不意のキスに、「……んッ!?」と彼が目を見開いて、驚いた顔つきになる。
唇を一旦離して、「……あなたからも、して……」と、キスをねだると、
一瞬、彼がメガネ越しにまばたきをして、いつになく大胆になる私を見やった。
しばしの間が訪れて、掻き立てられる気持ちのままにアプローチを仕掛けたけれど、もしかしたら貴仁さんを幻滅させてしまったのかもと、顔をうつむきかけた──。
その頬が、ふっと両手で包み込まれ、
「……目を、閉じて」
と、低く掠れた声で告げられた。
おずおずと顔を上げ瞼を伏せた私に、メガネを外した彼の顔が近づき応えるように唇が柔らかく重ね合わされると、
もしかしたらなんてことは思い過ごしだったと感じられる熱が、重ねられた唇から伝わった。
「ねぇ、もう……、 ……っ」
息を継ぐ間に、途切れた私の言葉を、
「もう、離したくない……」
次第に深くなる口づけのさ中に、彼が続ける。
「離さないで、いて」
「ああ、離さない」
互いの手を絡ませ、内なる熱情のままに口づけを交わし求め合った。
彼以外、何も見えないようにもなっていると、
不意に、バサッという大きな音が部屋の中へ響いた。
熱に浮かされていたこともあって、驚きのあまり絡めた指を離した拍子に、指輪が外れて床に転がった。
「あっ……」
キスの陶酔から解かれると、彼がソファーから音を立てて落ちた本を手に取り、私ははずみで転げた指輪を拾い上げた。
「……本は、テーブルに置いておこうか」
「指輪も、ケースに入れておきますね……」
どことなくぎこちない雰囲気が漂い、彼がテーブルに本を置き、その上に外した指輪をしまったケースを乗せたタイミングで、『お食事のご用意が整いました』とインターホンに連絡が入って、彼も私も身体にまだ解け切れない余熱を残したまま、食堂へと向かった。