[あの日の約束の答え合わせ]
若井side
季節が幾度も巡り、桜並木は何度も花を咲かせ散らせた。
若井は、今や日本を代表するロックバンドのギタリストとして、多忙な日々を送っていた。
ライブハウスから始まった俺たちの音楽は、いつしか、たくさんの人の心を震わせるまでになっていた。
しかし、どんなに大きなステージに立っても、俺の心には、いつも一つの場所があった。
それは、高校の卒業式の日、桜の花びらが舞う校舎裏で涼架に告げた、あの日の光景だった。
そんなある日、バンドのツアーで、俺は久しぶりに故郷の街に帰ってきた。
ライブ会場に向かう途中、ふと、俺が足を止めたのは高校の音楽室の前だった。
窓の外から、ピアノの音が聞こえてくる。
その音色は、あの頃よりもずっと深く、豊かで
聴く人に寄り添うような優しさに満ちていた。
俺は、吸い寄せられるように、ドアを開けた。
そこにいたのは、あの頃と変わらない、でも、あの頃よりもずっと大人になった、涼架だった
彼女は、窓から差し込む夕日を浴びながら、一心不乱にピアノを弾いている。
その指先は、まるで魔法のように、鍵盤の上を滑っていた。
演奏が終わり、涼架はゆっくりと顔を上げた。
そして、そこに立っている俺を見て、驚きと喜びの入り混じった表情を浮かべた。
「…若井…?」
俺は、何も言わずにただ、微笑んだ。
涼架は、慌てて立ち上がり、俺のもとへ駆け寄った。
「…久しぶり…」
「ああ」
二人の間に、一瞬、沈黙が流れた。
それは、長い月日が流れたことと、お互いがそれぞれの場所で頑張ってきたことへの尊い沈黙だった。
やがて、涼架が口を開いた。
「ねぇ、若井。あなたのライブ、全部聴いてるよ。あの頃よりも、ずっと…」
涼架は、言葉を詰まらせた。
「…素敵になったね」
その言葉に、俺は胸が熱くなるのを感じた。
涼架もまた、言葉を詰まらせていた。
「涼架のピアノも、昔よりもずっと、俺の心に響くよ」
俺はそう言って、涼架の手をそっと握った。
あの頃よりも、少し大きくなった手。
そして、その手には、あの頃と同じ、温かさが残っていた。
「ねぇ、若井。私、いつか、あなたと音楽を一緒に合わせたいって、ずっと思ってたんだ」
涼架の言葉に、俺は、最高の笑顔で頷いた。
「俺もだよ」
あの日の「さよなら」は、終わりじゃなかった
それぞれの道に歩んで、成長し、再開した二人はあの頃よりも、もっと素晴らしい自分になっていた。
それは、運命の女神さまが二人にくれた、かけがえのない贈り物だった。
次回予告
エピローグ:未来へ繋ぐ物語
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コメント
1件
若井ももう涼ちゃんのピアノに対して「下手だな」っていうんじゃなくて、ちゃんと褒めてるの成長を感じる…!