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戦闘を駆け抜けるシャーリィは、アーマードボアの集団の先頭を突き進む個体に狙いを定めて駆ける。双方の距離は瞬く間に縮まり、今まさに衝突せんとした時シャーリィは光輝く刃を前に突き出した。
「シャーリィ!?」
一見すると無謀な行為にカテリナが悲鳴を挙げる。だがアーマードボアの鼻先が光の刃の切っ先に触れた瞬間、その巨体が一瞬にして光の粒となり消えていく。
「嘘だろ!?」
「こりゃスゲェな、前よりパワーアップしてやがる」
見慣れていたルイス、ベルモンドも驚く中、シャーリィだけは目の前で起きた事象をそのまま呑み込む。
「はぁあああっ!!」
その後ろから迫ってきたアーマードボアへ向けて、妹のレイミが冷気を纏った刃を袈裟懸けに振り降ろす。
グガッッ!!!
脳天に刃を叩きつけられたアーマードボアは、一瞬にして全身が凍り付き勢いのまま横転。凍り付いた巨体は砕け散った。
「「おおぉーーーっっ!!!」」
姉妹が初手で二頭を倒したのを見て一同の士気は上がる。だが一方的な戦いはここまでだった。
警戒したのかアーマードボアの群れは減速。そのまま暁部隊に正面から飛び込み、大乱戦となった。
アーマードボアはその巨体を振り回し、あちらこちらで怒号と悲鳴が響き渡る。
「ふっっ!!」
ベルモンドが大剣を振るうと、シャーリィ目掛けて背後から突っ込んできたアーマードボアがまるでバターのように真っ二つにスライスされる。上下に両断されたアーマードボアはそのまま大地にその巨体を沈めた。
「相変わらず切れ味が恐ろしいな!お嬢!ちゃんと前だけ見てろよ!」
「ありがとう、ベル!やぁああっ!」
シャーリィは再び刃を振るう。その切っ先に触れたアーマードボアは、それがどの部位であれ問答無用で消滅させられる。
「エグいな!魔物相手なら無敵かよ!おらっ!」
ルイスは迫り来るアーマードボアの眉間へ向けて、すれ違い様に槍を突き立てる。
脳天を貫かれたアーマードボアはその巨体を滑らせるように転倒。ルイスは担いでいた予備の槍を取り出して構える。
「問題も発覚しましたよ。乱戦では扱いが難しい」
シャーリィの魔法剣は魔物相手に絶大な威力を発揮すると共に、人間相手にもその力を発揮する。だが敵味方が入り乱れる乱戦では味方討ちの危険から扱いを最小限に留める必要があった。
「余所見をしない」
「わっ!?」
カテリナがシャーリィの襟を掴んで強引に引き寄せ、巨大な口を開けて突進してくるアーマーリザードの生き残りにAK47の銃弾を浴びせる。
片手撃ちのため当然銃身はぶれるが、的が大きいので気にせず射撃を継続。軽快な音と共に撃ち出される銃弾はアーマーリザードの口から体内へ侵入。
その巨体を内部から破壊し、力尽きたアーマーリザードは親子の目の前で沈む。
「助かりました、シスター」
「考察は後回しにしなさい。今は少しでも数を減らすことを考えるように」
シャーリィの感謝を受けながらもカテリナはマガジンを交換し、再び射撃を再開する。
「はい!」
「ぁああっ!」
「ぎゃっっ!?」
だが乱戦の此処彼処で暁にも被害が出ていた。あるものはアーマードボアの突進が直撃。身体中の骨を粉砕されながら吹き飛ばされ、またあるものはその巨体に踏み潰されて悲劇的な最後を向かえる。
「怯むな!戦友達の死を無駄にするな!踏み留まれ!」
自らサーベルを振るいアーマードボアと戦いながらマクベスは号令を飛ばす。
百体もの巨大な猪が暴れまわる様は圧巻であり、撃破数も延びているがそれに比例して犠牲者も増加していた。
「おらよぉ!」
軽やかにアーマードボアへと飛び乗ったエレノアは、頭に移動して首にクロスさせたカトラスを押し付け、一気に引いた。
すると喉を切られたアーマードボアはパニックを起こして暴れまわり周囲に居る同族に体当たりを繰り返し、最後はひっくり返って絶命する。
「陸の魔物はそんなもんかい!?もっと掛かってきな!」
エレノア率いる海賊衆は慣れない陸地での戦いではあったが、より強力な海の魔物を相手にしているためか錬度も高く負傷者を出しながらも縦横無尽に立ち回る。
一方最も犠牲者が多いのは自警団であった。
「無理をしないで下がって!こんなところで死ぬなんて馬鹿らしいよ!」
エーリカが直接指揮をしているが、充分な訓練を行う時間が無く比較的安全な後方で戦闘を行っているが、それでも犠牲者は増え続けていた。
「うわぁあああっ!!」
「もうやめてくれーっ!」
「おい!こっちは味方だぞ!?」
恐怖から半狂乱となった者は逃げ惑い、もしくは訳も分からず味方に武器を向ける始末。この自警団の投入は明らかに失策であった。
「はぁ!はぁ!まだっ!まだぁあっ!」
疲労の色が濃くなるレイミは、それでも構わず刀を振るう。冷気を纏った刃は触れるものの熱を瞬く間に奪い去り、氷付けにしていく。
氷付けにされた魔物は横転して砕かれるか、同族からぶつかられて砕け散る。
だが限界が来たのか膝をついてしまい、そこにアーマードボアが襲いかかるが。
「やぁああっ!」
レイミの前に飛び出したシャーリィが勇者の剣を振るい、目の前に居た三体を一瞬にして消滅させる。
「レイミ!下がってください!もう限界です!」
「まだまだっ!まだ戦えます!お姉さま!」
「その意気は嬉しいのですが、姉としての心配が勝ります!ルイ!」
「おう!悪い妹さん!」
「お義兄様、なにを!?」
シャーリィの指示を受けたルイスはレイミを担ぎ上げる。
「ちょっと辛抱してくれ!シャーリィ!直ぐに戻る!」
ルイスはレイミを担いだまま後方へと駆け出す。
「戻るまで支えねぇとな」
「臆しましたか?ベル」
「まさか、晩飯が楽しみなだけさ。前だけ見てろ!お嬢!」
最前線をシャーリィとベルモンドが支える。
一方後方の救護所には負傷者が次々と運び込まれ、地面に敷かれたシーツの上に寝かされた負傷者と、彼らの治療を行う医師や看護師が慌ただしく行き交い、さながら野戦病院の様相を見せていた。
「くそっ!次はどこだ!?」
たった今治療を施していた負傷者が死亡し、血塗れの包帯を投げ捨てたロメオは直ぐに切り替えて側で手伝いをしていた看護師に問いかける。
「此方です!」
「回復薬が足りんぞ!いや、医療品が全部足りん!」
「誰か倉庫から持ってきてくれ!あるだけ全部だ!早く!」
医師や看護師の怒号が響き渡るが、それと同じように銃声や砲声も響く。
大乱戦を抜け出して町へ迫る魔物も少なくはない。それらの相手は後方へ下がった戦車隊と砲兵隊が受け持つ。
「一匹足りとも後ろへ通すな!いざとなれば我々が盾となる!」
当初戦車隊は歩兵と一緒に突っ込む予定ではあったが、歩兵部隊が全力で接近戦に投入されたので、急遽予定を変更し、はぐれた魔物の掃討を行うため側面警備に当てられていた。
暁は犠牲を出しながらも戦いを優位に進めており、このまま決着が尽くかに見えた。だが、この世界はどこまでも意地悪なのだ。
グォオオオオオッッッッ!!!
凄まじい咆哮が響き渡り、それは現れた。
「おいおい、冗談だろう!?」
まるで血のように真っ赤な体毛を持ち、鋭い牙と爪を光らせ、なによりその八メートルを優に越える巨体と頑強な肉体を持つその名は。
「ああ、本当に……この世界は意地悪でくそったれです」
ブラッディベア。一体で町一つを滅ぼすと詠われる災害級の魔物である。