テラーノベル
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花火大会当日────
約束の時間は午後七時。
夕闇が街を藍色に染め抜き、家々の灯りがぽつぽつと灯り始める頃。
僕は、待ち合わせの会場入口に、三十分以上も早く着いてしまっていた。
(……いくらなんでも、早すぎたかな)
逸る気持ちを抑えきれず、家を飛び出してきた自分を少し呪う。
手持ち無沙汰に、着慣れない浴衣の袖をぎゅっと握りしめた。
糊のきいた生地の感触と、石鹸の匂い。
慣れない下駄は、一歩踏み出すたびにアスファルトの上で「カラン」と心細い音を立てる。
鼻緒が食い込む痛みさえ、どこか現実味を欠いていた。
でも、今日はどうしても、ちゃんと浴衣を着てきたかったんだ。
小学生の頃、両親に手を引かれて行った夏祭り以来かもしれない。
……友達と花火大会に行くなんて。
ましてや、それが「天馬くん」と一緒にだなんて。
そう思うだけで、心臓の鼓動が耳元まで響いて、立っているのもやっとだった。
周囲を見渡せば
屋台から流れてくるソースの香ばしい匂いや、綿あめの甘い香りが夜風に乗って鼻をくすぐる。
色とりどりの浴衣を纏った人たち、楽しげな笑い声、遠くで鳴り響く祭囃子の音。
その熱気と浮足立った空気のすべてが、まるで淡い夢の続きのように思えた。
そんな時だった。
「水瀬────っ!」
雑踏を切り裂くような、聞き慣れた明るい声。
慌てて振り向くと、波打つ人混みを器用にかき分けながら天馬くんがこちらへ駆けてくるのが見えた。
少し乱れた息を切らし、僕の目の前でぴたりと足を止める。
「ごめ、待ったか?」
「……っ」
返事もできず、僕は思わず息を呑んだ。
天馬くんは、黒地に深い青の模様が入った浴衣を、驚くほど自然に着こなしていた。
いつも制服で見ている彼よりも、ずっと背が高く、ずっと大人びて見える。
街灯と提灯の灯りが、彼の特徴的な金髪を琥珀色に縁取り
悪戯っぽく細められた瞳をキラキラと反射させていた。
正直、ずるいくらいにかっこいい。
「……水瀬?」
「ぇ、あ……っ」
あまりの眩しさに、見惚れていたことを悟られた。
慌てて視線を足元に落とすが、逃げ場のない羞恥心が頬を赤く染める。
すると、天馬くんが「ふっ」と優しく喉を鳴らして笑った。
「水瀬も浴衣で来たんだな。似合ってんじゃん」
「……う、うん。おかしくない、かな」
「全然。っていうか、むしろ……かなりいい」
さらっと、熱を帯びた声で言われて、心臓が跳ねた。
僕のキャパシティはもう限界だ。
「……っ、て、天馬くんの方が……その、何倍もかっこいいよ」
必死に絞り出した本音。
すると、今度は天馬くんの方が一瞬、石のように固まった。
「……っ…不意打ちすぎ」
「え?」
「いや、こっちの話」
彼は赤くなった耳を隠すように乱暴に髪を掻くと、逃げるように歩き出した。
「まず何食う?」
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#シリアス