テラーノベル
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放課後、空が急に暗くなった。
教室を出るころには、ぽつぽつと雨が降り始めていて、俺は思わず空を見上げた。
(やば、傘…持ってきてない)
スマホを開いて、家にメッセージを送ろうか迷っていたら、
「おーい」
階段の下から、見慣れた明るい声がした。
陽翔さんだ。
「傘持ってないんでしょ?迎えに来た~」
そう言って、にこっと笑って大きめの傘を差し出してくれた。
俺は思わず顔がほころぶ。
「ありがとう…助かった」
「じゃ、帰ろっか♪」
並んで歩く道。傘の下、雨の音。
ふたりの肩が少しだけぶつかって、俺は照れて目をそらした。
(なんか…兄弟って感じじゃないな)
そんなことを思っていた。
──家に帰ると、奏さんがいた。
リビングで静かにテレビを見ていたけど、
俺たちの「ただいま」に返事はなかった。
「……奏?」
陽翔さんが呼ぶと、奏さんはちらっとだけこっちを見た。
「……雨、強かったんだな」
それだけ言って、立ち上がって自分の部屋に戻っていった。
「……あれ、なんか機嫌悪い?」
陽翔さんが小さく笑って言う。
でも、俺は思ってた。
(傘の下の2人を、奏さんは窓から見てたのかもしれない)
⸻
🕰️ 数日後、雨がまた降った日。
陽翔さんは委員会で帰りが遅い。
俺はひとりで教室を出たけど、玄関で見覚えのある姿に気づいた。
「……奏さん」
「……帰んねぇのか」
「傘、また忘れて」
そう言うと、奏さんは無言で傘を差し出してきた。
「入れよ」
ぶっきらぼうにそう言って、俺の方に傘を傾けた。
ふたりきりの傘の中。
雨の音だけが響く。
「……陽翔といると、楽しそうだな」
ぽつりと、奏さんが言った。
「え?」
「別に…嫉妬とか、そういうんじゃないけど」
「――嫉妬、してたの?」
一瞬、奏さんの足が止まった。
「……してたら、迷惑?」
その声は、いつもの奏さんとは違って
少しだけ弱くて、でもちゃんと俺に届いていた。
「……ううん、迷惑なんかじゃない」
「なんか、嬉しかった」
俺はそれだけ言って、そっと傘の持ち手を一緒に握った。
奏さんの手が、少し震えていた。
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