アルコール……。
やけ酒するか。
そう考えた瞬間、長峰が頭を過った。
あいつ、やけ酒付き合ってくれるかな?
陽茉莉ちゃんも声かければ来てくれそうだけど、あの子は純粋すぎて今の私にはキツイ。なんとなく、泣いてくれそうな気がしたから。
もうすぐ仕事が終わる時間。とりあえず、長峰にメッセージだけ送っておこう。
【やけ酒付き合え】
なぜか命令形。しかたない、今の私はそれくらいやさぐれているから。
ずっと思ってた。貴文とは合わないなって。だからいつかこんな日が来るかもって思ってた。私の心はすでに彼にはなかったの。それなのに、いざ別れを口にすると、どうしてこんなにも寂しくて胸が苦しくなるんだろう。
「……変なの」
自分がよくわからない。彼のことを好きで好きでたまらなかったわけでもないくせに。
携帯電話がブルブルと震えた。
長峰だ。仕事終わったんだな。
「もしもーし」
『どこっすか?』
「モミの木の下」
『は? それどこ?』
「駅前だよ、駅前」
『駅前ね。今から行きます』
そう言うと、ぶちっと電話は切れた。
あー、本当に来てくれるんだ。長峰って意外といいやつだな。それとも先輩だから断れなかったのかな。まあどっちでもいいや。やけ酒付き合ってくれるなら、奢ってやるか。
そんなことを考えながら、モミの木の下で待った。
相変わらずここは待ち合わせをする人で埋まっている。相手が来て去っていき、空いた場所にまた他の人が誰かを待つ。そしてまたその人も相手が来て去っていく。
私、どれだけの人を送り出しただろう。相手が来ないのは私だけ。ずっと待ってる、ここで。モミの木の番人にでもなったみたい。
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