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伊月
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#ラブコメ
猫塚ルイ

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いつものベンチ。
フェンス越しに吹き抜ける風は、地上の喧騒を忘れさせるほど静かだった。
「で、話って?」
天馬くんが隣に腰を下ろし、真っ直ぐに僕を見つめてくる。
僕は逃げ場をなくすように、自分の膝を強く掴んだ。
「…あ、あのさ……!」
「うん」
「天馬くん、さっき誘われてたと思うんだけど……その、花火大会、あるじゃん」
「あー、女子たちが言ってたやつ?」
「そ、それ…で、その……っ」
いざとなると、言葉が喉の奥にへばりついて出てこない。
視界が泳ぐ。
心臓の鼓動が、服の上からでも分かりそうなくらい激しい。
でも、逃げないと決めたんだ。
「ま、まだ…誰とも予定入ってなかったら……っ」
大きく息を吸い込み、頭を下げたまま叫ぶように言葉を絞り出す。
「天馬くんと、一緒に行きたいなって……っ!だめ、かな…」
言い終えた瞬間、全身の血が顔に集まったように熱くなった。
今の言い方、変じゃなかっただろうか。
噛みまくったし、声も裏返ったし
そもそも僕みたいなのと花火なんて……。
沈黙が数秒、永遠のように感じられた。
すると。
「……っ、ふ、ふはっ!」
不意に、隣で天馬くんが吹き出した。
「……え?」
きょとんとして顔を上げると、天馬くんは腹を抱えて、肩を激しく震わせて笑っていた。
「…いや、ごめん。……すげー頑張って誘ってくれてるんだろうな〜って思ったら、なんか……ははっ」
「……っ」
笑われた。
けど、嘲笑なんかじゃない。
それでも一生懸命だった分、恥ずかしさが怒りに変わって、僕は少しだけ唇を尖らせる。
「…わ、笑わなくたっていいじゃん……」
精一杯の反論。
すると、天馬くんは笑い声を収め、慈しむような眼差しで僕を捉えた。
「……うん。ありがとな、誘ってくれて」
そのあと、彼はこともなげに、さらっと続けた。
「もちろん行こ。断る理由なんてねーし。……っていうか、実は俺も、今日あたり水瀬のこと誘おうと思ってたんだよ」
「……えっ」
予想外の言葉に、弾かれたように顔を上げた。
「ほ、ほんと……!?」
「もちのろん」
信じられないくらいの多幸感が全身を駆け巡る。
嬉しすぎて、視界が滲む。
気づけば僕は、無我夢中で天馬くんの大きな手を、両手でぎゅっと握りしめていた。
「よかった…ありがとう、天馬くん……っ!」
潤んだ瞳のまま、縋るように彼を見つめてしまう。
すると、天馬くんの体がびくんと強張った。
「……っ」
数秒後
ようやく、自分がどれほど大胆なことをしているかに気づいた。
「あ……っ!」
火がつくように熱くなり、慌てて手を離そうとする。
けれど。
天馬くんは逆に、僕の指を、確かな力でぎゅっと握り返した。
「……っ、そんなに嬉しそうな顔されたら、こっちまで嬉しくなるんだけど?」
耳まで赤くした天馬くんが、苦しそうに視線を逸らす。
その繋がれた手のひらから伝わる熱のせいで
僕の心臓は、もう二度と元に戻らないんじゃないかと思うほど、激しく甘く鳴り響いていた。