「よっしゃ、着いた」
海上レストラン『バラティエ』。東の海の片隅に浮かぶ船であり、魚に似たファンシーな外装が特徴だ。やっとここに来れた……。さて、俺の目当てのあの子はいるかな~?
船を停め、バラティエの中へ入る。店内は賑わっていて、沢山の人が食事をしていた。俺はぐるりと辺りを見回す。そして見つけた。蜂蜜のような金髪、長い前髪で左目を隠している。まだ未熟さが残ってる感じがするけど、見間違えるわけがない。
サンジだ。幼い頃の。俺は思わずニヤけてしまいそうになる。ぐっと堪えながら俺は席に座る。
「あ……あの」
俺は歩いていたウェイターに声を掛ける。
「ご注文ですか?」
「その前に、その、リクエスト……というか。頼みたいことがありまして……」
「リクエスト? ですか?」
「はい。あそこにいる子が作った料理が食べたいんです」
と、俺は食材を運んでいるサンジを指さすと、ウェイターが一瞬だけ目を丸くして驚いた。
「あ、あいつ、ですか?」
「えぇ。一品だけでもいいんです。ダメでしょうか…?」
「……少々お待ちください。オーナーに確認してきます」
そう言ってウェイターは厨房の方へと向かった。そしてすぐに戻ってくる。ダメって言われたらまた数年後、彼が副料理長になったときにリベンジしに来よう。
数分待つと、ウェイターが戻ってくる。どうやら許可は下りたようだ。
「ありがとうございます」
俺は礼を言うと、メニュー表を見て何を食べようか迷ってしまう。迷った末、俺は羊肉のステーキをメインにしたコースを選んだ。
料理が来るまでの間、俺は店内の会話に耳を傾けていた。厨房の方から「なんであいつを指名したんだ?」「オーナーゼフじゃないのか?」「何で見習のあいつを?」そんな声がちらほらと聞こえてくる。
いやまあ普通ならオーナーを指名するだろうけど、俺は何が何でもサンジの作った飯が食いたいんだよ……!! ワンピース世界に来たのなら1回は絶対食いたいだろ!!!
いくら俺がルフィと面識があるとはいえ、サンジがバラティエを出たらいつ会えるかなんてわからないんだ。どこにいるか分かってる時点で行くべきだろう!! ワンピースファンなら!!!!
そうこうしているうちに、俺の前には美味しそうな料理が並べられる。ナイフとフォークを手に取り、早速頂く。前菜だからまだ彼の料理ではない。
「~~~っ……美味しい……」
こんな美味しい料理初めて食べたって思ってしまうくらいには美味い。思わず背筋が伸びてしまう。城でテーブルマナーを習っていてよかったと思った。
それからメインの羊肉のステーキも平らげ、デザートまでしっかり完食する。はい、満足。大変満足でした。
サンジが作ったというメインの羊肉のステーキは美味すぎて脳みそ弾けるかと思った。原作開始後はこれよりも美味いってことだろ……? え? 大丈夫か? 美味すぎて死人とかでないのか?
無駄な心配をしながら俺は会計を済ませる。もちろんチップ込みで。
作ってくれたサンジにお礼が言いたいが、さすがに邪魔するのはよくないしな…。ここは大人しく帰るとしよう。
「ご馳走様でした。すごく美味しかったです」
サンジに言えない代わりにウェイターに言い、作ってくれたシェフに伝言でも、なんて思っていたら俺の方にたたたっと誰かが駆け寄ってきた。まさか、と思い振り返ると、そこにはサンジが立っていた。
彼は俺の顔をジッと見てから口を開いた。
「なんで俺を指名したんだ?」
「えーっと……」
まさか君が漫画のキャラで、美味しいご飯を作ってくれるのを知っていたからとは言えないから……ど、どうするかな……。
「あー、その、なんとなく……ではないんだけど、きっと君は美味しい料理を作ってくれるんだろうな、って直感的に思った、みたいな?」
自分でも意味不明なことを言っている自覚はある。サンジはぱちぱちと瞬きをして首を傾げた。いやほんと……ごめんな、語彙力とか諸々が俺になくて……。
もっとうまい言葉は……と自分の中の言葉の引き出しを探っていると、サンジがふふ、と笑いだす。
「そっか、へへ…嬉しいなぁ」
はにかみながらそう言った彼に不覚にもキュンときてしまった。可愛いじゃねぇか……。
俺はしゃがんでサンジに目線を合わせる。
「きっと君は素敵な料理人になるよ。これからの成長が楽しみだ。また君の料理を食べさせてね」
そう言うと、サンジの表情がパッと明るくなる。そして少し照れくさそうにしながら、サンジが元気よく返事をした。
「それじゃあまた。改めて、ご馳走様でした」
俺は海上レストランバラティエを出た。
ずっと来たいと思ってたところにも来れたし、次はまたフーシャ村の方に行ってみるかな。