): 「さっきから見られているけど、関係ある?」
さっちゃん: 「内緒。」
天宮さんと話ができることもあって、もう絵なんてどうでもよくなっていた。
K(僕): 「ちょっとくらいいいじゃん。」
天宮さんと里見さんはお互い顔を見合わせて、クスクス笑っていた。
K(僕): 「お願い・・・」
里見さん: 「じゃ、少しだけ教えてあげる?」
さっちゃん: 「だめだよー。」
里見さん: 「ちらっとだけなら、さっちゃん、いい?」
里見さんは天宮さんに耳元で小声で何か話をし、その後天宮さんはにこっとして
さっちゃん: 「じゃあ、ちらっとね。」
里見さん: 「一回だけね。」
K(僕): 「え、見せてくれるの?」
僕は前のめりになった。
里見さんはわら半紙を手に持ちかけた、
いよいよっと思ったら、一瞬僕の方に見せて、そしてまた隠してしまった。
K(僕): 「え?」
里見さん: 「はい、終わり。」
K(僕): 「それじゃ、見えないよ。」
里見さん: 「ちらっとでもいいって言ったよね。」
さっちゃん: 「見せたには変わりないもん。」
K(僕): 「もう一回。」
さっちゃん: 「だ・め。 一回って約束だもん。」
美術の先生: 「ちゃんと絵は進んでいる?」
美術の先生の一言で、天宮さん含めてみんな絵に集中しだした。
ただでさえ気になるところだか、天宮さんが書いているとなると気になって仕方なかった。
絵を描きながらも集中できなかった。
結局、美術の時間2時限では絵を書き切れず、僕は家に持ち帰ることになった。
K(僕): 「あーあ、結局分からなかった・・・」
絵が描けないことより、二人が何をしていたのか、結局分からずだった。
僕はもやもやしながらトイレを済ませ、教室に戻った。
二人は給食の準備なのか、天宮さんと里見さんもトイレなのか、教室にいなかった。
K(僕): 「これは…」
ふと、二人の机の間の教室の床に折りたたまれたわら半紙が落ちているではないか。
「ちょっと悪いなぁ」っと思いながらも、さっと手に取って、制服のポケットにしまった。
幸いにも、二人はわら半紙の事は探す様子もなく、そのまま下校時間となり、帰宅した。
帰宅して真っ先に自分の部屋に入り、早速わら半紙を確認した。
そこにはB4サイズいっぱいに、鉛筆でさまざまな向きに断片的に書かれていた。
しかし、天宮さんの文字は隣の席に座っているときに、すでに確認済なのでほぼどちらが書いた文なのかはだいたい分かった。
一見して「まーくん」の文字がわら半紙の端から端まで書かれていた。
K(僕): 「ねえ、この「まーくん」って誰?」
現在の俺: 「それは自分で本人に訊くこと。」
K(僕): 「そんなことできるわけないよ。」
現在の俺: 「そんなことよりわら半紙の内容のほうが気になるでしょ。」
K(僕): 「それはそうだけど。」
僕はいろんな向きに書いてあってどういう順番か分かりかねたが、右端からとりあえず読んでみた。
K(僕): 「【私なんて1年生のとき、同じクラスだったよ。】っていうのは里見だね、天宮さんの字でもないし、里見とは去年同じクラスだったから。 そうすると、次は天宮さんか…」
さっちゃん: 「【私はまーくんのお友達と小学校の時に同じクラスだったんだ。】」
K(僕): 「ハルと5、6年生は同じクラスだったからか… 卒業アルバムで確認済みだし。」
【私、気になる…】
どっちが書いたか分からない文があった。
K(僕): 「天宮さんの字にも、里見の字にも見えるけど…。 気になる人なのかな…。 天宮さんに好きな人がいるのかな・・・・」
いきなり不安になった。
K(僕): 「読まなきゃよかったかも…」
後悔の念に駆られた。
現在の俺: 「ほら、せっかくなんだから読み続けて。 まだ決まったわけじゃないから。」
意気消沈する「僕」を励ました。
K(僕): 「そうだよね…」
さっちゃん: 「【私なんてまーくんとよく目が合うんだから。】」
K(僕): 「天宮さん、好きな人がいるんだ。 ショックだなあ。 目が合う人がいるなんて誰だ・・・? やっぱり見なきゃよかった。 そもそもまーくんって、誰だ? 名字や名前に「ま」がつくやつは誰だ?」
しばらく僕は考え込んだ。
K(僕): 「頭に「ま」がついているのは学級会会長だ。 確か、1年生の時に、天宮さんと同じクラスだったよな・・。」
現在の俺: (その時、学級委員の名前には「ま」なんてつかないのに、勘違いしていったっけ? それだけ動揺していたんだ。)
K(僕): 「・・・・」
ショックのあまり、茫然とした。
現在の俺: 「まあ、先を読めって。」
さっちゃん: 「【まーくん、髪切って、かっこいいよね】」
K(僕): 「あれ、学級会長は髪の毛、切ったっけ?」
里見さん: 「【うんうん】」
さっちゃん: 「【頭もいいし。】」
里見さん: 「【まーくん、こっち見ているよ。気が付かれたかな?】」
さっちゃん: 「【大丈夫、きっと分からないよ】」
K(僕): 「うーん、「見ている」なら違うクラスってことはなさそうだけど。」
里見さん: 「【まーくん、気になるみたいだね】」
さっちゃん: 「【またまーくんと目が合っちゃった】」
K(僕): 「ん? もしかして、まーくんって僕? 先週髪の毛切ったし。 でもそんなはずないか。 僕に「ま」なんてつかないか…」
現在の俺: (あれだけ、あの時の俺は天宮さんのこと見ていたから、度々目が合うはずだよね。 毎日数十回とみていれば、毎日最低でも数回は目が合うから。 その頃には天宮さんはあの時の僕がしばしば見ていたことに気付いていたのかもしれない。 天宮さんに少なくとも気にはさせていたのかもしれない。)
K(僕): 「分かったことは「まーくん」とよく目が合うこと。 里見と天宮さんは少なくとも「まーくん」には嫌な感情はないこと。 だけど、天宮さんにはほかに好きな人がいる可能性が否定できないこと。 見ない方がよかったかも…。 でも告白する前に分かってよかったのかも。」
現在の俺: 「告白する気があるの?」
K(僕): 「そんなこと、できるわけないよ。 もし告白する機会があったらの仮の話。」
現在の俺: 「じゃあ、諦められるの?」
K(僕): 「天宮さんのことは好きだけど、自分の心の中にしまっておくよ。 一応、この紙は全部似た字で写しておくよ。 いつか何かのヒントになるかもしれないから。」
もともと女の子の字みたいにってよく言われていたから、丸ごと全部字を似せて新しいわら半紙に書き写したが、仕上がりは自分でもどっちが本物か迷うほどの出来栄えだった。
次の日の朝、天宮さんに声かけた。
K(僕): 「おはよう。 そういえば昨日これを拾ったんだけど、昨日二人で書いていたわら半紙じゃない?」
さっちゃん: 「そうだね。 返してくれる?」
そう言うと焦ることなく、普通にもらっていった。
K(僕): (僕のことが好きならあんなに普通に持っていけないよね。)
現在の俺: (やっぱり普通に持っていった…。 やっぱりこの時は「僕」のこと、好きって感じではなかったんだ。 それとも、この文章程度ではたいしたことではないと思ったのか、読んでもわからないと思ったのか、そもそも読んだとは思っていなかったのか・・・。)
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