[さよならの始まり]
若井side
季節は巡り、卒業式の日を迎えた。
桜の花びらが舞う校舎の裏で、俺は涼架に声をかけた。
「涼架、ちょっといいか?」
涼架は、少し驚いたように振り返った。
彼女は、卒業証書を手に、少し寂しそうな、でもどこか晴れやかな顔をしていた。
「どうしたの?もう、さよならだよ。」
涼架はそう言ったが、その声は少し震えていた
俺は、意を決して涼架の手を握りしめた。
涼架の瞳をまっすぐ見つめる。
「だから、さよならじゃねぇって言ってるだろ」
俺は、深く息を吸い込んだ。
過去の祖父の不器用さも、タイムスリップで得た真実も全てこの一言に込める。
「涼架。俺、お前のことが好きだ」
瞬間、涼架の目から大粒の涙が溢れた。
彼女は驚きと、信じられないと言う表情を浮かべ、俺の手を強く握り返した。
「ばか…っ」
涼架は泣きながら、俺の胸をポカポカ叩き始めた。
その手には全く力が入っておらず、ただの愛情表現のような叩き方だった。
「このばか!遅いよ!なんで今なの!もう、私、遠くに行っちゃうのに!」
彼女の言葉は、涙でぐしゃぐしゃになっていた
俺は、涼架の叩く手に耐えながら、笑みを浮かべた。
「悪かったよ。でもな、理由があるんだ」
涼架は、涙も拭きもせずに俺を見上げた。
「なによ、理由って」
「だって、早く言いすぎて、お前が受験集中できなくなったら困るだろ」
その言葉に、涼架は叩く手を止めて、わっと声を上げて泣き笑い出した。
「なによそれ!また人をからかってるの!?本当に若井は…本当にばか!」
「ばかで悪かったよ。でも、真剣なんだ。あの日、過去に行って分かった。俺は、お前が本当に大切な人だから、自分の気持ちを押し殺してたんだ」
俺は、涼架の涙をそっと指で拭った。
「これは、さよならじゃない。俺たちが、お互いの夢を追いかけて、もっと素晴らしい自分になるための始まりなんだ」
「俺は、お前が音楽大で頑張ってると思えば、もっと最高のギターが弾ける。だから、行ってこい。俺たちの音楽で、お前をずっと励まし続けるから」
涼架は、泣き笑いのまま、俺の胸にそっと顔を埋めた。
「うん…!分かった。行ってくる。でも、絶対、約束だよ。また会うための、さよならだからね」
二人は、それぞれの夢と、そして、お互いを想う温かい気持ちを胸に、別々の道へと歩み出すことを誓った。
それは、運命の女神さまが二人にくれた、最も温かい旅立ちの光景だった。
13話で若井が涼ちゃんにお守り渡す時に言った言葉を振り返ってもらえると伏線回収できるよ
次回予告
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コメント
2件
伏線まで張るなんてとんでもない技術ですね!(?)
思いを伝えられてよかったねぇ😭 涼ちゃんの為に自分の気持ちを伝えてなかったっていうのも優しすぎて尊い🫶🏻️︎💕