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何をする訳でもなく、ただブラブラ歩く。
青いはずの空の色が、俺には暗いグレーに見えていた。
警察沙汰にまでなって、散々な人生。
いつの間にか、こんなに落ちぶれて……
俺を解雇したあのバカ会社のせいだ。
上司の奥さんと不倫したぐらいで。
あのクソ部長の奥さんが、俺を誘惑したんじゃないか。
それを、俺だけのせいにして。
腹いせにギャンブルして、借金。返済に困ってた時、柚葉の話をたまたま聞いてしまった。
あいつだけが玉の輿に乗って幸せになるなんて、なんか胸くそ悪い。
でも、俺の目論見は失敗に終わった。
強いと思ってた自分を、遥かに超えてきたあのイケメン野郎。
本当、こんな人生なんか、もう終わってもいい。
「お兄ちゃん、これ」
振り向くと小さなガキがいた。
幼稚園児か?
「何だよ」
「はい、これ、落としたよ」
俺の財布……
「あ、ああ」
「お兄ちゃん、カッコイイね! 強そうだし。僕もお兄ちゃんみたいになりたい! そしたら、ゆみちゃんに告白するんだ」
「ゆ、ゆみちゃん?」
「うん! 友達。僕……カッコよくないから、告白してもフラレるでしょ。だから、頑張ってカッコ良くなるんだ」
満面の笑みで俺を見る。
「頑張ったらカッコよくなれるのか?」
「なれるよ! ママが言ってたもん。お兄ちゃんも頑張ったからカッコいいんでしょ? 勉強とかスポーツとかたくさん」
頑張ってきたから……?
「俺……もっとカッコよくなれるか?」
「うん! お兄ちゃん、もうカッコイイけどね。でも、いっぱいいっぱい頑張ったら、もっともっとカッコ良くなれるよ!」
「そっか……だったら、どっちが早くカッコ良くなれるか……競走するか?」
「わーい! する、する! 負けないぞ。だって、ゆみちゃん、しょうたくんが好きだって言ってるから、早くカッコ良くなって告白しないとダメなんだ」
キラキラ目を輝かせてやがる。
こんな綺麗な目……
もうずっと長いこと見たことなかった。
死んだみたいな俺からしたら、この子の顔、めちゃくちゃカッコ良く見える。
「ゆみちゃんに告白して、両思いになれたらいいな。頑張れ」
「ありがとう! お兄ちゃんも頑張ってね! 約束だよ」
「あ、ああ。また、必ず会おうな。俺、頑張るから……」
嘘だろ?
俺、頑張るとか言ってる……
それに、これ……涙……かよ。
俺、泣いてるのか?
全く、何年ぶりだよ……
スキップで行ってしまった男の子の言葉で、俺は……自分の人生を一瞬にして変えられたのか?
ほんと、俺はバカだな。
まだ、よくわからないけど……
でも、ほんの少しだけ、何かに頑張ってみようかなって……
そんな小さな炎が、心に現れた気がした。
誰かからの着信。
「はい……」
昔の先輩から、仕事の誘いだった。
一緒にやらないかって……
こんなタイミング……
ありか……よ……
また、何ともいえない熱い思いが溢れた。
「あのガキ……。俺、負けないぞ。あいつに会った時、胸を張ってられるような人生……送らなきゃな……」
自然に湧いてくるこの気持ち――
これが、感謝の気持ち……なのか?
そんなもの、遠い昔に置き忘れていた気がする。
「もう一度だけ頑張ってみるか。柚葉、ごめんな」
ふと見上げたグレーの空は、いつの間にか……
澄み切った爽やかな青に変わっていた。